7-37
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……
「さてメリク。これから俺と君はかなり困難な道を歩む事になる。覚悟は良いかい?」
国王陛下の意思に反する現在の状況に、俺は密かな高揚を感じずにはいられなかった。
最悪、国外追放されても不思議じゃないってのに。
きっと、ようやく自分の意思で動いている実感を得られたからだろう。
この世界……以前いた世界樹とは異なる世界樹に来てから、俺は常に流されていたように思う。
パーティを組むよう要請されれば応えたし、瞬間移動の能力を試して欲しいと言われればその通りにして来た。
オーダーも自分で選んだとはいえ、数少ない選択肢の中から選ばざるを得ないのが実情だった。
リズ達と嫌々一緒にいる訳じゃない。
でも、何処かで『そうしなくちゃならない』って思いが強かった。
王都に来たのも、キリウスを探すのも、天国に最も近い島ディルセラムを訪れたのも、俺の選択ではあっても意思ではなかった気がする。
でも今初めて、自分の意思と選択が一致している……と思う。
だから後悔はないし、怖じ気づいてもいない。
当然、勝算だってある。
「はい…………でも具体案がないと不安かも……」
「了解。それじゃ早速、これからの事を話し合おう」
今俺達がいるのは、俺が普段から寝泊まりしている宿の一室。
本来こういう打ち合わせは酒場とかでやるんだろうけど、今は余り人目につきたくない。
俺が討伐隊から離れたと噂になっているかもしれないし、メリクに対しても風当たりが強いと予想されるからだ。
そこに対してムキになっても仕方がない。
単純明快に、現状でベストの環境で行動するだけだ。
「今後の大まかな目標は『国王陛下に話を通して本隊とは別の俺達の部隊を認めて貰う』『必要な戦力を確保する』『実際にイーターを討伐する具体的な戦略を用意する』の三つ。まずはそこを詰めよう」
「わかりました…………でも最初の時点で難題ですね……」
「いや、ここは割とどうにでもなると思う。全面的に俺に任せて欲しい。というか、メリクは一切関わらない方が良い。万が一国王の逆鱗に触れた時、巻き込まれる事になる」
「それは……仲間とは言えないのでは」
「もし俺が拘束されたら、助けて貰わないと困る。そういう状況になっても君は絶対に逃げないし、俺を見捨てもしない。そう信じているからこそだよ」
詭弁でも綺麗事でもない。
これは立派な作戦だ。
俺の中の国王陛下への心証は、実は賭けに近い。
物凄く大らかで何事にも頓着しないようにも見えるし、熱い反面裏切り行為は絶対に許さないタイプにも見える。
前者なら問題ないけど、後者なら俺の行動は完全にアウト。
恐らくノーチャンスだ。
確率は1/2。
でも、無策で五割に賭けるのは主義に反する。
まずは、ビルドレット国王陛下の正確な人となりを調査する必要があるだろう。
「俺の知り合いに、国王に近い人物が二人ほどいる。その二人を中心に、国王の性格を聞き取り調査しようと思ってるんだ」
「性格を…………?」
「ああ。それでもし、裏切りを許さない人物だったら、俺達の独立は裏切りじゃないと証明しなくちゃならない。具体的には、部隊を分ける必要性を説けば良い」
要は、本隊とは別の"第二討伐隊"という立場になり、その意義を説くって訳だ。
実際に第二討伐隊という意識で動く必要はない。
国王にはそれで筋を通し、実際には自分達の力でイーター討伐を成すつもりだ。
「部隊を分ける必要性……索敵や陽動などの作戦を行える…………とか?」
「戦略の幅を広げるだけなら、本隊の中で役割分担すればいいだけだ。部隊を分けるのは、情報の共有をしない為。共有したら出来ない事をする為だ」
ここまで言えば、恐らくメリクは理解するだろう。
試すような真似をして申し訳ないけど、彼にも『自分で思い付いた』って体験をして貰った方が、きっと一体感が生じる。
俺ばかりが延々と説明するよりはずっと良い。
「…………本体の監視」
「正解! お見事」
案の定、メリクは即座に俺の狙いを当ててみせた。
彼は真理に辿り着ける人間。
だからこそ、彼と組みたいと思ったんだ。
「裏切りを許さない性格なら、万が一本隊が裏切りによって分裂するような事だけは避けたいと思っている筈。俺達が監視を行う事で、リスクを減らせると主張すればいい」
「確かに……それだとウォーランドサンチュリア人の僕がいる事に意義が生まれますしね…………」
既にヒストピア人とウォーランドサンチュリア人の合同チームは崩壊している。
その崩壊にウォーランドサンチュリア人の挑発行為が影響しているのは、とっくに報告が行っているだろう。
討伐隊を合同チームにすると決定したのは、他ならぬ国王。
もしかしたら、そのアイディア自体国王によるものだったかもしれない。
だったらかなり落胆しているか激昂しているだろうし、可能ならば修復をと考えている筈だ。
国王があの会議について正しい報告を受けていれば、ヒストピア側にも不穏因子、はっきり言えば裏切り者がいると疑うだろうし、双方に問題があると考える筈。
なら、ヒストピア側の俺とウォーランドサンチュリア側のメリクが組んで監視する方が、どちらか一方のみで行うよりずっと上手くいきやすい。
きっとかなりの確率で関心を示すだろう。
「方向性は理解しました……ではお任せしても良いでしょうか……」
「ああ。必ずクリアしてみせる」
従来、俺はこんな自信満々な物言いをする人間じゃなかった。
今もそれは変わらない。
でも、同じ国の人達に背を向けてまで俺に付いてくれた彼を不安にさせる訳にはいかないからな。
「後は…………戦力の確保と具体的な討伐戦略ですね……」
「その二つはセットみたいなものだな。戦力次第で戦略は決まるから」
「そうですね……討伐隊の人数は何人くらいを想定しているんですか……?」
当然の質問だ。
理想は本隊すら上回るほどの巨大戦力だけど、それはどう考えても現実的じゃない。
「俺の人脈で味方になってくれそうな人達は、最大で五人……くらいかな。本隊から引き抜くのは現実的じゃないし」
「なら最大で総勢七人程度…………ですか」
「本音を言えば、ウォーランドサンチュリア人にもあと一人くらい混じって欲しいんだけどね」
当然、それも現実的じゃない。
ただ、本当に願っている事ではある。
それをメリクに伝えたいだけだった。
「お気持ちは嬉しいです……」
伝わったのは良いけど、多少あざとかった気もする。
まあ、外国人との交流はそれくらいで丁度良いとも思うけど。
「何にしても、まずは国王の説得だな。後は、本隊のメンバーが正式決定した上でそれ以外の人達に声をかける。取り敢えずこれで行こう」
「了解です……では、僕からも一つ提案を」
大分解れてきたのか、メリクの発言が余り間延びしなくなってきた。
何より、遠慮せず話をしてくれるのが嬉しい。
モラトリアムのパーティだと、全員が同世代って感じがしている。
でも彼はなんか弟みたいというか……
「もっとお互いの事を知った方が良いと思うんです……」
この微妙に懐かれているような気がしないでもない絶妙な距離感が新鮮で凄く良い。
妙な気分になってしまいそうだ。
「えっと、それってどういう……」
「僕の出来る事を全部お見せします」
ほう。
「そ、それじゃやって貰おうかな」
「はい。では場所を変えましょう。ここで大きな音を出すのは良くないですから」
ほうほう。
確かにその通りだ。
それに、俺だけじゃ恐らく足りない。
「今の時間なら、多分大丈夫だ。行ってみよう」
そんな訳で、やって来たのは――――
『……真性の変態だとエルテは白い目で記すわ』
リッピィア王女率いるリッズシェアの訓練所。
稽古が終わって一息ついていたところだったのは良かったけど、エルテに『メリクを魔法で痛めつけて欲しい』と言ったら露骨に嫌な顔をされてしまった。
「誤解だ。彼の防御力を一通り確認したいだけなんだ」
『なら最初からそう言えば良いのに、何かわざと誤解を招くような表現をして人の気を引こうという幼稚な打算が見えるとエルテは呆れ顔で記すわ』
そんなつもりはなかったんだけど……感覚が鋭敏なのも考えものだな。
「どれくらいの威力の魔法を防げるか、試して欲しいんだけど、頼めるかな」
『ストレス発散になるから構わないけど、もし怪我してもエルテに非はないと責任の所在をはっきりと記すわ』
「まあ、その紙を証明書代わりにして貰って構わないけど。メリクもそれで良いかな」
「大丈夫……………………です………………………………どんな……………………………魔法にも耐えて…………………………………みせます」
間延び凄いな。
俺と二人の時とは別人だ。
恐らく原因は、シャリオがボーッとこっちを見ている所為だろう。
かなり緊張しているみたいだ。
失敗しなきゃいいけど……
『守る事に長けたウォーランドサンチュリア人に初級魔法は失礼だとエルテは記すわ。挨拶代わりに中級魔法で良い?』
「…………はい」
首肯しながら、メリクは大盾を構えた。
初めて出会った時からずっと持っているその盾は【エヴァラックの盾】と言うらしい。
盾は基本、接近戦では意味を成さない。
人間相手ならまだしも、この世界のイーター相手に接近戦を挑む人間は皆無だろう。
よって、遠距離攻撃を防げるか否かが重要になってくる。
高威力の魔法を防げるのなら、イーターの攻撃にもある程度の耐性を期待出来る。
その防御範囲次第では、戦略にかなり幅が生まれる筈だ。
『幸い、ここは魔法防壁で囲まれている部屋だから、遠慮なく行くとエルテは不敵に記すわ』
律儀に魔法を撃つ寸前まで筆談をこなしたのち、エルテは中級魔法の【ルビージュ】を放った。
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