346 浪漫之友 創刊号(同人誌)

2005.04/天狼プロダクション

<電子書籍> 無



● 季刊・栗本薫創刊


 三ヶ月に一度ずつ発行された栗本薫個人同人誌の創刊号。

『セルロイド・シティ』『ヴァイス・トロピカル 第一回』『副長 第一回』収録。


『セルロイド・シティ』

 セックス自慢のノンケのAV男優・克郎は、なぜか同性のAV男優・雪広に惚れてしまい、彼の借金を返すためにゲイビデオに出演しアナルヴァージンをロストする。痛みからようやく回復し仕事に復帰したころ、くるはずの女優があらわれず、また克郎を撮らせてくれと監督が迫るなか、あらわれた雪広が竿役に立候補する――

 正式なタイトルは『新宿バビロン第三話 セルロイド・ヒーロー シリーズ2 セルロイド・シティ』である。

 これは2003年に雑誌『JUNE』の特別付録として、栗本薫の書き下ろし短編が三作掲載された『新宿バビロン』という冊子がついてきた。その冊子の三話目が、今作の前話である『セルロイド・ロマンス』というある。つまり冊子の三話目の話の続編だからこういうややこしいタイトルなのだ。新宿バビロン第三話の部分いらんだろ。「ドラゴンスレイヤー6である英雄伝説の6である空の軌跡シリーズの三作目(ただしドラゴンスレイヤーシリーズではない)」みたいなややこしいことやめてよ。

 ちなみ前作の感想は「単行本未収録作品」の項にまとめられている。


 ます思うのは「シリーズの創刊号に第一話ではないもの、それも単行本化されていない雑誌の付録なんていうややこしいものの続きを載せるのやめなよ」である。薫はどれだけ客が自分を追っかけていると思っているのか……。さすがに雑誌付録前提はハードルたけえよ……。せめて同人誌に一話目も再録してよ……でも雑誌に書き下ろしたのに同人誌に載せるのも角が立つか……。


 さておき、本作の内容であるが、相変わらず死ぬほど古臭い。七十年代か。まったくAVの現場に見えないこの薄ら寒さはなんなのか。いくらあとがきで二十年以上前にエロ劇画にちょっと関わっただけだから考証とかうるさくしないでほしいと云われても限度があるわ! 書く前に二、三本でいいからAVを見てみようとは思わないのか。エロ同人だからって手抜きをするな。

 と、前作のときも思ったのだが……しかし、なんだ。ここまで古臭いと、なんか逆に微笑ましくなってきたんだよね……このC調台詞の滑り方とかさ……なんだろうね、この感じ……なんかニコニコしながら「しーましぇーん!」とか云ってそうな……あ、ヤマジュンだ! 一昔前にネットで話題になった山川純一の世界だ!

 そんなわけでヤマジュンの絵柄で想像すると、このしょーもないノリの世界がなんか変な笑いが出てくる素敵なものにも思えてきた。ヤマジュンならしょうがないね。

 まあ、年下の美少年の方が巨根で攻めで、自称イケメンの美青年のほうが受け、というのは薫としては攻めてるほうで、悪くないと思うね。あと超巨根黒人のジェイクが英語とカタカナ混じりのカタコトで道場主だったら「今度やったらはっ倒すよ」とか云いそうなキャラだけど、なんかキャラも書き手も頭が弱そうで妙に和みますね。

 だからまあ、なんだろう、萌えとかエロとかストーリーの面白さとかはないんだけど、これはこれである種の生きる希望なのかもしれないな、と思ってしまったのでした。



『ヴァイス・トロピカル 第一回』

 南の島の青年ティンギが浜で目覚めると美少年が落ちていたのでとりあえず掘って、それからまた掘って、これから毎日掘る宣言をしました。続く

 グイン・サーガの世界の、はるか南国の小さな島を舞台にした土民レイプもの。淫語がほぼすべてオリジナル言語になっており「スークをミヌルにガマルしてガムを出した」という感じの文章になっている。ド直球淫語バリバリのエロをこういう形でやりたかっただけなのだが、別に()つきで意味を書いてしまったらド直球淫語そのまま書くのと変わらないんじゃなかな、と思った。わかりにくいのを承知で意味書かないほうがハナモゲラ語っぽくて面白かったのに。

 内容はほのぼのレイプの一言で終わる。だが捕まえたら問答無用でガマルする原始の世界観に作者がノリノリなのが伝わってくるので、エロ同人としてはそれでいいんじゃないかな、と思った。


『副長 第一回』

 新撰組屈指の巨漢である島田魁は副長の土方歳三に惹かれていた――最後まで土方につきしたがい、新撰組を生き残った隊士、島田魁の視点によって語られる新撰組異伝。


 こちらは正式タイトルは『「MU・GE・N」外伝・夢幻伝説1 副長』となる。先に同人誌で頒布された土方×沖田本『MU・GE・N』の外伝である。この本編の方はすでにレビューしたのでそちらの項を参照してほしいが、とにかく病弱の沖田総司が尻穴にいろんな異物を挿入されるけどピンピンしているという最強伝説である。

 その外伝となる本作は、すでに土方×沖田という成立しているカップリングを、島田魁が眺める話だ。まあ本編が直腸最強で土方さんがずっとうわ言いってるモイキーな作品だったし、この話もお察しなんだろうね……。

 

 あれ? え、けっこう面白い?

 島田魁は愚鈍だと思われている巨漢なのだが、そういう何考えているのかわからない鈍そうな人間の意外と賢くもあれば繊細でもある内面を描くのが、もともと栗本薫は非常に上手く、オリジナリティもある。ぼくが薫を最強の非モテ作家と呼ぶ由縁である。そんな島田魁の視点でもって描かれている新撰組の人間関係が、これがなかなか面白い。

 基本的には土方信者の島田のストーリーなのだが、芹沢には巨漢同士ということで一目置かれ、あまり剣の腕が立たない土方をはじめは軽んじていたという、無条件信者からはじまっていないところもいい。そしてまた、土方は沖田本命が決定しているから島田を道具としか思っていないというところも、良い。

 そもそもたしかに島田魁という人物は興味深いポジションでもあるのだ。試衛館組でもないのに限界まで土方に従い、生き残ってからはずっと隊士の菩提を弔い、新撰組に関する資料をものして七十過ぎまで行きたという彼は、新撰組の中心人物でないだけに「なぜそこまで」という興味を掻き立てる。そこに薫の十八番である非モテキャラを入れるとは、なめほど、ハマり役である。


 展開も、芹沢暗殺前からはじまり、池田屋もささっと過ぎ、古高俊太郎捕縛から拷問までを短いページで済ませている。芹沢暗殺まで十三巻かかった『夢幻戦記』とえらいちがうこのスピード感。ちゃんと古高の捕物でのやり取りには緊張感もあり、史実に基づいた古高への釘打ち蝋燭拷問という見せ場もある。土方と山南の対立も今後の展開に不穏さをかきたてる。

 島田の目で眺める土方も、残酷な場面ほど美しく、それでいて弱い人間の気持ちがわからない脇の甘さなど、人間として多角的に描かれている。問題は沖田総司がやっぱり気持ち悪いくらいだ。

 文章に関しても、まあこの時期の作品なので多少どうかと思う部分もあれば、変にねっとりして読みにくいところもあるのだが、非モテの一人称のため、そのねっとりもストーリーテリングにあっている。やはり薫は非モテを書くと輝くのだ。美形キャラなんていらんかったんや!

 というわけで、意外なことに普通に続きが気になる感じの作品だった。少なくともこの一話目の時点では栗本薫の新撰組ものの中で確実に一番面白い。気持ち悪いうわ言セックスシーンないし。



 あとは各作品のメイキングとして制作経緯と解説。それと空いた部分にそこそこの量のエッセイが書かれている。最近読んでる漫画として本仁戻の『探偵青猫』や『のだめカンタービレ』を挙げていて「えっ、のだめ読んでたの?」という気分になったりしたくらいで、あとは小説は「読んでねえー(爆)」に「読めよ小説家だろ」と思ったり、音楽にディープ・パープルや初期のムーンライダースを挙げたりして安定の時間の止まりっぷりを確認するくらいの、罪のない駄話である。


 総じて同人誌であるということを考えると、意外と悪くない本だった。第一回なのでまだわからないが、『副長』出来次第ではけっこう好きな本と云えてしまうかもしれない。

 あとがきで当人も書いているように薫の趣味は特殊だが、そこに合わなかったとしても、好きな人、趣味の合う人だけが買ってくれればいいという同人誌としてもっともな姿勢で書かれた本書を否定するのは、お門違いかな、という気がする。というか、薫のホモ小説は天才メアリー・スーキャラがいないほうが断然面白いよやっぱり……。

 そんなわわけで意外と面白くて、なんかすまんかった栗本先生、という気持ちになりました。まあ『副長』が今後クソ話になっていったら掌くるくる返すけどね……!

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