第178話 ど革命軍とど正規軍

【前回のあらすじ】


 ついに男戦士と合流した女エルフたち。

 第一王女からの依頼を受けて、ヨシヲたちレジスタンスは女王の呪いのスケベ下着を手に入れるのに協力することを誓うのであった。

 しかし、それもつかの間、王都で巨大な爆発が起こるのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


 場所は変わって王都。

 潜伏していたレジスタンスの兵たちが一斉に蜂起し、突如として市街戦へと持ち込まれたそこは、まさしく地獄の様相となっていた。


 急きょ、通路に盾を展開して、弓矢で応戦する正規軍であったが、隘路や家の屋根を伝って進軍するレジスタンスたちをまともに駆逐することもできない。

 仕方なく兵を一極集中、狙いである王城の前へと兵を展開させると、正規軍の指揮官はため息を吐いた。


「まったく、なんて奴らなの。まるでゴキブリみたいに、方々から這い出て来て。ほんと、男って野蛮よね」


「指揮官どの!! 前方から、二名、レジスタンスの兵と思われるものが!!」


「矢の雨をお見舞いしてやりなさい!! ここは絶対、どうやっても死守するわよ――」


 構え、撃て。

 二呼吸で、王城前の広場に矢が飛び交った。

 ずらり並んだ兵の数は二百人。盾の後ろに構えた彼らはそうして、王城へと入ろうとしたレジスタンスの兵を、ここで一網打尽にしてきた。


 死屍累々、倒れるレジスタンスの男たち。

 今回もまたその死体が増える――そのハズだった。


「集団戦法ってのはよう、数の暴力ってのはよう、残酷だよなぁ。個人をあんまりに無視していやがる」


 そう言い放ったのは、先頭を行く紅いフードのついた外套を羽織った男。


 レジスタンスの用心棒、エドである。


 彼は飛んでくる矢を前に微動だにせず、腰に佩いていたショートソードを抜いた。

 全身が刃こぼれし、黒く焦げ付いているそれが抜かれるや、ぼーん、と、管弦楽器を噴いたような大きな音が辺りに満ちる。


 なんだと思った時には、矢の雨を、その男のフードと同じ紅色の炎が包んでいた。


「ははっ、しかしよう、世の中にはたった一人で戦略単位となりうるような、バケモノってのが、数える程度にはいるもんだぜ」


「くっ――第二陣、用意!!」


「させねえよ!!」


 再び火を噴く紅いフードの男の剣。

 先ほどまで刃こぼれしていたその刀身は、吹き出る炎によって大剣と化し、その切っ先は一振りで、広場に展開されていた盾を切り裂いた。


 鉄製の丈夫なそれらが、まるで、紙切れでも切ったかのように二つに割れる。


 ひぃ、と、後ろに構えていた女兵士たちが悲鳴を上げた。

 自分たちを守っていたものがなくなり、丸裸にされたのだ、無理もない反応である。


 そんな女たちの反応を楽しむように笑い飛ばして、紅いフードの男――いや紅い魔法戦士は、邪悪な笑みを浮かべたのだった。


「おらっ、逃げろ、泣きわめけ、命乞いしろ!! 楽しい虐殺の始まりだ!!」


 紅い魔法戦士の恫喝に、わぁ、と、悲鳴が立ち込めた。

 それで完全に指揮系統は崩壊、止める指揮官の声も聴かずに、女兵士たちは方々へと逃げ出してしまった。


 そんな彼女たちに向かって、容赦なく、背中から炎の剣を見舞う紅い魔法剣士。


「くそっ!! 貴様、卑怯だぞ!!」


「卑怯!? 力のねぇてめえらが悪いだけだろう!! この世は弱肉強食よぉ、無理くりこの国の男たちを力でねじ伏せておいて、なに寝言こいてやがんだぁ!? 馬鹿か、馬鹿なのか、この国の女どもは!!」


「くっ、このぉっ――くたばれ、この外道!!」


「遅えし、ダセえし、なっちゃいねえよ!! 死になァ!!」


 紅の魔法剣士の炎の刃が、指揮官の頭から下まで走る。決して、その物理的な刃の部分は当たっていないというのに、炎を浴びせかけられた彼女は、真っ二つに割られて絶命した。


「いや、いやぁああああっ!!!」


 剣の腕前や弓の腕前に秀でているからこその指揮官である。

 そんな人物のあまりにあっけない死に、さらなる狂乱が女兵士たちの間に広がる。


 もはやその場は地獄絵図。

 燃え盛る、炎の中にげたげたと紅の魔法剣士の笑い声がこだましていた。


「エドどの、これは、ちょっと、やりすぎでは。我々の目的は女王を倒しての革命です。悪戯な、虐殺ではないのですぞ」


 そう言ったのは、彼と共に広場にやって来たサンチョだ。

 レジスタンスの副リーダー、そのはずの彼の顔は、狂乱する女兵士たちと同じく、あまりすぐれたものではなかった。


 エドの作り出したこの地獄の光景に驚愕している。

 ここまでのことをするつもりは、彼にはなかったのだろう。


 しかし。


「サンチョよぉ、お前も、燃えてみるかぁ」

 

 既にことは始まってしまった。思えば、この男を革命軍に引き込んだ時から、既に、引き返せぬ状態になっていたのだ。


 顔をみるみると青ざめさせ、紅い外套の魔法戦士の背中を眺めながら、いえ、と、レジスタンスの副官は消え入るような声を発した。

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