第84話 どエルフさんと身代わり

【前回のあらすじ】


 男戦士扮する熟れ熟れの熟女エルフ『エルフィンガー・ティト子』の活躍により、見事ハーフオークをだますことに成功した男戦士たち。


 エルフさらいの親分とお見合いするという約束で、彼らはそのアジトへと向かうことになったのだが。


====


「んが。随分大所帯で行くことになったんだな。この残念エルフも連れていくのか?」


 残念、という言葉に、「残念なのはお前の頭の方だろう」と、殴りかかろうとした女エルフを、女修道士シスターが止める。

 今にも殴りかからんという勢いを見せる女エルフを指さして不安そうにするハーフオークに、ふふっと、エルフに扮した男戦士は不敵な笑みを返した。


「えぇそうよ。だって、お見合いですもの。ちゃんとしたエルフの仲人が必要でしょう」

「んがぁ、確かにそうだなぁ。お見合いだものなぁ。おめえさん、頭もいいんだなぁ、すごいんだなぁ」

「ふふっ、なぁにちょっとこういうのに慣れているだけよ。こういうのにね」


 いかにも訳ありの女という感じで、作り物の乳を抱えながら物憂げに地面に視線をやった男戦士。

 その男戦士をすっかりとエルフだと信じ切って、素敵なんだなぁ、と、ハーフオークは相変わらず褒めちぎった。


 その様子の面白くなさに、また、女エルフの握る拳に力が入る。


「まぁまぁまぁ、落ち着いてください、モーラさん」

「ほんと、こいつも、ティトも、後で覚えておきなさいよ――」

「あと、私も同行しますわ。もし出会って五秒ですぐ合体結婚となったときに、シスターがいたが方が何かと便利でしょう?」

「僕もいくんだぞ。結婚式のあいさつに、友人代表がいないと場がしらけるんだぞ」


 んがぁ、それなら、仕方ないんだなぁ、と、なにやら納得した感じでうなづくハーフオーク。

 それじゃ行くんだなぁ、と、立ち上がって彼はいそいそと公会堂の玄関から出た。


 と、そんな間抜けなオークの背中を追って歩き出す、男戦士パーティ。

 去り際、後から追いつく予定の、暗黒騎士と勇者に目配せをすると、四人はオークに連れられて夜の荒野へと向かったのだった。


「結局、アジトはどこにあるの」

「東北の洞窟なんだなぁ。あそこは、ドエルフスキー様の巨体でも、くつろげるサイズなんだなぁ」


 巨体という言葉に女エルフの耳がぴくりと動く。

 ドエルフスキーという名前こそ分かったが、そいつがいったい何者なのか、ここにいる四人はもとより、誰もわかっていないのだ。


 ダークエルフとハーフオーク。

 その二つを力づくで従える、エルフさらいの頭領とは、いったいなにものなのだろうか。


「巨人ですかね。それとも、ドワーフでしょうか」

「オークということも考えられるぞ。いや、案外ノッポのエルフという可能性も」

「鬼人族や獣人族ということも考えられますね。ミノタウロスみたいなのが出てくるかも」


 うんうん、と、思いを巡らす女修道士とワンコ教授。


 そんな二人をよそに、心配そうに男戦士の背中を見つめたのは女エルフだ。


 自分が身代わりになる、そう言った手前男戦士に任せてはみたが、危険な仕事である。

 おそらく、この知能の低そうなハーフオークは騙せたとしても、当のドエルフスキーは騙せるとは思えない。

 会った瞬間即合体結婚どころか、即戦闘になるのは明白だ。


「ティト。やっぱり、やめましょうよ。貴方の身が危険すぎるわ」


 ハーフオークに気付かれないようにこっそりと、女エルフは、そんな言葉を相棒の男戦士に投げかけた。


 足を止めず、そっと彼女の隣に並んだ男戦士。

 彼はかすかに肩を彼女にぶつけると、にっと、心配いらないさという感じの笑顔をエルフ娘に返したのだった。


「心配するなモーラさん。大丈夫。絶対にうまくいく」

「けど、もし、顔を合わすなりすぐにってことになったら。貴方、どうするの」


 えっ、と、顔面を凍らせたのは男戦士だ。

 すぐにエルフは気が付いた。あぁ、これ、また、妙な誤解フラグを踏んでしまったなと。

 そしてこいつ、こんな非常事態だというのに、随分と余裕なんだな、と。


「――えっ。うぅん、そうだな。その時はまずおもむろに上着を脱いで」

「いやいや、なんで脱ぐ。いつもの効率重視の装備理論はどうした」


「――それで、恥ずかしいからって明かりを消してもらって」

「何を恥ずかしがる必要があるのよ。存在自体がすでに恥ずかしいってのに」


「――天井のしみを数えてる間に終わらせてねって言って、それからお尻を」

「はい、もうね、お前が何を勘違いしているか、よくわかりましたよ」


 心配して損したわ。そう言って男戦士の肩を容赦なく叩く女エルフ。

 そんな彼女に、男戦士はまいったな、と、優しい笑顔を返すのだった。

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