第34話 義妹と夢の中

「あれ? お義兄ちゃん? 」

 後ろから聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた…。

「やっぱりそうだよね!? お義兄ちゃんだよね!? 」

 後ろを振り返るとそこにはもう会えるはずのない義妹の瑠璃が立っていた。

「やっぱりそうだ! お義兄ちゃん!

私…。私! 」

 

 そういって瑠璃が抱きついてくる。

「ちょっと瑠璃!? 落ち着いて、落ち着いて! 」

 いったい何が起こったのか頭で整理できず正直俺も混乱している。

「何がどうしてこうなった? 」

◆◇◆◇

 抱きついてきた瑠璃を1度離して現状を確認する。

「あのね、お義兄ちゃん。私はお義兄ちゃんの部屋で寝ちゃったらアルテミアさんって言う女神さんからここに連れてこられたんだけど何か夢らしい…」

 

 瑠璃は自分の頬を引っ張り、感触を確かめている。

「あれ? おかしい…。痛い!? 何で!? 」

 瑠璃は俺の身体に触れて驚いている。

「お義兄ちゃんにも触れる…。何で! 」

 

 不思議そうな顔で俺を見つめてくる。

「いや、俺も分かんない」

 思い当たる節は、1つしかない

「女神の更正報酬の先渡しか…」


「ん( -_・)?お義兄ちゃん何か言った? 」

 瑠璃がこちらを見て不思議そうにしている。

「それよりどう? 俺のいなくなった世界は? 」

 瑠璃に微笑みかけると


「いろいろ変わった事もあるし変わらない事もあったよ♪ 」

 そういってニコニコしている。

「いろいろ教えてよ、義父さんとか義母さんの事とか瑠璃の事を」

 瑠璃を引き寄せて話を聞くことにした、俺のいなくなった世界の事を…。

◆◇◆◇

「義父さんと義母さんはどうしてる? 」

 瑠璃に尋ねると少し落ち込んだ顔で

「うん、お義兄ちゃんが死んだことを私の前では乗り越えようとしてる。けど私のいないところでは泣いてるみたい…。このあいだ泣いてるところ、たまたま見ちゃった」

 そういって瑠璃は舌を出しておどけてみせていた。


「そっか、みんなに辛い思いをさせちゃったな…。戻ったら2人に先に逝っちゃってごめん。って伝えてくれる? 」

 瑠璃にそう伝えると瑠璃は少し困った顔をして

「覚えてられるかな? 私まだ寝起き悪いから…。でもね、私も1人で起きられる様に頑張ってるんだよ! だってもう1人だから」

 

そういっているうちに瑠璃は涙を流し始めた。

「どうした? 大丈夫か瑠璃? 」

 瑠璃を抱き寄せ頭を撫でてあげると

「大丈夫じゃないよ…。当たり前でしょ! いつも隣にいてくれてたお義兄ちゃんがいないんだもん」

 そういって泣きながら胸に飛び込んできた。


 「そっか…。ごめん」

 泣きながら抱きついてくる瑠璃を受け止めて謝るしかできなかった…。

◆◇◆◇

「落ち着いた? 」

 胸の中で泣いている瑠璃に声をかけると瑠璃は頷いていたが抱きつく腕にぎゅっと力を込めていた。

「うん…ただ、お義兄ちゃんに抱きついて改めて思ったんだけど何か不思議だね♪ さすが女神様の力! でも何で女神様が私たちを会わせてくれたんだろう? お義兄ちゃん死んだんだよね? 私もそんな良いことをした覚えは無いんだけどな~? 」


不思議そうに頭を捻って考えている。

 「あっ! あとね私、弓道部に入部したよお義兄ちゃんが叶えられなかった大会で優勝って夢、私が新人戦で優勝して仇は取ったよ! 」

 笑ってそんなことを言ってくるが瑠璃は剣道一筋で高校でも剣道部に入部するはずだった…。


「瑠璃、剣道は? 」

「…」

 急に黙りこんでしまった。

「瑠璃? 」

 心配になってもう一度声をかけると

「ダメだよ、センスが無いんだよ…。剣道をやってても、いざというとき足が震えちゃって何もできなくなっちゃうんだよ…。あの時の無力だった私を思い出しちゃって…。だからお義兄ちゃんの道具と力を借りて今は弓道をしてるよ♪ 」

 心配しないでと言いたげに微笑みかけてくる。


「瑠璃がそれで良いなら何も言わないよ。けど俺には瑠璃が逃げてる様にしか見えないかな…。無責任な事を言うけど瑠璃には自分自身の道を進んでほしい、俺がどうとかじゃなくて…瑠璃が俺の夢まで背負わないでいいよ♪ 俺の夢は俺が叶えるから…」

 そう伝えていたら身体が淡く光り始めた。


「う~ん、たぶんもう時間みたい瑠璃、瑠璃は瑠璃自身の夢を叶えるために頑張ってよ。いつもそばで見守ってるからさ♪ 」

 胸の中にいる瑠璃にそう伝えて瑠璃の髪を梳かす。


「それじゃあ勇気をちょうだい! 」

 そういって瑠璃は背伸びをして唇にキスをしてくる。

「えっ、瑠璃…今なにした!? 」

 俺は状況が飲み込めず目を白黒させていると瑠璃が微笑みながら

「私の夢はお義兄ちゃんのお嫁さんだったんだよ! お義兄ちゃんがいなくなって叶えられなくなったんだから夢の中ぐらいキスさせてもらっても大丈夫でしょ! たぶん女神様がお義兄ちゃんに会わせてくれたって都合の良い解釈してるけどコレは夢だって心のどこかでは分かってるから…。ありがとうお義兄ちゃん、夢の中でも私を励ましてくれて大好きだったよ♪ 」

 その言葉を聞き終えたと同時に意識が暗転していく…。

「まさか瑠璃がそんな風に思っていてくれたなんて気づかなかった…」

 暗闇の中、ヒドイ倦怠感を連れて意識を覚醒させていく。

◆◇◆◇

「おはよう、どう? 大丈夫? 」

 目が覚めるとそこにはアルテミアさんがいた。

 「いろいろと抉られましたよ…。でも義妹に会わせてくれてありがとうございました。瑠璃もいろいろと迷ってたみたいで瑠璃を励ますことができて良かったです」

そういって身体を伸ばして一息吐く。

 

「こんな報酬を前払いして貰っちゃったしあのバカ女神の更正を手伝いますか…。そのかわり俺1人でやるのは無理だからねアルテミアさん。アルテミアさんも手伝ってね♪ 」

 こうして女神2人が俺の町に移住してきた。






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