第七章 嵐を呼ぶ!! 紅の仮面騎士!!

第167話 どエルフさんとどフードさん

【前回のあらすじ】


 広場で磔にされる男戦士とヨシヲ。

 そこにヨシヲが率いるレジスタンスのメンバーが姿を現す。


 しかしながら彼らは、ヨシヲの姿を確認するとすぐさま広場を去っていったのだった。その中の一人、赤い外套を着た謎の用心棒、エド、が、男戦士たちに叫ぶ。


「悪いな大将。俺たちは、穏健派のアンタの生ぬるいやり方にはついていけないんだ。捕まったのが運の尽きだったな、悪いが、勝手にくたばってくんな」


◇ ◇ ◇ ◇


 状況を整理するまでもない。

 男戦士、いや、ヨシヲはレジスタンスのメンバーに、見捨てられたのだ。


 その事実を把握するまで、ヨシヲはしばらくの時間を要した。

 無理もないことだろう。単身、敵地に乗り込んでの作戦活動の末、仲間に裏切られたのだ。


 志がどうのこうのと、そういう問題ではなかった。

 ブルー・ディスティニーの二つ名のとおり、みるみると青ざめていく顔を眺めながら、男戦士はやりきれない気持ちでそれを見つめていた。


「馬鹿な、俺が、見捨てられただと。サンチョ、これは、どういう」


「お前がいない間に、過激派がレジスタンスの主導権を握ったということなのだろう」


「そんな。しかし、サンチョがいながら。彼は俺と同じで、無血革命の賛同者だった」


 その副リーダーも、ヨシヲのことを一顧だにせず去っていたところをみると、どうもこの裏切りには深い意図があるように男戦士には思える。

 おそらく、副リーダーは最初から、強硬派とつながっていたのではないか。


 組織において、知力によって立場を確立するものというのは、驚くほどにその辺りの勘がよく働くものである。

 彼は、ヨシヲがいるときは主流派であった、無血革命の派閥に所属しながら、一方で、彼らに抑え込まれている強硬派とも誼を通じていた――。


 そして、このヨシヲの不在をいいことに、ヨシヲを排そうとした勢力に取り込まれる――あるいは加担する形で、彼を裏切ったのではないか。

 同志とする人間を間違った。自分がもし、早く彼と出会えていたならば、と、男戦士は悔し涙を流す、ヨシヲを眺めて顔色を曇らせた。


「はははっ、ようやく死ぬのが怖くなってきたか。この変態男め」


「そのみすぼらしいパンツにお似合いの最後だな」


 男泣きに暮れるヨシヲ。そんな彼に心無い言葉を浴びせる女兵士たち。

 思わず男戦士はそんな彼女たちを殺気のこもった目でにらみつけたのだった。


 ひぃ、と、彼女たちがすくみ上る。処刑する立場にあるにも関わらず、女兵士たちは、そそくさと男戦士たちの前から姿を消した。


「ティト、俺は、もう駄目だ」


「あきらめるな、ブルー・ディスティニー・ヨシヲ。お前は、青い運命に導かれた、選ばれし勇者なのだろう」


 こんなところで、その運命が終わるはずがない。

 男戦士は、自分の身のことなどいっさいを棚に上げて、ヨシヲにそんな言葉をかけた。


◇ ◇ ◇ ◇


 一方その頃、女エルフたちは、処刑を見物するために集まった人々の間を縫って、レジスタンスのメンバーを探していた。


 一目見れば、彼らが常人でないことは分かるはず。

 女エルフと女修道士シスター、そして、たまたま付き合ってくれた船長の三人で、人の波をかきわけて探すのだが――。


「ダメ。それらしい人が、一人もいない」


 レジスタンスのリーダーを助けようと、武器を用意しているような姿はどこにもない。この手の場面であれば、普通、助けられないにしても、彼を慕った同志たちがかけつけるものなのに、そういう気配すらない。


 あるいはよっぽど人望のないレジスタンスのリーダーなのかと、女エルフが訝しむ。だとしたら、彼らと協調してティトを救うなど夢物語である。


 こうなったら一人ででも、処刑場に飛び込んでティトを助ける――。

 そんな覚悟を彼女がふと決めた時だ。


「――あいて!?」


 たまたまた、人ごみの中を、逆方向――広場から離れる方向――に移動していた相手と、鼻頭からぶつかってしまった。

 すぐに人の波に押し返されて、体勢を立て直したが、双方、そこそこの速度でぶつかったために、あいてて、と、妙な間ができる。


 構っている場合ではないのだろうが、ぶつかってしまったのは事実だ。

 どちらともなく、ごめんなさいと謝ろうとして――ふと、二人はお互いの姿に見覚えを抱いて固まった。


「――あなた、確か、闘技場にいた」


「――あの時のスケベエルフ」


 誰がスケベエルフよ。

 そう憤慨する彼女の前に立っていたのは他でもない。黒いフードを被った、同じく、黒ずくめの騎士のパートナーであった魔法使い。


「たしか、アリエスだったわよね」


「――そういう貴方は、オモーラ、だったかしら」


「あ、懐かしい。そのネタ、だいぶ昔にやったわ――って、こらぁっ!!」

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