第215話 どエルフさんと試練

【前回のあらすじ】


 ついに北の大エルフとの謁見に成功した男戦士たち。

 しかしながら、ドワーフ男ことドエルフスキーから譲り受けた割符を使ったことが、彼に協力することを躊躇わせる結果となってしまった。


「だったら、割符の話は、割符の話で解決するとしよう」


 そう言って、怪しく笑う北の大エルフ。

 はたして彼は何を思い描いているというのだろうか。


◇ ◇ ◇ ◇


「割符のことは割符とは?」


「そういえば、これ、半分だけしかないわよね。もう、片方はどこにあるのかしら」


「うんうん、モーラ氏。それは実にいい疑問だ。そもそも割符というのは二つで一つ。合わせることによって効力を発揮するものだからね」


 一つだけでもこの塔をひっくり返すだけの効力を持っていたが、それはどうなのだろう。


 それはさておきとして、なんとなくこれから北の大エルフが口にするだろうことは、その楽し気なニュアンスから察することができた。


「ティト氏たちに頼みたいのは、ずばり、この割符の片割れの回収についてだ」


「割符の回収?」


「――やっぱり、そう来たか」


「いやはや、今回のような使われ方をされてしまってもこまるからね。きっちりと、もう一つの割符も揃えて回収しておくことにしよう」


「しかしそうなると、またドエルフスキーに会いに行かなくてはいけないな」


 おそらくドワーフ男は、北の大エルフとの謁見が楽になるようにと、それを貸し与えたのだろう。どうせ二つあるのだし、それならばという軽い感じで――と、男戦士は素直に今回の事態を推理した。


 女エルフも同じくだ。

 げんなりと、また、ここから遠い中央大陸に戻らなければいけないのかと、これまでの道程を思い押して、今にも死にそうな顔をしている。


 しかし。


「いや、ドエルフスキー氏は持っていないよ」


「「えっ?」」


 あっさりと、男戦士たちが導き出した割符回収の目処は、北の大エルフの愉悦に満ちた笑顔で否定されることとなった。

 これには、横でその推移を見守っていた、女修道士シスターもワンコ教授も思わず同じような驚きの声を漏らした。


「どういうことなんだぞ?」


「その割符をくれたのは間違いなくドエルフスキーだ」


「割符を渡した本人が、どうしてその片方を持っていないんですか?」


「――うん、二つ持っている必要がないからね。本来、この割符も、既に目的を終えて処分されるべきものだったのさ」


「処分?」


「まぁ、それについては追々。というより、僕はどうにも、そういうの説明するのが苦手でね。ほら、ピンクの熊の伝説に、おひれがついたりしたところから、そのあたり察してくれると助かるんだけれど」


 やはり、淫乱、の、予言については、後世のねつ造であったか。

 苦々しい顔を一人、被害を被った女エルフが浮かべる。


 そんな彼女のやりきれない思いとは別に、話は進む。


「どこにそれがあるか、どういう状況なのかについては――すでに啓示を得ているんだ。おそらくこの後も、意図しない相手の手にわたるということは万に一つもないと思うのだけれど」


「だったら、回収しなくてもいいじゃない」


「そこはほら、ティト氏たちに与える試練として、そこが適当な場所だからね」


 適当な場所とは。


 この人類未踏の北限の谷へと至るのも、なかなかに試練であった。

 だが、それよりも更に男戦士たちの実力を確認するのに適した場所が、この世界にあるというのだろうか。


 苦い顔が男戦士たちパーティ全員に浮かべば、はっはっは、と、また、北の大エルフがその様子を笑い飛ばす。


 いかんせん、この食わせ者の男エルフの本質に、どうやら、男戦士たちも徐々に気が付き始めた。


「割符のある場所は、ここより遠く離れた南の孤島――ショーク国にあるダンジョンの中だ」


「ショーク国?」


「聞いたことがあるんだぞ!! かつて中央大陸に小国群雄が割拠していた時代に、大陸から追われた王とその家臣たちが、南海を越えたどり着いた地があると!!」


「あまりに大陸から遠く、また、国力にも乏しいため、放置されている異郷の地でしたっけ。そんなところに、どうして、また」


「その追われた王と家臣たちが信奉していたのは――軍神ミッテルでね」


【キーワード 軍神ミッテル: 多神教のこの世界において、主に戦とそれに伴う兵器を司っている神。創成時代には蒼きくろがねの巨人を建立し、それを人に与えたもうたという。そのほかにも、魔法の国を建国してカイゼル髭の似合うパパを王にしたり、紅海の先にある島国の兵法集団レッドシャドウの秘奥をしたためたり、「甘○一番のり」「ここにいるぞ!!」という名言を残したりしている。すんごい】


「彼らはミッテルを崇めるために、その土地に大きな大きな塔を建てたのさ」


「そんな、あんな不毛な大地に――」


「そうなの?」


「ショーク国はその大半を砂漠と密林に覆われているんだぞ」


「特にその西側は砂の嵐によって容易に近づくことができないといわれています。そんなところに逃げ込めば、まぁ、普通は深追いしませんよね」


 砂漠に守られた国。


 砂の嵐が吹き荒れる国。


 密林の奥深くに隠された国。


 そして、そんな国の中にある軍神の塔。


 再び、正体の分からない嫌な感じが女エルフの背中を走った。

 なんだろうか、この第三部になってからの、露骨に著作権とかに触れそうなアレな感じは――。


「とにかく、この割符の片割れは、そのショーク国にあるとバビブの塔にある」


「――バビブの塔!!」


「バ○ブの塔ですか」


「なんて恐ろしい名前の塔なんだ。丸を入れるところを間違えるだけで、なんというか、とても大変なことになりそうだ」


 勝手に言っていろという感じに、女エルフが能面で男戦士の話を無視した。

 いちいち伏字遊びになんぞ付き合っていたらきりがない。


 と、そんな女エルフの態度が気に入らなかったのだろう。


「バ○ブの塔なんだぞ、モーラさん!! 大丈夫なのかモーラさん!! 間違えて、真ん中の文字を言ってしまったら、大惨事になるんだぞう!!」


「そう思うなら、バビブ、バビブ連呼するな」


 エロい言葉を覚えたばかりの子供か。

 いつものように、さげずみの視線を男戦士に向ける女エルフ。


 そんな女エルフを無視して、男戦士と女修道士は二人してシリアスな表情で顔を見合わせるのだった。


「やはりそそり立っているのでしょうか」


「真ん中あたりで反るようにして歪んでいるのかも」


「入口のところが盛り上がって」


「塔の最上階が少し膨らんだ感じに」


「見もしないうちから卑猥な想像するな!! もうっ、よそでやりなさい!!」


 二人の頭を後ろから魔法杖でたたいて制裁する女エルフ。

 何がどう卑猥なんだ、と、男戦士は女エルフ抗議したが、もちろん、それは言うまでもなかった。

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