第136話 どオークさんとけじめ
【前回のあらすじ】
オークの傭兵団の拠点へとたどり着いた男戦士たち一行。
囚われている近隣の村に住んでいるオークを救うべく、女オークと男オークは彼らが集められている倉庫へと近寄ったのだった。
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無事に倉庫の前へとたどり着いた女オーク。
彼女が、男戦士たちの居るほうを向いて合図を送る。男戦士と女エルフが頷き返したのを確認すると、彼女は倉庫の扉を開けた。
倉庫に差し込んだ光に、中に居たオークたちがぱちくりと目をしばたたかせる。
「助けに来た。すぐにここから脱出するんだ」
そう言ったが、倉庫の中のオークたちの反応は冷ややかだ。
それも仕方ない。なにせ彼女は武装オークのメンバーなのだ。その言葉をそっくりと信じられる訳がない。
加えて彼女はエルフが混ざっているハーフオークだ。
その反応の冷やかさに、くっと、彼女は唇を噛んだ。
「なにをしているんだ!! せっかく助けが来ているんだぞ!! このまま、ここのオークたちの奴隷にされても構わないのか!!」
「そんなこと言ったって」
「良いから早く逃げるんだァ!! もうすぐ、ティトさんたちが外のオークどもを攻撃する!! 巻き込まれたらおしめえだぞ!!」
女オークの後ろから声を上げたのは男オークだ。
彼女と違って純粋なオークである。加えて、デスクワークが主とはいえ、土木仕事を生業としていただけあって、その体格は逞しい。
見た目的には満点のオークだ。そんな彼が言うならば、と、のそのそと、捕らえられていたオークたちはそこから動き始めたのだった。
横をすり抜けていくオークたちを見送って、ふぅ、と女オークが息を吐く。
「一緒に来た甲斐があったな」
「んだべなぁ。お役に立ててよかっただ」
少し照れくさそうに笑う男オーク。
その時、外に大きな爆発音が響き渡った――。
「どうやら、始まったらしい」
「オラたちも急いで脱出するべ」
「いや、私は傭兵団に所属していたものとして――略奪を行った者としてけじめをつけなくてはいけない」
肩に担いでいた弓を手に取り、矢筒から一本矢を抜いた女オーク。
男オークに寂しくほほ笑むと、彼女は彼を残して倉庫の外へと飛び出したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
流石に女オークの弓の腕は確かだった。
毒の塗られたその矢を受けて、ばったばったと、傭兵団のオークたちが倒れていく。
彼らは、仲間のはずである彼女の弓を引く姿に、一瞬攻撃を躊躇する。その隙を確実に狙って、女オークは多くの荒くれどもの息の根を止めてきた。
弓を打つ傍ら、彼女は男戦士たちの活躍に時折目をやった。
流石は自分たちの部隊を瞬く間に壊滅させた男戦士。
次々に襲い来るオークたちの攻撃を、かわしては急所を突いて、かわしては急所をついてと、一切の無駄のない攻撃で彼らを次々に仕留めていく。
急所――臓器を貫かれ致命傷を負ったオークたち。
なんとか動こうとするものもいるが、そいつらも女エルフの魔法にやられて灰塵と化していく。そこに時々、ワンコ教授が倒れたオークの頭をハンマーで殴りつけたり、
よいパーティだとは思う。だが、なんといっても、やはり男戦士だろう。
「あのバケモノじみた力は、いったいどこから」
そう怪訝に彼女が思った時だ。
「てめぇ、ミミズク!! 裏切りやがったなぁっ!!」
森に響き渡りそうな怒声があたりに響いた。
村落の中にあった一番大きな館――その中に控えていたそいつは、傭兵団をまとめあげる団長。オークにしても、一回り大きい体躯、そして、背中に二つの角が描かれたタトゥーを持った男オークであった。
「しかも、変な人間どもを村に引き入れやがって!!」
「悪いな団長。私は今日より、この傭兵団から足を洗わせてもらう!!」
「ふざけんな!! せっかく可愛がってやってたのに、恩を忘れやがって!!」
「――可愛がってねぇ」
殴る蹴るがそのうちに入るなら、弓を打つのもそのうちだろう。
そう叫ぶや、女オークは団長へと向かって、猛毒の塗られた弓矢を撃ち込んだ。
命中した。
ティトの時と違って、しっかりと、その胸にそれは刺さったはずだった。
だが――。
「――ぐははっ!! 効かねえなァ、効かねえぜ!! お前みたいな半端者の攻撃なんざ、俺様にはなァ!!」
オークの団長は毒の矢を胸から抜くと、ぐははと笑う。
そうして、一気に女オークとの間合いを詰めると、彼女に向かって、背中に担いでいた巨大なハンマーを振り下ろした。
「あぶねぇ!!」
咄嗟に女オークをかばって、後ろから突き飛ばしたのは男オークだ。
体勢を崩しながらも、そのハンマーの軌道上から、何とか二人は逃れることに成功した。
しかし――空振り、地面を穿った団長のハンマーは大きく土を抉る。
まるで隕石でも落ちたかのような、大きな大きなその穴に、ぞっと冷たいものが、女オークたちの背中に走った。
「ちぃっ、すばしっこい奴だ。だが、次はねえぜ」
「次がないのは貴様だ」
ふと、その時、団長の背中で男らしい声がした。
剣を正眼に構えて立ち尽くすのは――あらかたの傭兵オークを倒しつくした、男戦士であった。
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