#66 希望と奇跡
──体に問題は何も無いかマコト?
「全然、むしろ絶好調だ……うらぁ!」
AIオボロは調子づくマコトを心配して言った。
数多の敵を屠りながら《天之尾張》が敵本拠地である宇宙要塞イデアルフォートレスに近づく。
ここまで来ると敵の守りも固くなってきたが今のマコトには通じない。
束になって近づく敵SVを次々と打ち倒していく。
戦えば戦うほど心が滾り、マコトの気持ちが燃え上がった。
──いや、それが気掛かりなんだがな。無理はするなよ?
「大丈夫だって、安心してよ」
ガイから手に入れた心を読む不思議な力も、マコトの中でどんどん強くなっていた。
意識を集中すれば遥か後方にいる《月光丸》の声も聞こえてくるようだった。
「…………トウコ、ちゃん……?」
余所事を考え気を取られていた隙に《天之尾張》は、機体の倍以上ある巨大な氷塊に行く手を阻まれる。寸前のところでヒキリギネからビームの斬撃を飛ばし氷塊を真っ二つに両断する。
「青いジーオッド!」
冷気のようなオーラを纏う《ジーオッド》に似た鎧獅子型SVがこちらを見下ろしている。
瞳がチカチカと光ると、叩き割った氷塊がバラバラに形を変えて《天之尾張》へ氷のミサイルとなり発射された。
「所詮は水の塊だろうに!」
突撃する円錐型の氷の群をギリギリまで引き付けて、闘牛士のようにヒラリと回避しながら《天之尾張》は叩き割っていく。
順調に往なしているかに見えたが、それが敵の狙いであり攻撃ではなかったのだ。
粉々に砕けた氷が集まり《天之尾張》の周囲に壁を形成する。
マコトが気づいたときには球体状の氷の中に閉じ込められてしまった。
『……お前の相手は私ではない』
氷の壁をすり抜けて、この現象を作り出したヤンイェンの《チンシーツー》はふわりと《天之尾張》にゆっくりと近づき、驚くべき提案をする。
『……ここなら、誰にも聞こえないはずだ』
「敵と何を話す必要がある? さっさとやられてくれないかな」
『単刀直入に言う……私と合体してくれないか?』
「はぁ?! 何言ってんのよ、正気なの!?」
機体が《ジーオッド》と同じ特殊なマシンのせいか、ヤンイェンの心の声がマコトにはわからない。大きく下がってヒキリギネを《チンシーツー》に向けて構える。
『考えてもみてくれ……ガラン・ドウマに従う意味がどこにある? 奴は異常者だ。女ばかりを集め洗脳し、自分の兵とし捨て駒に使う』
──奴の言葉に耳を傾けるなよマコト。
「わかってる。ねぇ、貴方が洗脳されていると言う可能性は? 私を騙してるかもしれない」
『……そんなはずは……ない、はずだ』
謎の間を置いて言うヤンイェン。
大丈夫、と言い切れないのはある人物のことが頭を過ったからだ。
『……ヤマダ・シアラ。そういうことか!? ヤツがっ』
ヤンイェンの言葉は突然、遮ったのは純白の右巨腕だった。
一瞬で《シェンウェイ》を後背部から貫き、喉元からオイルに濡れた指が伸びている。
『あなたも私を裏切るんですね』
か細い少女の声から溢れ出るドス黒いプレッシャーを気圧されてマコトは息を飲む。ただでさえうすら寒い空間が余計に酷く感じる。
突き刺さる掌は《チンシーツー》のコクピットのヤンイェンごと貫通していた。
『みんな私から離れていく。なら、もう要らないです』
『な……何故だ? キ、サマ……いつ間に…………私の《神偉(シェンウェイ)》が……あぁぁ……っ!?』
巨腕の掌から目映い閃光を放ち《チンシーツー》は爆発。周囲の氷がどんどん崩れ去っていく。
顔面を失った《チンシーツー》を掴む腕は、氷壁の向こうで待ち構えるアリアの《Gアルター》の右肩部に戻っていく。
『私は誰よりも、なによりも強くならなくちゃいけないんです。一番になって振り向かせるんです、見返してやるんです』
泣きそうな声でアリアと《Gアルター》は壊れかけの《チンシーツー》を無理矢理に被った。
バキバキと部品が剥がれていくが、その部分が《Gアルター》の力で修復されて新たな装甲を生み出す。
『サナナギ・マコト、決着をつけましょう。どちらが強いかハッキリと……私の《神なる偉大(デウスマグナ)》でっ!』
汚れなき純白の装甲が群青色へとみるみる変化した。
青き魔神、もう一つの《ゴッドグレイツ》こと《デウスマグナ》は突貫する。
「勝手に盛り上がらないでよ! 逆恨みもここまで来ると鬱陶しい!」
『気を付けろよマコト。今までの奴とは違う!』
警告音を鳴らしてAIオボロが注意を促す。
猛然と迫りくる《デウスマグナ》の拳を《天之尾張》は難なくヒキリギネでガードしたが、触れた先が凍ってしまい砕け散ってしまった。
『これで武器は失いましたよ』
「だったら!」
離れる《天之尾張》の両肩装甲が開き、六発の小型ミサイルを一斉に放つ。だが《デウスマグナ》から溢れる冷気オーラの中に入ると動きが停止し、またしても氷付けにされた。
「凍る前に叩けばいいんでしょうがっ!」
──よせマコト?!
AIオボロの制止を無視して、マコトは《天之尾張》の出力を限界まで上げる。赤熱化した手甲で《デウスマグナ》に突撃した。
『無駄です、この光は全てを停止させる』
「やってるって言ってるだろぉ!」
爆発的なスピードで《天之尾張》の拳が《デウスマグナ》の顔面にクリーンヒットする。
数百メートル彼方へと《デウスマグナ》を殴り飛ばす《天之尾張》だったが、その拳は白く凍結しておりエネルギーを送っても一ミリも動かないほど固まっていた。
「まだ片腕が」
『……ふ、ぅぅ……う……うぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
宇宙を揺らすほどのアリアの慟哭が響き《デウスマグナ》を中心に激しいブリザードが吹き荒れる。
『ゆ、許さないっ! 絶対、絶対許さないぃ!! お前なんか……お前なんかぁぁーっ!!!』
流す涙を無重力で凍りつかせ、アリアの怒りが吹雪となって戦場に轟く。それは周囲にいるイデアルフォートレス側の味方機を巻き込むほどの巨大な渦となり《天之尾張》へ襲いかかった。
「癇癪娘が、殴られただけで喚き散らすなっての!」
強がるマコトだったが、目の前に迫る《デウスマグナ》の超弩級旋風をどうにかする策が思い付かず逃げることしか出来ない。飛んでくるSVの残骸を片腕で捌くのがやっとだ。
『逃がさないっ! 逃げるぁ!』
「くそ、追い付かれる……!?」
次第に《天之尾張》の挙動が鈍くなり操作が上手く出来なくなる。
コクピットの中の温度も下がり、足元から冷気が立ち込め、モニター画面に霜が付く。
操縦桿を握る両手も冷たさで悴む。音声にノイズが入りAIオボロの声も全く聞こえなくなってしまった。
「…………ガ……」
こんな時に思い浮かぶのは、あの男の顔である。
今思えばピンチの時に、いつも彼は駆け付けてくれた。
マコトにとって彼の存在は何なのか?
それは……。
『マコトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーッ!!』
小さな火の玉が凍てつく巨大竜巻へ弾丸のようなスピードで突っ込んだ。
高速回転する残骸の嵐の中で死んだように動かない《天之尾張》を見つけて火の玉は叫ぶ。
「ジー……オッド……?」
『合体するぞッ!!』
「……ガ……イ…………ガ、イ……!」
『早く! その手を伸ばせッ!!』
薄れ行く居敷の中でマコトは必死に摘めたい手を伸ばす。
その指先が触れたら瞬間、奇跡が起こった。
『……何です、この暖かいモノは?! 不快、止めてッ!!』
目映い真っ赤な閃光が荒れ狂う巨大竜巻を一瞬にして吹き飛ばした。
その光は戦場一帯に広がり、竜巻に巻き込まれ凍結していた機体の氷も徐々に溶け出していく。
「う……んん……」
「起きたかよ、お姫様」
「…………ガイ?」
目覚めるとガイの顔がそこにあった。
いつの間にかコクピットはタンデム式のシートに変化している。
マコトは手を上げ身体を伸ばした。先程まで凍りついていた全身の血流が再び動き出すのを実感する。
「…………トウコちゃんを感じる」
──一緒だよ、サナちゃん。
「あぁ、力を貸してくれた。だから、ジーオッドを動かせた……アイツの命は無駄しない。俺はお前を守る、絶対だ」
「うん……頼りにしてる」
「三人の力なら」
──こらこら、忘れるでないぞガイ!
「オボロちゃんも入れて四人だよ、もう」
「今の俺には機体の声は聞こえない。怒ってそうだな、オボロ」
ガイは申し訳なさそうに笑った。それにつられてマコトも笑う。
「では姫様方、そろそろブチかましてやりましょうか?」
「うん、私たちの全力を、この《ゴッドグレイツ》で!」
それは戦場に輝く小さな太陽。
紅蓮の炎を身に纏いし真紅の魔神。
その名を“神なる偉大”と呼ばれたマシン。
マコト達、四人の力で生まれ変わった《真式ゴッドグレイツ》は眼前の敵へ向かい、大いなる一歩を踏み出した。
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