第115話 どエルフさんと息抜き
【前回のあらすじ】
ややあって、男戦士たちはオークの嫁探しを手伝うことになったのだった。
====
オークの名前はパドンと言った。
男戦士たちが依頼を受けた翌日、彼は旅支度をして彼れらが
「――ずいぶん大荷物ね」
「一週間分の着替えと食料。あと、移動中に役所の
ワンコ教授よりも余裕で大きい男オークのナップザック。
男戦士よりもさらに背の高い彼がそれをおぶさる姿を見上げながら、ほへぇ、と、女エルフたちが
しかしながら、男戦士だけが、むぅ、と眉をしかめる。
「ダメだパドン、そんなに大荷物持って旅をすることはできない」
えぇ、と、
まぁそうよねと、女エルフが納得した表情をする。そんな彼女の前を男戦士は通り過ぎると、男オークに対面してナップザックをその場に下ろすように言った。
「まずは服だ。一週間分は多すぎる。そんなものは二着もあれば十分だ」
「けど、それだと一日で洗濯しなくちゃならねえべ」
「そもそも冒険中に着替える必要がない。基本、旅から帰って来るまで、俺たちは服を着替えないのが普通だ」
やむを得ない事情で、服が破損したときなどを考えて、予備の服くらいは持っているが、基本、わざわざ着替えを持ち歩くようなことは彼らはしていない。
このあたりは、街で文明的な生活をしている男オークには分からない話だろう。
「すると、何日もパンツをはきっぱなし」
「そうだ!! 俺も、モーラさんも、コーネリアさんも、ケティも、パンツはきっぱなしだ!! 蒸れ蒸れだ!!」
「いちいち言わんでいいわよそんなこと!!」
べしり、と、男戦士の頭を女エルフが杖で叩いた。
ちなみにそうは言ったが、女エルフたちは魔法でこっそりと下着は洗濯している。
男戦士はそれが普通だと思っているのと、洗うのに勇気が居るので言っていないが――。
それはともかく。げげ、不潔、と顔をしかめる男オーク。
そんな彼にこれが普通なんだよと強弁して、男戦士はカバンの中に手を突っ込む。
取り出したのは食料――ニシンの缶詰である。
「これは?」
「オラ、ニシンが好物なんだべ。缶詰だったら日持ちするし、ええかなと思って」
「一個二個ならいいだろう。しかしながら、こんなに大量持って歩いても重たいだけだ――これも置いていけ」
「そんなぁ!!」
「旅の食事はかさばらないものに限る。干し肉だとか、干しイモ、あとは豆だな。足りないものは
なに、街の外には結構食べれるものがある、と、訳知り顔で言う男戦士。
流石に今日は頼もしいですねと、
また、男戦士が難しい顔をしてカバンの中に手を入れる。
出てきたのは――昇任試験の勉強用にと持ってきた、参考書。
これは――とつぶやいて、そっと彼はそれを鞄の中にもどした。
いやいや、と、女エルフが待ったをかける。
「なんで戻したの。それ、一番要らない奴でしょう。旅しながら勉強なんて無理に決まっているじゃない」
「モーラさん。人間にも、オークにも息抜きって必要だと思うんだ」
「息抜き?」
そう言って男戦士はおもむろに、自分の
そこから出てきたのは――オークと同じく本であった。
と、同時に、女エルフの白い顔が、真っ赤に真っ赤に染めあがる。
無理もない。なぜならその本は、彼女の秘蔵の小説だったからだ。
「ちょっと!! だから!! なんでアンタが私の本持ってるのよ!!」
「『女騎士団長とやんちゃ新兵のどきどきラブレッスン。お姉さんが君の立派な剣の扱い方をおしえてあげる』。モーラさんの本にしては、こう、まっとうな感じがしたのでお借りしたのだが――控えめに言って最高だった」
「そうそう、ちょっとイキってる感じの少年兵を、
返しなさい、と、男戦士に飛びかかる女エルフ。
いやだ、まだ全部読んでないんだい、と、それをがっちりつかんで離さない男戦士。
途端、いつものやりとりになって、どうしていいか分からないオークに、優しく女修道士が肩を叩いた。
「まぁ、本くらいは好きなものを持っていけばいいと思いますが、気楽なのにしておいたほうがいいと思いますよ。この通り、変なストレスが溜まるものですから」
「はぁ、そんなもんだべか――」
返せ、いやだ、と、ぐるりぐるりと輪を描いて駆けまわる女エルフと男戦士。
そんな二人をなまめかしい目で、旅の仲間はみつめるのであった。
「ライバルの、女魔法使いが俺的には好みなんだ、おっぱいが大きくて、ちょっとサドっ気があって。お気に入りなんだよぉ」
「うっさい、お前の性癖なんぞどうでもいいのよ!! はよ、かえしなさい!!」
「モーラさんはあれなんだろ、生意気だった新兵くんが強気になって、逆に迫るシーンが好きなんだろう!! そこのところだけ妙に折り目が!!」
「うがー!! だから、そういうのばらすなって言ってんでしょーが!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます