第105話 どエルフさんと二人部屋

「なんだか久しぶりに二人で部屋とったわね」

「そうだなモーラさん。最近は四人部屋でとることが多かったからなぁ」


 ギルドの依頼で遠征した帰り。たち寄った村で、例によって四人部屋がすべて埋まっていると告げられた彼らは、二人づつに分かれて泊まることになった。


 女修道士シスターとワンコ教授。

 そして女エルフと男戦士という組み合わせだ。


 女修道士シスターがパーティに加わるまでは、自然に二人で部屋をとっていたので、別段とくに深く考えることもなく女エルフはこの部屋割りを受け入れた。

 だが、いざこうして――肩を並べてベッドに座ってみると、少し様子が違った。


「――どうしたんだモーラさん? なんだか妙に静かだけれど?」

「えっ、いや!? 別に、でもないわよ。なんでも」


 と言いつつ、妙に男戦士を意識いしきしてしまっている自分に気づく女エルフ。

 二人で旅していた時はどうだったかしら、と、彼女は少しばかり昔の記憶に思いを馳せた。


 別にその頃は緊張するようなことなんて何もなかったように思う。

 男戦士のことをよく知らなかったから、ということもあるだろうが。かといって、今にして、彼をよく知ったところで緊張するような要素があるかといえば――言っちゃ悪いがないはずだ。


 なんといっても、やることなすこと全部間抜けの男戦士なのである。


 しかし、この妙な緊張はいったいなんだろうか。


 その時だ、ふと、女エルフの肩に男戦士の指先が伸びた。


「はにゃっ!?」

「うぉっ、びっくりした」

「いや、びっくりしたのはこっちよ!! なによいきなり、どういうつもり!!」


 びっくりして立ち上がった女エルフは、きょとんとした瞳で見つめる男戦士。

 疲れているだろうから、肩でももうかと思ってという彼の表情には、女エルフがおどろくようなよこしまな感情は感じ取れなかった。


 まったく。

 こいつがそういう奴じゃないっていのは、さんざん迷惑かけられている自分が、一番よく知っているのに、と、女エルフはため息をつく。


 何をきばっていたのだろう、と、彼女は落ち着いた表情で彼の隣に座りなおすと、黙ってその背中を向けた。


「お願いするわ。久しぶりに、あんただけのおもりですむから、今日はこってなさそうだけれど」

「――なんだいそれ」


 笑って男戦士の手を受け入れた女エルフ。

 いつもは辛辣な彼女の口から、あぁ、そこそこ、と、気持ちよさそうな声があがるまで、そう時間はかからなかった。


「モーラさん、もうちょっと声をおさえて。そんな色っぽい声を出したら」

「しかたないじゃないのよ、気持ちいいんだから。あぁ、もうちょっと、強くお願い」

「むぅ、しかたないなぁ――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る