186 いとしのリリー
1994.09/角川書店
1998.03/角川文庫
【評】うな(゚◎゚
● 最後だけ号泣が栗本イズム
主人公(♂)の恋人は、親友(♂)の中に芽生えたもう一つの人格(幼女)でした。だから肉体的にはホモだけど精神的にはホモじゃないよ全然違うよ、という話。
無駄に長い。いつものことじゃんと云ってしまえばそれまでだが、本当に無駄に長い。
今作は栗本薫自作の舞台が先にあって、それのノベライズというか原作というかメディアミックスというか、とにかくそういう企画で小説も書かれたもので、この無駄な長さはおそらくそれが原因なんじゃないかと思う。
中盤、デートシーンなどでぐだぐだしているのだが、どうもまったく素敵な感じがしなくて、多分それは栗本薫が生まれ持った性質ゆえにぐじぐじねちょねちょした書き方をするせいで、ちっとも爽やかデートに見えないせいだと思うのだが、作者的には多分、この辺のシーンが舞台で映像として観たい大事な大事なうっとりシーンなんだろうなあ。
同じように舞台の小説化であった『魔都』も、「多分作者的には三次元で観たいシーンなんだろうな」と思われる素敵?大正浪漫シーンがだらだら続いてやたらと長くなっていたが、やはり「栗本さんが得意なシーンの描写はこういうのじゃないでしょ」と肩を叩きたくなるような出来だったし、どうも栗本先生が舞台で観たいと思うようなシーンは、小説にはそぐわないものが多いようだ。じゃあ舞台では面白かったのかというと、観ていなかったのでなんとも云えません。個人的にはあんまり舞台で観たい題材とは思えないんですが……だって男が幼女ぶってるなんて映像的にきついし……
話の中心となる二重人格も、「それ単なる中二病のなりきりちゃうんか」と云いたくなるような描写と知識で、こんないいかげんな知識で二重人格なんて題材を真面目に扱って大丈夫なんだろうかと読んでいて不安になってしまうレベル。栗本先生が自称多重人格で、しかしはたから見てる分にはどう考えても気分の浮き沈みがあるだけだったので、それと同レベルで扱ってしまっている気がしてならない。
そんな曖昧な知識でやっているので、オチの二重人格の説明およびその治療も、精神科医が登場してぐだぐだ説明してくれるんですが「おまえ絶対ヤブだろ」と云いたくなるような説明で、そしてそんなヤブい医者にかかってコロッと治ってしまうので「ちょれ~二重人格ちょれ~」という気持ちになってしまう。そんな簡単になおるんならだれも悩まねーよ、とツッコミたい。
ストーリーとあんまり関係ない部分だと、まず二重人格の男の名前が島村ジョーという時点で「絶対加速装置のついたサイボーグだこの人……」という感じで笑えてしまうし、対する主人公がケンなので「やだ、ケンとジョーで『ガッチャマン』の方かしら」とドキドキしてしまう。
ボロクソに云っといてなんですが、好きか嫌いかで云えば断然好きです、この作品。
捨てられた子供としての自己防衛による二重人格、その捨てられた子供同士の共依存、そこからの脱却、というテーマ自体は、非常にJUNE的であって、根本的には好き。
同性の親友の中に生まれた異性の別人格と恋人、という設定も、結果的にはうまく調理できていたとは云いがたいが色々な意味でおいしい設定だと思う。うまい人に書き直して欲しいくらいだ。
そしてなによりエピローグ。
これが泣ける。最後の一ページだけで泣ける。というかもう本当にプロローグとエピローグ以外読む必要がないというくらい、ここだけで泣ける。栗本薫の三大強引泣かせエピローグの一つと認定したい。(残りの二つは『猫目石』と『魔都』)
欠点ならばいくらでも数え上げられるし、贔屓目にみても短所が長所を大きく上回るが、非常に栗本薫らしい、愛情への渇望に満ちながらも叙情的な作品として、栗本薫と同じストーカー体質の被害妄想人間としては、どうしても心震わさずにいられない一作だ。
ところでこの作品、単行本にはあとがきがなく、文庫化にあたってあとがきが追加されているのだが、このあとがきが「私も多重人格で云々」という中学生の妄想そのままの文章がだらだらと書かれていて、ある意味で非常におそろしいサイコホラーに仕上がっている。出来うるならば単行本で読むことをオススメしたいが、怖いもの見たさで文庫版も捨てがたい。
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