漫画版 夢幻戦記(作画:行徒 構成:河田雄志)

2007.01/ジャイブ 全一巻

<電子書籍> 無


● 損切りの大切さを教えてくれる名著


『夢幻戦記』のコミカライズ作品。「1」と書いているが二巻は出なかった。


『グイン・サーガ』『優しい密室』と同時にはじまった栗本薫作品コミカライズ計画の一作。

 構成の河田雄志は現在ではサウザーを主人公とした狂気の番外編『北斗の拳イチゴ味』の原作者としてヒットを飛ばしている。そのイチゴ味の作画の行徒妹は、今作の作画である行徒の実妹。当の行徒自身も現在ではイチゴ味の外伝を手がけたりしている。

 いまとなってはそんなイチゴ味にしか見えない作家陣だが、今作はギャグに走ることのない、原作のテイストを見事に再現したコミカライズとなっている。


 絵のテイストは『夢幻戦記』原作の表紙イラストを手がける笠井あゆみにも通じる雰囲気をもっており、描き込みも丁寧。特に主人公の沖田総司は美少女顔のポニーテールショタとして非常に可愛く描かれており、大和守安定好きも安心である。

 漫画化に当たってのストーリーの再構成も、わざわざ構成者を別に立てているだけあって、原作の不要な部分をばっさばっさと刈り込み、140ページ足らずの薄めの本でありながら、原作一巻の内容を完全に消化している。それでいて永倉との稽古や秋月藩邸での出稽古、夢の世界での戦いなど、盛り上がりどころでは大ゴマや見開きもしっかりと使って盛り上げているし、無理に詰め込んで早回しになっている感じがないのは見事というよりない。


 が、面白いのかというと、そんなことはない。

 なぜなら原作がつまらないから……。

 こうして漫画らしく無駄を切り捨てて構成し直すと、今作のストーリーや設定が実にジャンプ10週打ち切り感に満ちたものであることがわかってしまうし、やたらと先の設定をチラ見せするが目の前の見せ場が退屈な展開もまたそれを助長している。

 帯には栗本薫のコメントとして「先が読むのが楽しみです」、巻末の作者のコメントではこれからもなにとぞ末永いおつきあいをよろしくお願いいたします」とあるが、もともと人気がない原作で、コミカライズ者ががんばっても結局根本的につまらなかったため、二巻目は出なかった。

 原作中、一番ストーリー密度の濃い一巻をここまでバッサリ刈り込める人の手にかかるなら、原作中絶巻である15巻まで1000ページもかからずにたどり着けたであろうことを思うと、いささか残念……ではないな。逆にこの漫画版『夢幻戦記』が中途半端な人気でだらだら続いていたら『北斗の拳イチゴ味』の仕事をする余裕がなくなっていたかもしれないことを考えると、傷口が広がらなかったのは関係者すべてにとって幸福なことだったろう。自分としても、イチゴ味やイチゴ味外伝の方が明らかに面白いし……。


 だらだらと続いてだれも得しなかった原作との対比によって「損切りの大事さ」を伝える最高のコミカライズであった。

 

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