観測者

 ふふふふ……。


 笑い声が闇の中に響く。その闇の中に、銀色の揺らぎが浮かび上がる。


歌姫計画セイレネスシーケンスとは、まったくたいそうな命名だこと」


 その声は闇の中にスイと溶けて消えて行く。


死せる戦士の魂エインヘリャルたちはどうするつもり?」


 その闇は、言うならばであった。名状し難い銀色の何かは、その闇の中に存在する唯一のだった。


「……そう。そうね。私は別に戦乙女ヴァルキリーを気取ろうだなんて考えてもいないけれど」


 銀の揺らぎは笑ったのだろうか。一際大きく揺れている。


「ふふふ、その呼び名は嫌いじゃないわ。そう、確か意味は『深淵の谷間に巣を張る者』でしたっけ。人間の想像力には関心するわ。よくもそんな名前や定義を考えつくものね。それに、あながち大外れでもない」


 闇は常に一定に、そこにあり続ける。銀の揺らぎもまた、そこに鮮烈に灯っている。だが、何をも照らすことはない。


「そう、何百年か昔のあなたにもこんなことを言ったわ、そういえば。あなたは覚えていないでしょうけれど」


 可笑しそうに、それは言う。


 やがてその銀の炎が、じわりと闇に溶け始める。


「いいわ。今回もあなたに協力するわ。面白そうだもの」


 それに、と、銀の姿が付け加える。


「あなたはティルヴィングを一番うまく扱えるかもしれないわ。いえ、初めてよ、こんなことを言うのは」


 ふふふ、と、また笑う。


「じゃぁ、今度こそ、私たちを本気でたのしませてちょうだい」


 私たちも立派に役割を演じてみせるから。


 そう言い残し、銀の炎のような揺らぎはふわりと搔き消えた。


 そして世界はまた、ただのに戻っていった。





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