第46話 エビピラフ

第二体育館の右エアロックの封鎖を解いた。

この先には第三体育館のエアロックがある。

そこを抜ければA子と対峙することになる。

もしかするとエアロック内にA子が潜んでいることもありうる。

危険だがハルカワを助けるにはこれしかない。

俺は慎重にハッチのハンドルを回した。


ハンドルは少し回って止まった。

もう一度チカラを込めて回すが何かが引っ掛かって止まった。

封鎖されている。

ハッチの向こう側から何かでハンドルが固定されて封鎖されている。

ワイヤーか?テザーか?


考えてみれば当然だ。

A子はハルカワがワイヤーで封鎖しているのを見ている。

この方法でハッチを簡単に封鎖できることを知ったのだろう。

A子だって寝込みを襲われれば厳しいはずだ。

彼女は不意打ちを防ぐために第二からの進入路を封鎖した。

俺は再び第二のエアロックを封鎖してキッチンに戻ってきた。

正直心の中では、ほっとしている。


俺「向こう側から封鎖されている。」


紫さん「そうですか。残念です機長。」


俺「本当にそう思っているのか?」


紫さん「はい機長。そろそろ食事をしてください。」


長時間まともな食事をしていない事を思い出した。

俺はフリーズドライのエビピラフに水を入れて加熱した。


俺「水はあるのか? 第三に?」


紫さん「いえ。医療用の水ボトルが数本だけです。」


俺「ボトル数本で二人は無理だろう?」


紫さん「はい。あとはエアコンの中に水タンクがあります。」


俺「メンテで見た。結露防止のための除湿用のタンクか。」


紫さん「はい。あの中にかなりの量の水があります。」


俺「飲めるのか?あれ? 汚いだろ。」


紫さん「はい機長、キレイではありませんが飲んでも問題ありません。」


第三体育館には機械設備が多いので食品の破片でトラブルが起こる。

だから第三に備蓄食糧が無いことは何度も確認している。

水だけで何日持つか。


俺「後部ハッチ全開でA子を窒息させる方法はどうだろう?」


紫さん「消火用ですね?その方法だとハルカワさんも窒息してしまいます。」


俺「無理か。」


・・・後手を踏んだ感じだ

なぜこのタイミングでエビピラフを選んだかは覚えていない。

しかし味が無かったことはうっすらと記憶している。

小さなオレンジ色のエビが宙に浮いてゆっくりと回転した。

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