179 伊集院大介の新冒険
1994.04/講談社
1997.06/講談社文庫
【評】うな∈(゚◎゚)∋
● 変わらぬ大介に一安心
短編集。『顔のない街』『事実より奇なり』『ごく平凡な殺人』『奇妙な果実』『盗癖のある女』『星のない男』『ピクニック』以上七編収録。
これはけっこうおすすめである。普通の人々の間で起きた、ありふれた悲劇に触れていくという、伊集院大介の基本スタンスに忠実な、とても伊集院大介らしい短編集。
『顔のない街』では新たなる助手役である滝沢稔少年との出会いが描かれているが、幼いながらも大介との相性もよく、彼が助手として成長していく過程もまた面白い。『天狼星』シリーズを経て、新生伊集院大介に期待を馳せさせるのに充分な新コンビだった。
内容的にもどの作品も、ちょっと考えさせられる部分があり、面白い。社会の片隅にある、ちょっとなにかが行き違ってしまっただけの、普通の人々の小さな不幸を描き出す様子は、栗本薫流の見事な社会派心理ミステリーになっている。
特に最後の作品『ピクニック』がとても好きだ。
どこにでもあるマンションの、どこにでもある二つの家族に漂う、かすかな破滅の臭い。不確かでありながら、その不穏な空気が少年の心理を通して実によく伝わってくる。短い話なのに、最後の数ページでは思わずボロボロと泣けてしまう。
大介も実にいい。悲しい真実を示すことによって人々を癒すという、大介の本領発揮である。この作品などに見られる大介の優しさと厳しさは、古今の名探偵に引けをとらないと思う。
ただ、冷静にみると。
ちょっと全盛期に比べて文章がくどい作品もあるし、大介がうざい、というかキモイ部分もあるし、なにより推理物としては破綻しているというか、わかってしまう作品は単純だし、わからない作品は推理できるはずもないものばかりで、ミステリーじゃ、うーん、ないわなあ。
でも、おれはいいと思うぜ。栗本薫が書きたかったのはミステリーじゃなくて「探偵小説」、文字通りに、探偵が出てくる小説だったんだからさ。探偵の探偵っぽさが満喫できれば、それでいいのさ……
だから、トリックなんてどうでもいい。このクオリティを維持して欲しかった……心の底から……
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