第32話 収穫with 女神様

「おい、いい加減起きろ」

 昨日から部屋を間借りしているバカ女神を起こしにいく。

「う~ん、あと5分」


 そういって6度目の眠りに就こうとする。

「モニカ、笛貸して」

 目覚めの笛を受け取りバカ女神の耳元で笛を吹く。

 ギィィィィィッ~!


 綺麗な音色とは言えない奇妙な音がなる。

「うぉぉぉぉっっっ!! 何だこの音! 」

 まるで黒板を爪で引っ掻いた様な音だった。


「うぅぅ~…起きる、起きるからその音はやめて! 」

 そういって布団の中からモソモソとバカ女神が出てくる。

「それじゃあモニカ、着替え手伝ってあげて」 

 そういってリビングに戻り朝食の準備を始める。


「ねぇアルテミアさん、よくよく考えると俺がアイツを預かって更正させても俺にメリットないよね、報酬とか何かないの? 」

 テーブルに座りトーストを食べるアルテミアさんに話しかける。


「フォンナホトヒワレテモナ」

 まずは落ち着いて食べ終わってから話そうよ…。

「ンック…。いや、そんなことを私に言われてもな、上で決定されたことだから報酬とか言われても私でどうにか取り持ってみるが余り期待はしないで待っててくれよ」

 

 そういってコップに注いである山羊乳を飲み干す。

「おはよう…。何コレ! 美味しそう! 」

 起きて顔を洗ってきてサッパリしたバカ女神が俺の作った料理を見て美味しそうと叫ぶなり食べ始めた。

「おい食べる前にやることがあるだろ! 」


 既に食べ始めているバカ女神の頭を叩き中断させる。

「なにすんのよ! 今、食事中なのよ! 」

 だから食べる前にやることがあるだろ!

「あいさつ、食事する前にするのが普通だろ」


 そういうとバカ女神は不思議そうな顔をして

「はっ? 何で私が『いただきます』なんて感謝しなきゃいけないの? 私が感謝される側じゃないの? 」

 いけしゃあしゃあとふざけた事を言いやがる。


「料理を作った俺はお前に感謝しろと…。そう言いたいのか? じゃあいいお前は食うな! 」

 そういってバカ女神の前からトースト、ハムエッグ、サラダを取り上げる。

「はっ! なにすんのよ! 私に食べてほしいんでしょ、食べてあげるから渡しなさいよ! 」


 そういって取り上げた食事を奪い返そうとこっちによってくる。

「ふざけるな、お前みたいなバカに食わす飯は無い! 」

 バカ女神を払いのけテーブルに着くと

「なんでよぉ~、私が食べてあげるの! 渡してよぉ~! 」

 隣に座ったバカ女神に強奪させる。


「はぁ、もういいや…。いただきます」

 そういって自分の分の食事をとってモニカが食べやすいように作っておいた雑炊に息を吹きかけモニカの口元に運ぶ。

「もぉ、1人で食べられるよ! でもありがとね♪ 」

 そういって蓮華によそった雑炊を口に運ぶ。

「美味しい、ありがとう! 」


 モニカはニコニコしながら食べきってくれた。

「ほら食器片づけるから持ってきて! 」

 モニカの食器などを持ってキッチンのシンクに向かう。

「ちょっ、あっ! 」


 アルテミアさんの言葉と同時に山羊乳が入った器が飛んでくる。

「ちょっ! 」

 器はキャッチ出来たが中身の山羊乳が飛び出て顔にかかる。

「うわぁ~ごめんね。大丈夫? 」


 服は山羊乳だらけになった…。

「マジかよ…」

◆◇◆◇

「もぉ~、そんなに怒らないでよ。わざとじゃないんだよ! 偶然なんだよ! 」

 アルテミアさんが隣で謝罪をしてくる。

「いや、別に怒ってないよ。身体も洗ってきたし服も洗濯したから」

 そういって家の隣の畑にむかっていく。


「ねぇ、畑って何をする場所なの? 」

 バカ女神は不思議そうにこっちを見てくる。

「えっ! 知らないの? 」

 思わずアルテミアさんの方を見ると


「いや、私は知ってますよ! 知らないのはヴィーナスぐらいだと思います」

 呆れた顔でアルテミアさんはバカ女神を見つめていた。

「どうせ、いかがわしい所なんでしょ! あぁ~やらしい」

 そんなことを言って、まるで汚物を見るような目でこっちをみてくる。


「ねぇアルテミアさん、あのバカにどういう教育したの? マジで疑問なんだけど? 」

 アルテミアさんはばつが悪そうに苦笑いをしている。

「何よバカって! 私は女神だからバカじゃないわ! それにバカって言った方がバカなんだから! だから貴方の方がバカなのよ! 」

 そういって俺を指差し笑っている。

 

「もういいや、早く行こう」

 家から少し歩いた場所にある畑に着き、サクモツノ収穫をおこなう。

「これは、何? 」

 どうやらアルテミアさんも畑が何をする場所か分かっていても作物のことは分からないらしい。


「これは、マンドレイクの根って言って20日ぐらいで出来る根菜だよ! 俺がいた昔の国では二十日大根って言うんだけど1つだけ・・・」

 全部言い終わる前にバカ女神が

「さっさと抜いちゃおうよ!」

 そういって収穫を勝手に始めてしまった。


「ヴォェェェェェェッッッッ!!! 」

 案の定やってしまった・・・。

「やっぱり収穫時期が少し遅れちゃったか」

 女神が引き抜いたマンドレイクの根は既に食べ頃が過ぎてマンドレイクの幼体になっていた。


「なっ、何の音ですか!? 」

 診療所から、リアが飛び出してきた。

「リア…いや、俺の知り合いが説明を聞かないで勝手に抜いたらこうなった…」

 リアに説明をするとナイフを持ち、耳栓をして固まっているバカ女神の方に行く。


 ザクッ!!

 リアは大声を出しているマンドレイクの幼体の口にナイフを差し込み、息の根を止める。

「まったく、ライムお兄ちゃんもライムお兄ちゃんだよ、何で収穫時期を間違えるのかな? マンドレイクの幼体になったら食用に適さないのに…。薬用に使えるからお兄ちゃん、私が貰うね! 」


 そういってリアは診療所に戻っていく。

「まったく、いつまで固まったままなんだよ! 」

 そういってリアに教えてもらった治癒魔法を唱えて治療を施す。

「しっ、死ぬかと思った…」


 バカ女神は目をパチクリしてキョトンとしている。

「だから人の話を聞かないからそういうことになるんだよ」

 そういって残りのマンドレイクの根を収穫していく…。


「いったいこれはなんだ?」

 畑にはピンク色の蓮の様な花が動いている。

「地中の中を動くとか絶対おかしいだろ! 何だよあれ? 」

 もう一度バカ女神に抜くようにけしかける。


「えいっ! 」

 けしかけられた女神は何の躊躇も無く花を引っ張った!

 「キャァァァァァァァッッッッ!!! 」

 地中から女性の叫び声が聞こえた・・・。


「ちょっ、何この声! 」

 女神達はその声に驚き、しりもちをついてその場でガクガク震えてしまってる。


「もぉ~! また何かやらかしたんですか!

お兄ちゃんがきちんと教えてあげてくださいよ! 」

 リアが診療所から出てきて耳栓をつけて畑を確認する。

「えっ! 何でこんなところにアルラウネがいるんですか!? 」


 普段は冷静なリアが驚き、興奮している。

「そんなにスゴいことなのか? 」

 驚いてる理由がいまいち分からないのでリアに尋ねると

「当たり前じゃないですか! アルラウネは

マンドレイクの亜種で薬品としても最高級品でアルラウネはマンドレイクと違って魔像物じゃなくて魔人種なんですよ! 」

 

 つまり話が通じる相手だってことだ・・・。

 地面にしゃがみこみアルラウネに話しかける。

「さっきは急に引っ張ってしまってごめんなさい。でも、何でこの畑にいるんですか? 」

 そう声をかけると


「ごめんなさい! ここの土があまりにも栄養豊富でいい土だったのでつい…。すぐ出ていきますね」

 そういってどこかに行こうとしているのかガサゴソ音がする。

「いや、別にこの畑から出ていけって意味じゃないから! むしろここに住んでくれていいから! 」

 そう伝えると地面から顔をヒョッコリ出してきた。


「いいんですか? ここに住んで」

 不思議そうな顔をしてこっちを見つめていたので説明をする。

「ここに住んでる子達は種族とか関係ないからさ! だから気にしないでいいよ! それより土から出てきてくれる? みんなに紹介したいから! 」


 するとアルラウネは土からゆっくりと出てくる。

「ユキさんより色白です…」

 リアが土から出てきたアルラウネを見て驚いているが…

「それより服を着てくれるとありがたい…」

◆◇◆◇

「改めてよろしく! ライムっていいます」

 土を払って水を浴び、綺麗になったアルラウネに微笑みかけるとアルラウネも微笑み返してくれた。

「私の名前はフィーです。本当にここに住んでいいんですか? 人のあいだだと私は高価で取引されてるんですよね? 同胞がそれで何人も殺されました。正直ライムさんの事は話が出来るので信じたいとは思いますが、ごめんなさい。まだ貴方の事が信用出来ません」


 敵意に似た視線を送られる。

「それより畑にこのあと何を植えるの? 」

 空気を読まずにバカ女神がドロップキックをしてきやがった・・・。

 俺は態勢を維持できずフィーさんを押し倒す形でフィーさんの胸に飛び込んでしまった。


 やっちまった…。






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