305 MU・GE・N ―総司残照― 上(同人誌)

2001.12/天狼プロダクション

<電子書籍> 無

【評】 ―


● ちがうの!浮気じゃないの!多重人格なの!


 新撰組最強の剣士、沖田総司は自称多重人格(多重人格とはいっていない)で新撰組の公衆便所でした。


 殴りたい。

 たたひたすらに沖田総司を殴りたい。

 一言喋るたびに三回くらいビンタかましたくなる。

 そんな小説である。


 結核が進行し死の床についた末期の沖田総司が、往時の新撰組について思いを馳せるという形で描かれている小説なのだが、エロ同人誌なので基本的にホモセックスの思い出ばかりである。

 芹沢鴨に初物を奪われ調教され、土方に調教され、山南とも関係をもち、武田観柳斎にもレイプされる、というのが上巻の主な内容であるが、とにかく沖田総司がムカつくのである。

 自称多重人格なのだが、別に記憶に断絶があるわけでもなく、どう考えても正式な病気ではなくてただの「今のあたしはお姫様」「今日のあたしはあどけない子供」「いまのぼくは最強剣士」とその時の気分によってなりきりプレイしているだけである。

 これのなにがムカつくかというと、いろんな男に抱かれてどの男のセックスでもアンアン云ってるし、抱かれながらも(こいつヘッタクソやな)とか(時々すごいまぬけなこと云うなこいつ)とかいけ好かないことを思ったりするけど、それは全部人格がちがうからだから仕方ないの。……という言い訳に多重人格を使っているだけだからである。多重人格だというならとっとと病院に云って診察受けてこい。それで医者にそう診断されたら認めてやるよ。でもいかないんだよね、医者には。病気じゃないって証明されちゃうからね。お前に云っとるんやで、自称多重人格の薫! 

 かつて小説道場で道場主に自意識過剰だと云われた柏枝真郷が「自意識過剰は手加減していただいたのではないか、疑心暗鬼と云ってくれ」と手紙をよこしたことに対し、へんへーが「手加減ではなく疑心暗鬼の方が傷つかないだろう。疑心暗鬼は状態で自意識過剰は本質だからだ」と喝破したことがあったが、それに則して云うならば、薫は傷つかないために多重人格という状態を選んだのだ。本質である「単に性格がクソ悪いだけ」を隠すために。

 そう、この沖田総司は多重人格などではなく、単に性格が悪くてセックスが大好きなまたゆるクソビッチである。だが、それでいながら、自分の性格が悪いということを認めることはできないため、全部多重人格のせいだし、むしろ自分は被害者であるということにしているのだ。浮気を見つかったクソ女がとっさに吐く「違うの。これは違うの」である。

 性格が悪いのはいい。だがそれを認められずに詐病をでっちあげて自分で勝手に納得されても「いやふざけんなよ」としか言いようがない。認めろ。お前は病気ではなく恩知らずでなぜか上から目線で欲求不満で被害者ヅラする性格がクソ悪いメスなだけだ。目をそらすな。お前はクソ女なのだ!クソ女なのだ!


 すみません、その本質が自分にとってクリティカルにムカつく作品であるため、作品としての良し悪し以前に感情が先に出てしまいました。

 だが、一本の作品として見ると、クソ女の世の中の見方や自己欺瞞を見事なまでに活写した作品であるということはできる。攻め役である山南や土方の器のちっちやさも、妙にクソ男のリアル感があるし、ホモじゃなくてクソ女対クソ男というテーマの作品としてはもしかしたらクオリティが高いのかもしれない。問題はそういうものを浮き彫りにしようとしたわけじゃなくて作者のクソさが天然で出てしまっているだけだということなのだが。

 だがストレートに自己投影と願望をこめて書いたら胸糞悪くなってしまったこの作品は、それゆえに栗本作品の系譜としては、被害者ヅラしていい男二人を相争わせる『真夜中の天使』や、いわゆるサークルクラッシャーのまたゆるビッチを描いた『ライク・ア・ローリング・ストーン』、肥大した自意識と性格の悪さを不運と嘆く女の『ハード・ラック・ウーマン』などと通じる、作者の内面の核の一つに限りなく近づいた重要な作品であり、性格の悪さを認めたくないクソビッチシリーズの集大成とも云えるかもしれない。かつてはあった内省が多重人格だからしょうがないことになっているため本当に胸糞悪い。薫は見つけてしまったんだね、最強の言い訳「違うの。これは違うの。多重人格なの」を……。


 そんなわけで、性格の悪さを認めたくないクソビッチなら感情移入して読めるかもしれない。また、そういう女にファッキンファッキン云いながら生きてるぼくのような性格の悪い非モテ男は「なるほどなークソ女はこうやって自己弁護してるわけか!」と勉強になるかもしれない。

 でもまあ、普通に考えてうっとりできるような部分はないし、セックスシーンに色気はないし、新撰組ものとしての楽しさはないし、尻穴に日本刀の柄を埋めたりするのはやめてほしいし、BLとかやおいとかJUNEとしては、楽しみにくそうですなあ。かといってホモセックスと何股の言い訳してるだけなので普通の小説として楽しむのも難しいし……。

 やっぱりクソ女の内面を覗くつもりで読むべき作品かな。ホントびっくりするくらいグーで殴りたくなるよこの沖田総司。思わず拳を握りしめてしまう感じを味わうために読んでほしくなるくらい。

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