第67話 進路

A子の金色に光るバイザーには俺と白いゼラニウムが映っていた。

ハンドサインでA子に指示を出した。


”俺は第一体育館のエアロックに入る。”

”A子は第三体育館のエアロックへ戻れ。”


するとA子は了解したという意味の手振りをした。

これまで絶体絶命の窮地を二人で乗り越えた信頼感のようなものを感じた。

お互い体力的にも再びトラブルがあれば帰還は難しい。


A子と俺をつないでいた数本のワイヤーを外した。

現在位置は第二体育館の屋上部分だから二人は反対方向に進むことになる。

俺は第一体育館側面のエアロックへ。

A子は第三体育館の側面エアロックへ。

じゃあと手を振って別れた。

俺はA子が再び俺を追い越して第一のエアロックを狙うかとも考えた。

しかし彼女は素直に第三のエアロックへ進んだ。


再び後ろを振り向くとA子が進路を変えていた。

そっちは後部ハッチ方向だ。

A子、間違ってるぞ。

声をかけようとしたが聞こえるはずはない。

人工知能の紫さんを経由した通信はまだ復旧していない。

牧師は地球へのソーシン以外できることは無い。

まさかA子は後部から遠回りして第一体育館のエアロックを狙っている?

その方向ではグルリとかなりの遠回りになる。

このままなら余裕で俺の方が先に第一のエアロックに到達する。

そう考えて進むうちに俺は第一のエアロックに着いた。


周囲を見回してもA子の姿は見えない。

まさか彼女は本当に第三へ帰る方向を間違えたのか?

お互いにフラフラだから方向の勘違いは考えられる。

俺だって頭が回っていない。

いや、慎重に行こう。

最悪のケースを想定するべきだ。

A子が第一体育館への侵入を狙っていると仮定する。

俺が先にこの第一のエアロックに入って中から封鎖すれば勝ちだ。

A子は結局、第三に入らざる負えない。


俺は頭を振って周囲を何度も警戒した。

慎重に第一体育館側面エアロックに入り外ハッチを閉めた。

そして中からワイヤーで封鎖した。

やれやれ。

これで一安心だ。

A子はこのエアロックに入って来れなくなった。

このワイヤー封鎖は人力では絶対に開かない。


牛丼。

カレーライス。

いや、白ゴハンに味噌汁か。

肉はノドを通らないかもしれないな。

まず何を食べようかと考えながら内側ハッチのハンドルを回した。

しかしハンドルは固定されていて決して開かなかった。









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