さらなる新兵器により……

 第七艦隊が弾道ミサイル四機のうち、三機は大気圏外にて迎撃することに成功した。残り一機は一ダースの弾頭に分裂し、それでも十一機までは迎撃ミサイルが何とか撃ち落とすことに成功していた。


 残り一発は……。


『撃ち漏らしの一発は、ラインヴェルシ市の中心部に炸裂した模様です!』


 シベリウスが眺めているテレビの中で、男性のニュースキャスターが緊迫した様子で報じている。


『映像出ました、ご覧ください!』


 それはラインヴェルシを見下ろす山の山頂付近からの映像だった。ラインヴェルシは夜景スポットでもあったので、こんなカメラが設置されていたというわけだ。


「人口二十三万五千、か」


 シベリウスは携帯端末でラインヴェルシ市の情報を調べて、呟いた。さほど大きな都市ではない。だが、その夜景を始めとした観光スポットが多く、人の行き来の多い街である。


 その街が、夜闇を駆逐する光の半球に飲まれていた。あれが核なのか、新型のMOAB大規模爆風爆弾兵器なのかは今の時点ではわからない。だが、尋常ならざる破壊力の兵器であることは一目瞭然だった。

 

 シベリウスは舌打ちをして、しかし何ができるわけでもなく、ソファに横になっていた。


 軟禁されてからどのくらい経ったのか、もはや数えるのを止めている。今も部屋の外には保安部の兵士が立っている。


 その時ドアが勢いよくノックされ、シベリウスは思わずソファに座り直した。


「どうした」

「失礼しますっ」


 入ってきたのはエルスナー大尉である。携帯端末を握り締め、緊迫した表情を浮かべている。そしてシベリウスが見ていたテレビの方に視線を移す。


「ああ、見ておられたのですね」

「暇だったからな」


 シベリウスはソファの隣を開けて、エルスナーに座るように促した。エルスナーは躊躇したが、それでも三秒後にはシベリウスの隣に腰を下ろしていた。


「どう見る、エルスナー」

「そう訊かれると思っていました」


 エルスナーは頷き、一つ深呼吸をした。


「おそらく、この弾道ミサイルは囮です。本当の狙いはもっと別の所にあるとみるべきです」

「ふむ。ところで今の指揮は第五課だったか?」

「そのようです。ですがすぐに第三課か第六課、あるいは第一課に移譲するでしょう」


 澱みなく答える副官に、シベリウスは思わずニヤリとしてしまう。今はエウロス飛行隊は作戦行動全てから外されている立場なので、リアルタイムに情報が来ない。時々イスランシオが情報を横流ししてくれる程度なものだ。そのイスランシオも、今は西方海域に派遣されてしまっており、頼みの綱のリークもままならない状況にあった。これもまた、軍によるシベリウス包囲網の一環なのだと考えれば辻褄が合うというものだ。


『今、指揮が第三課に移ったという情報が入りました』

「第三課か……」


 シベリウスは立ち上がり、ドリップしてしばらく経ってしまったコーヒーを注いだ。


「飲むか?」

「いえ、遠慮しておきます」


 エルスナーは誘いを断り、テレビの画面を食い入るように見つめた。その時、テレビ画面の中が俄かに慌ただしくなった。


『大変です、東海岸複数個所に同時多発的な空襲!』

「来たか」


 ソファに戻りながら、シベリウスは呟いた。濃いコーヒーの香りがふわりと漂う。まるで津波警報の表示のように、本土東側の沿岸部の十数箇所に赤い線が引かれていた。その最南端のポイントから最北端のポイントまでは、実に千五百キロもの幅がある。


「ゼピュロスの本隊は第七艦隊に派遣されている。となると、ノトスしかいねぇが、全域はカバーしきれねぇだろうな」


 だが、シベリウスは、ここでもエウロス飛行隊の出番は来ないだろうと思っている。機体はいつでも飛べるようにはしてあるが、今からシベリウスの軟禁を解き、エウロスの任務凍結を解除し、招集をかけたところで、結局何一つ間に合わないからだ。温存しておくのが得策という結論に落ち着くだろう。


『沿岸部の被害状況は……』


 キャスターが動揺を隠しきれない様子で次々とその被害状況を読み上げていく。テレビ画面の下部にも、そのデータが次々と流れていく。


「状況がイマイチよく見えねぇのが不満だが」

「どのみち私たちに出来ることはありませんね……」


 エルスナーは前かがみになって手を祈りのポーズのように組み合わせていた。そのエメラルドグリーンの瞳がテレビ画面を睨みつけていた。それを見て、シベリウスは無駄口を叩くまいと決意する。暫くそうした後、エルスナーがはたと気が付いて自分の携帯端末を操作した。


「ネットの方で……ありました。空襲の様子が流されています」

「野次馬も役に立つ」


 シベリウスはその端末を覗き込み、今まさに空襲を受けている都市から配信されている動画を見詰めた。


FAF221カルデアじゃねぇな、なんだこいつ」

F/A201フェブリスでもありませんね。新型、でしょうか……」


 その動画はブレが大きく、やや不鮮明ではあったが、空爆の様子ははっきりと把握することができた。大型の爆撃機が一機に、戦闘機らしいものが十数機。それが一セットとなって数セット、その撮影者の上空を飛んでいた。大きな建物はすでにほぼなくなっていて、地上で燃え盛る炎と、炙られている暗い空が良く見える。


「大佐、私もコーヒー頂いていいですか?」


 エルスナーはおもむろに立ち上がると、コーヒーメイカーの方に移動した。中にはちょうどもう一杯分くらいのコーヒーが入っている。


「ダメと言われても飲ませていただきますけど」

「言わねぇよ」


 シベリウスはエルスナーの端末を覗き込みながら、コーヒーを飲む。


 テレビでは『ノトス飛行隊が沿岸部に駆け付けました!』と、例によって派手なテロップ付きで紹介している。四風飛行隊がやって来た時には決まって付けられる演出だ。


「大佐、邀撃部隊はどうなったのでしょう」


 コーヒーを持ってきたエルスナーは再びソファに座り、テレビと携帯端末の画面の間に視線を往復させた。


「全滅したと考えるのがしっくりくるが」


 テレビからの映像でも、敵は好き放題に飛んでいるようにしか見えない。対空砲火は時々思い出したように撃ち上げられているが、それもその次の瞬間には沈黙させられている。


『増援が来たぞ!』


 エルスナーの携帯端末の中で、動画配信者らしい男の声が響いた。ノトス飛行隊を確認したらしい。配信映像も空を映し出す。そこには約六十機もの機影があった。


「バカか!? ノトスの稼動機全機じゃねぇか、これ」


 思わず声を荒げたシベリウスに対し、エルスナーは冷静だった。


「それに値する敵なのかもしれません、この新型――」


 ノトス飛行隊は、お約束のような多弾頭ミサイルの応酬の後、敵の戦闘機との格闘戦ドッグファイトに突入した。通常、こうなればもう必勝のパターンであり、誰もが胸を撫で下ろす。


 だが、それを見ているシベリウスとエルスナーは、共に表情を凍り付かせていた。


「手も足も出てねぇじゃねぇか……」


 四風飛行隊の一翼、ノトス飛行隊のF107Bタイタニックブローがバタバタと叩き落とされていく。これはありえない光景だった。四風飛行隊はエース部隊だ。一機落とされることすら滅多にない、それだけの技術を持った職人集団なのだ。


 それがあっという間に十機、撃墜されてしまった。そう言っている間にさらに一機が爆砕してしまう。


「あの新型機、人間が乗っているとは思えねぇ」


 それはずいぶんと小型の戦闘機だった。フォルム的には三角錐に小さな可変翼が生えたように見える。シベリウスをして、一体どういうアビオニクスなのかはさっぱりわからなかったが、ともかくそれらは圧倒的な機動性を実現していた。まるで瞬間移動のような機動マニューバをし、ノトス飛行隊のエースたちを翻弄している。そして数機で取り囲むなり、的確な一撃をコックピットを狙って叩き込んでいる――あれでは万に一つも助からない。


 大型の方は爆撃機というよりは攻撃機、どちらかというとガンシップに近い運用をされているように見えた。例えるなら、だ。機体のあらゆる箇所に備え付けられていると思しき火器が、一斉に火を噴いて地上と言わず空と言わず、薙ぎ払っていく。対空砲火を食らってもびくともしない。それどころか、ノトスの放った対空ミサイルですら平然と受け流しているようにも見えた。


「マジかよ……」


 あんな化け物相手では、シベリウスだってどう出たら良いのかわからない。ノトスの隊員たちは善戦していると言っても良かった。だがそれでも、小型の戦闘機の連携とその大型機の空を覆いつくす弾幕の前に、ノトスは確実に数を減らしていっていた。


『ユーレット市上空に出現した超大型爆撃機は全部で八機いる模様です!』


 キャスターの声が空虚に響く。


『信じられません、ノトス飛行隊が撤退していきます! なんということでしょうか!』

「あんな敵相手じゃ勝ち目がねぇよ……」

「ですね」


 シベリウスの呟きに、律儀に応えるエルスナー。シベリウスは冷めかけのコーヒーを一口すする。


「大佐、見てください」

「ん?」


 シベリウスがテレビに目を移すと、そこでは信じがたい現象が発生していた。


「こいつぁ、科学ってもんを超えてやがるぜ……」


 シベリウスは乾いた声で、呻いた。








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