1720時

 未だ会議は終わらない。


 ルフェーブルは腕を組み、人差し指で二の腕を叩いていた。さすがにもう、アダムスの演説にうんざりしていた。よくもまぁ、これだけ喋ることを思いつく。


「アダムス少佐」


 そう呼びかけようとした途端、会議室のドアが開いてプルースト少尉が飛び込んできた。


「中佐、緊急通信です」

「緊急? 誰から?」

「クロフォード中佐です」


 囁かれたその名前に、ルフェーブルは傍目にもわかるくらいに青ざめた。得体の知れない不快感が、ルフェーブルの心臓を鷲掴みにしたからだ。


「失礼する」


 ルフェーブルはプルーストを伴って会議室を出た。そしてすぐにプルーストから携帯端末を受け取り、通話ボタンを押す。


「ルフェーブルだ。どうした、クロフォード中佐」

『士官学校と連絡がつかん。を使ってもだ』

「……どういうことだ」


 ルフェーブルは傍らで不動の姿勢で待機しているプルーストに合図をして、ロビーへと歩き始める。


『明らかに故意の情報遮断。そうとしか言えん』

「まさか。論理回線までやられたっていうのか?」

『手段は知らん。だが、論理回線が使えないのは事実だ。使あの回線がだ』

「……プルースト少尉、私の名で緊急事態コード発令」

「はっ、直ちに手配します」


 若い参謀はそう言うと、自分の携帯端末を取り出して第六課との通信を開いた。


『参謀本部長には、俺から緊急支援の要請を……今出した。貴官がどうするかは任せる』


 クロフォードはそう言うと通信を切った。ルフェーブルは音の途切れた端末を睨みつける。そんなルフェーブルに、プルーストが敬礼をしつつ報告した。


「中佐、緊急事態コード発令しました。第六課、全リソースを当該コードの解消に振り向けます」

「ご苦労。私の車を出してくれ、少尉。こちらの手配が終わったらすぐに行く」

「はい。では、自分は正面玄関で待機します」

「頼む」


 ルフェーブルが短く言った時にはすでに、プルーストは駐車場に向けて駆け出していた。ルフェーブルも速足で第六課の方へと向かって歩く。歩きながら、腹心のハーディ少佐に連絡を取る。


「ハーディ、私は今から士官学校に行く。情報を集めてくれ」

『すでに実行中です。間もなくヘリの手配が終わります。中佐は車で先行してください。途中で拾います』

「仕事が速いな」

『恐縮です』


 几帳面な声で応じてくるハーディの声に、ルフェーブルはようやく落ち着きを取り戻す。


「海兵隊の手配をレーマン大尉に――」

『もう完了しています。ヘリの手配も今終わったと。七分後には合流できます』


 素晴らしい手際だった。


「では参謀本部長への報告――」

『私が実施します。中佐は急ぎ士官学校へ。ただし海兵隊の指示には従ってください。おそらくコードAAAが進行中です』

「わかっている。心配するな。今さら私が銃火器をぶっぱなせるわけではない」

『……お気をつけて』


 ハーディのその言葉を聞き届けてから、ルフェーブルは通信を切った。


 ルフェーブルは第六課に立ち寄るのを止め、そのまま正面玄関の方へと走った。その時、館内に緊急事態コードが発令された旨の放送が流れ始める。これによって第六課のみならず、全課が最大限のリソースをコードの解消のために振り向けることになる。おそらく海兵隊の方にも同じコードが発令されているはずだった。


 時計を見れば十七時二十八分。事態が発生してから何分が経過しているのか、わからない。論理回線を過信した自分の甘さだと言わざるを得ない。


「ええい、後悔先に立たずか」


 ルフェーブルは奥歯を噛み締めながら、正面玄関を飛び出した。階段を降りた所に、彼女の公用車が止まっていた。運転席からプルーストが顔を出している。


「中佐、急いで!」

「わかっている」


 車に飛び乗るなり、プルーストはアクセルを思い切り踏み込んだ。









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