第174話 第一王女さまと決断
【前回のあらすじ】
白百合女王国の先王シャルルと元相棒の関係だった男ドワーフ。
彼は、亡き相棒の遺言に従い、暴政を敷く女王陛下をいさめるべく、戦うことを表明したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
一方そのころ。
場所は白百合女王国の王城。第一王女の執務室。
そこに、男戦士を失ったパーティ一行と、なんだかんだで面倒見のよい船長、そして部屋の主である第一王女が集まっていた。
議題は二つ。
一つは、ドエルフスキーによって連れ去らわれた、男戦士をどうするか。そしてもう一つは、スケベ下着により操られている疑いのある女王陛下――彼女をどうするか、ということである。
「まさか、こんなことになるだなんて。お姉さま、申し訳ございません」
「――いや、なんというか、謝るのはこっちというか」
「だぞ、あんなアホなやり取りみせて申し訳ないんだぞ」
「後でティトさんにはキツく言っておきますので」
下着にあてられて変態化したのみならず、処刑場での意味の分からないあのやり取り。流石に、女エルフも、
しかし、第一王女の口から出てきたのは、予想だにしない言葉であった。
「とんでもないです。あのお方――ティトさまでしたっけ。お姉さまのパーティのリーダーさまは、とても偉大なお方です」
「いや、そんなことは――絶対にないわよ」
「ないですね」
「ないんだぞ」
そんなことはありません、と、なぜか男戦士をよく知らない第一王女の方が憤慨する。どう考えても、あのような変態に立派なところなどない。
いやまぁ、長く付き合っていれば、いいところの一つくらいは見つかるものだが、それでもあの会場で彼がやってみせたことは、控えめに言って最悪だった。
何が「エルフ垣死すとも、エルフは死せず」だろうか。
意味が分からない――というのが、女エルフたちの総意である。
しかしながら、その言葉が、第一王女の心の琴線に触れていた。
「かのエルフ民権活動の大家、エルフ垣の言葉を最後に読み上げるなど――真にエルフを愛する者にしかできぬ芸当です。あのお方は、まさしくエルフを深く愛しておられるに違いない」
「それについては否定しないけれど。えっ、もしかして、フォローするのそこなの」
「同じエルフを愛す者――エルフメイトとして、最後の最後までエルフへの信仰を捨てなかった彼の行いは称賛するべきことです。あぁ、なんて素晴らしいのでしょう」
お姉さまも、あのようなお方がリーダーで、さぞお助かりでしょう、と、屈託のない笑顔を女エルフに向けてくる第一王女。
どういう顔をしていいかわからず、女エルフはまぁねと言うと、キラキラの彼女の顔から視線を逸らしたのだった。
言えるわけがない。毎日迷惑しかかけられていないと。
ことあるごとに、流石だなどエルフさん、さすがだと、変態扱いされているなんて。
トホホと呟きたいのをこらえて、彼女は話を元に戻した。
「それより、ティトの行き先だわ。いったい、どこに消えたのかしら」
「やはりあのまま、レジスタンスに合流したのではないでしょうか」
「だぞ。革命に巻き込まれてしまったんだぞ」
「だとしたら、彼らのアジトのあるジューンヤマかもしれませんね。一度、使節を送ってみるのもいいかもしれません」
流石に警察権を握っているだけあって、第一王女はレジスタンスの行動を把握していたらしい。あえて、それで動かなかったのは、彼女なりの思惑があったからだろう。
どうも男が憎くて仕方がない、女王陛下と違って、第一王女はそこまでの苛烈さはないようだ。
最初は女装した男戦士を破廉恥であると処刑しようとした彼女だが、どうも話せばわかる余地はあるようだ。
それがわかってなんだか安心したような、さりとて、どちらかというとそれ以外のことが目に入ってきて、逆に怖いというか。
やっぱりエルフ好きを公言する奴には、頭の悪い奴しかいないのではないか、なんてことが、女エルフの頭を過った。
「レジスタンスの方々とも、もう少し話をしてみないと。母がもし、あの下着に本当に心をうばわれているのだとしたら。ここ最近の男たちに対しての苛烈な圧政は、そのせいかもしれません。ならば、彼らの力を借りてでも、母を正気に戻らせる必要があります」
「あえて協力関係に持ち込むというのね」
「レジスタンスが現れるということは、国が乱れているということ。本来、取り締まるのではなく、話し合うことが必要なのです。けれど、母上の手前、それを言い出すことができませんでした」
弱い人間で申し訳ない、と、かしこまる王女。
そんな彼女に歩み寄ると、女エルフは優しくその肩に手を載せた。
お姉さま、と、彼女のうるんだ瞳が、女エルフを見る。
「分かっているわ。貴方もつらい立場だったのね」
「――はい」
「なら任せてちょうだい。大丈夫、アンタがべた褒めしたあの馬鹿は、馬鹿は馬鹿でもとびっきりの馬鹿だから」
あれが本気になったら、ぺぺロペの魔法異物くらい、ちょちょいのちょいよ。
そう言って、彼女は妹と呼ぶ王女の肩を抱いたのだった。
「あぁ、お姉さま、なんてお優しいのでしょう」
「革命軍との交渉は私たちに任せて。貴方はこれ以上、あなたのお母さまがおかしなことをしださないように注意してちょうだい」
「分かりました!! お願いします、お姉さま――」
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