#07-2:対決

近接格闘戦

 ここを抜ければ格納庫に辿り着ける。問題はその「ここ」である。格納庫に辿り着くためには、どうやっても一度校舎の外に出なければならないのだ。サーチライトが煩いくらいにドアの外を駆け回っていて、その円形の光に捉えられないことは奇跡にも近い。時々響く重たい銃声は、屋外を逃げる候補生を狙い撃っているのかもしれない。


 校舎内に響く悲鳴や銃声は、もうほとんど聞こえなくなっていた。本校舎から距離があるからなのかもしれないが、それでも断末魔というのはよく響く。心に直接刺さってくるようなものなのだ。そんなものをこの短時間に何十、あるいは何百も聞かされてきたカティたちの精神状態は、もはや限界に近かった。初めての実戦が、よりによってこんな一方的な虐殺だったのだから。ましてカティたちは追い詰められ、狩られる側だ。


 出口から格納庫までの約百メートルの間に、候補生や整備士が点々と倒れているのが、サーチライトによって明らかになる。


「格納庫も同時に襲われたのか……」


 ヨーンが外の様子を窺いながら奥歯を噛み締める。


「どうする、ヨーン。格納庫に行っても無駄になるかもしれない」

「そうだね……」


 カティの問いかけに、ヨーンは腕を組んで考え込む。そんなヨーンの肩をエレナがつついた。


「ヨーン、カティ、あんまり選択肢はなさそうよ」


 エレナは後ろの方を親指で示した。耳を澄ませば、ざりっざりっという何かを引きずるかのような音が聞こえてきている。時々混じる金属音から察するに、それはあの重甲冑から放たれる音ではないかと推測できた。


「……進むしかないってことかな」


 暗い廊下の向こうに、何かの姿が見えた。間違いない、あの黒づくめの兵士だ。エレナはアサルトライフルを構え、そして問答無用で引き金を引いた。三点バーストで放たれた弾丸は正確にその頭部を捉えた。が、角度が悪くて弾かれたようだ。跳弾が火花を散らし、廊下を一瞬だけ明るく照らした。エレナは続けてその首筋あたりを目がけて弾丸を放つ。タタタッと軽妙な音を立てて放たれた弾は、これもまた全弾が命中した。しかし、兵士の動きは止まらない。その距離は二十メートルほどにまで近付いている。至近距離だ。相手が飛び道具を持っていたらとっくに反撃されているだろうが、今のところそのようなりは見えない。


 カティもアサルトライフルを一連射して、外を窺っているヨーンに言った。


「ヨーン、出よう。あいつの相手をしてる暇はない」

「そうだね。僕らの火器じゃ手が出ない」


 ヨーンがそう答えた途端、その兵士は走り出した。ガシャガシャと金属音を響かせて、それが飛びかかって来る。手には刃渡り六十センチはあろうかという大振りのナイフを構えていた。


 そのナイフはまっすぐにエレナに襲い掛かる。エレナはライフルの銃身でそれを弾き返す。事態に気付いたヨーンがカティを押しのけてエレナに駆け寄る。


「エレナ! 僕が」

「二人は先に行って! 私、CQC近接格闘戦闘じゃカティより強いんだからっ!」

「丸腰で何ができるんだ。僕の方が足止めになる!」

「バカ言わないでよ、ヨーン! こいつは、私の獲物よ!」


 エレナは組み合った状態から足で兵士を蹴り飛ばす。それは思いのほか効果があったようで、兵士は一歩よろめいた。その隙を逃がさず、エレナは顔面に至近距離から連射を浴びせかける。


「……!」


 兵士は仰け反ったが、それだけだ。すぐに態勢を立て直し、再びエレナに襲い掛かる。エレナは巧みにライフルを使ってそれを受け流し続ける。


「早く行って! 外にだって敵はいるのよ!」

「……良い恰好するな」


 カティはエレナと組み合った兵士の額に銃口を向け、そして引き金を引き絞った。ガガガッと高低入り混じった金属音が響いたかと思うと、その兵士は大きくよろめいて後ろに倒れた。その隙を逃がさず、カティはそのナイフを奪い取る。


 そして兵士に馬乗りになって、その首筋に向かって突き立てた。ナイフを引き抜くと同時に、血液が盛大に噴き上がる。真っ赤な返り血を受けたカティは、無表情だった。


「こいつもすぐに復活する。急ごう」


 カティはもう一度その喉笛にナイフを突き立て、そして立ち上がる。そして血液で汚された前髪の奥で呟いた。


「仇討ちすらできないとはな……」


 その呟きが消えたか消えないか。そのタイミングで、低い銃声が鳴り響いた。


 

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