第三章 隻眼いぶし銀ですがロリというだけで台無しのビクター

第117話 どエルフさんとヒッチハイク

【前回のあらすじ】


 モーラは南の国へとおもむく、キャラバンをヒッチハイクすることになった。

 はたしてそのどエルフ力でキャラバンの隊長のハートを射止めることができるのか。

 そして、まことしやかに語られる、どエルフ力とはいったい何なのか――。


====


「隊長。前になんだか変なエルフが立っていますが?」

「変なエルフ?」


 キャラバンの先頭車両。

 羊毛の入った袋をベッド代わりに寝転がっていた商隊の隊長――隻眼せきがん髭面ひげづらをした熊みたいな大男――は、御者の言葉に起き上がると馬車の荷台をおおっているほろをめくった。

 横着おうちゃくしないでくださいよと文句を言う御者ぎょしゃの横に座った彼は、御者台ぎょしゃだいへと座るとどれがそれだと隣の部下にたずねる。


 ほら、あれですよ、あれ、と、指さしたのは――男戦士たちの居る門の前だ。


 その門のちょうど中央。

 大の字に手を開いて、私はしにましぇーん、という感じに立っているのは、彼らのパーティーがほこるどエルフであった。


「何がどう妙なんだよ?」

「いや、見てくださいよ――エルフのくせに、まったく乳がありやせんぜ」

「――なるほど、確かに、エルフのくせに胸がないとはみょうな話だ」


 どういう理屈りくつなのだろうか、とにかく、そんなどうしようもない理由りゆうで、商隊の隊長は後ろに続いている馬車に向かって、減速の命令を出したのだった。


「どうします?」

「まぁ、見たとこ冒険者だろう。途中まで乗せていってくれってところじゃないか」

「乗せるんですか?」

交渉次第こうしょうしだいかな」


 よっ、と、荷台から飛び降りた。


====


「あっ、ちょっと、キャラバンが減速げんそくしたわ!!」


「おぉ!! すごいじゃないかモーラさん!! 流石はどエルフ力、一千万のモーラさんだけはある!!」

「これがモーラのどエルフ力なのか――なんだぞ!!」

「恐ろしい、どエルフ力――まさかこれほどのものとは!!」


「ちょっとみんなふざけないで!!」


 一方、パーティーメンバーの無茶むちゃぶりに、身を投げ出して馬車を止めようとした女エルフたちは、減速した商隊の動きににわかにいろめきだった。


 が、すぐにこちらに向かってやってきた男の姿に、その喜びは消えた。


「な、なにかしら」

「もしかして、進路しんろ妨害ぼうがいしたから、怒ってるんじゃないのか、だぞ」

「なんか見るからに怖い感じの人ですね」

「まぁなんといっても危険きけんなキャラバンの隊長だからな。野盗崩やとうくずれれか、あるいは冒険者のOBか、そのどちらかだろう」


 けろっと言ってのけるのは男戦士。

 彼はいうなり、ごく自然な所作しょさで女エルフの前に、彼女を守るようにして立った。


 すぐさま、女エルフが彼の背中に回り込む。


「――なんだい、こぶつきの女エルフか」


 顔を合わすなりそんな失礼なことを言う商隊の隊長。

 そんなんじゃないわよ、と、言い返そうとした女エルフを、男戦士が制した。


「ティト」

「モーラさん。君が言いたいことは俺がよくわかっている」


 そう言って、男戦士は髭面ひげづらの隊長をぎろりとにらみつけた。


「おい、お前、言葉には気を付けろ」

「――あん? なんだてめえは、やけに生意気なまいきな口をくじゃねえか。小僧の分際で」

「年齢なぞ関係ない。世の中には言っていいことと悪いことがあるんだ――貴様は、その一線をえてしまった」

「だったら、どうするって言うんだ」


 そう言って男戦士がにぎりこぶしを造る。

 髭面ひげづらの隊長が何も言わずに、腰にびてていたショートソードの柄頭つかがしらの上に手を預けた。


 一触即発いっしょくそくはつ


 一瞬、男戦士の方が早く動く。

 その思いがけず素早い目の前の戦士の挙動に、確かな実力差を感じた髭面ひげづらの隊長の顔色がかげる。それでも、なんとか剣を抜いた次の瞬間――。


 男戦士は、女エルフの胸をなぜか揉んでいた。


「これはコブじゃない!! 小さいながらもおっぱいだ!!」


「――な、なにやってんのよ!! あんたは!!」


 げしり、と、女エルフの会心かいしん一撃いちげきが男戦士の頭に炸裂さくれつする。

 コブにコブができる予想外の展開に、商隊の隊長は目をぱちくりとさせたのだった。

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