7-23
あからさまに俺を排除しようと息巻いているのは、ウォーランドサンチュリア人の……確かラモネースだったか。
陽気で人懐っこい黒色人種って印象だったけど、その考えは改めなくちゃならないらしい。
「アンタか、Lv100どころか20以下のクソ雑魚ってのは」
「ああ、Lv12だ。でもこの世界では100も12も変わらないだろう? どっちもたった一体のイーター相手に何も出来ないって意味では」
「いいや、変わるね。こっちはなァ、これから世界の命運をかけて戦おうってんだ。人類にとって最後の大勝負になるかもしれねェ。オレらはこれから一体感を作っていかなきゃならねェんだよ。クソ雑魚が混じってたら白けちまうだろ? ハイレベルな人間が集まって力を結集させるから盛り上がるんだよ。邪魔者は帰りな」
……随分と捲し立ててくれるじゃないか。
こっちは呼ばれたから来たってのに。
「やめないかラモネース。彼を招いたのは、彼がこの世界で経験した事が我々の役に立つと最終的に判断したからだ」
一喝するように、ガーディアルさんが俺を擁護する。
だが、彼をもってしても収められないほどの不満がウォーランドサンチュリア人側にあるのか、空気は変わらない。
「あーしはラモネースに賛成。Lv12? 普通にあり得ねーし。そんなの要らないでしょ?」
露骨に罵倒してきたのは……ジェメドって女性だ、確かそんな名前だった。
一応、俺だって場違いなのは嫌ってほど自覚している。
だからせめて、この場にいる全員の名前は覚えてきた。
顔は記憶の中にしかないから、整合させるのは簡単じゃなかったけど。
「ま、一理あるね。こっちとしても、こんな事でヒストピア人全員にケチ付けられるのは、たまったモンじゃないよ」
とうとうヒストピア人側からも不満が噴出した。
彼女はイライザだったか。
昨日の時点で横柄な態度が目に付いてたけど、案の定だな。
「私も同意見。百歩譲ってLv80くらいならまだしも、Lv12なんて初心者と変わらないじゃない」
「そうですね。そんな人の体験談など不要です」
イライザに続き、勝手に性悪三姉妹と心の中で呼んでいたエリシア、シャンテリージャも呼応する。
見事に四面楚歌。
まさかここまでボロクソに言われるとはな。
勿論、良い気はしない。
彼等の怒りも尤もだ、なんて大人ぶった心持ちにもなれない。
ただただ腹立たしい。
「オイオイ、ウォーランドサンチュリアの連中は兎も角、同じヒストピア人までケチつけるこたーねーだろ?」
お、アポロンが擁護の声を。
「あァ? Lv100ギリギリの青二才が何言ってんだい? その貧相なシンボルを蹴り上げられたいのかアアン!?」
「い、いやそんなキレなくても! ただホラ、そんなリンチみたいにフルボッコにしなくてもいいじゃねーかって言いたかっただけでさ……」
立場弱いなアポロン……
でも、そんな中で俺を庇おうとしてくれたのは素直に嬉しい。
確かな友情を感じる。
現在進行形の仲間は――――
「……」
弁護する気一切なしって笑顔だな、ブロウ。
でも、ま……そうだな。
ここでブロウが擁護して納得させたとしても、俺が軽く見られている現状は変わりない。
俺の言葉は、連中に一切届かないだろう。
このナメられている状況を打破するには、俺自身の言葉で納得させなくちゃいけない。
「そもそも、その男を推薦したのは誰なんだよ?」
ヒストピア人が固まって座る一角を睨みながら、ラモネースは長机に肘を落とした。
相当苛立っている。
逆に言えば、今回のイーター討伐に対してモチベーションが高い証拠だ。
「それは――――」
「俺が売り込んだんだよ。参考にして貰いたいってな」
ガーディアルさんを遮るように、俺は挙手しながら捲し立てた。
俺の事を話したのはブロウだ。
それが推薦に当たるのかどうかは微妙だけど、このままだとあいつの立場まで悪くなる。
「勘弁しろよ。どんだけ目立ちたがり屋なんだ? 英雄ごっこは同じくらいのレベルの奴等とやってろよ。なァ?」
両腕を伸ばし、肩を竦めて『やれやれ』のポーズ。
同調した数人が失笑を漏らす。
きっと黙っている連中全員が、俺の参加を認めているって訳じゃない。
こんな事で時間を奪われる事自体が鬱陶しいと思っているだろうし。
その苛立ちが、この空間には充満している。
「ごっこなのは、全員同じだろ?」
まずはその空気をどうにかしないとな。
「あァ? 何言ってンだ?」
「この場にいる誰一人として、イーター討伐を成し得ていない。その状況で、一体感を作って何をするって? 選ばれし強者だけが集うオールスター、なんてシチュエーションに酔ってるのか? それこそ、全会一致のごっこ遊びだろうが」
当然、意図的な挑発だ。
もしそれでLv100以上の実証実験士であるラモネースにキレられて襲われでもしたら、最悪死まであり得るが――――
「このクソガキ……!」
「待て! 落ち着けラモネース!」
「お前の敵はそいつじゃないだろう! こんなところでケンカするなよ!」
案の定、両隣に座っていた好青年のドエムと、強面だが性格の良いジョーが止めに入ってくれた。
この配置じゃなかったら、とても実行出来ないな……こんな強攻策。
「君も君だ! そんな挑発的な言動は慎むべきだ!」
「先に挑発したのはその男でしょう。売られたケンカは買いますよ。仲良しごっこがしたくてここに来たんじゃありませんからね」
正直言うと、かなり怖い。
俺に反感を抱いている連中をはじめ、周囲全員格上だからな。
でも、そんな彼等でも、この世界の凶悪イーターと比べればちっぽけな存在。
ガーディアルさんですらも。
こっちはイーター相手に何度も生き延びてきたんだ、ビビってどうする。
「気に入られる為にここに来た訳でもない。我が物顔で俺達の住む世界を蹂躙し続けているイーター共に一泡吹かせる為に来た。実際、俺は一度それを実行しているし、自己流だけど攻略法についてもある程度は確立している。その経験を話に来たんだ。役に立たないというのなら、耳に入れる必要はない。一つでも多くの情報を手に入れたい奴だけ聞けばいい」
自分を大きく見せるには、堂々とするのが一番だ。
そして、ここにいる連中全員と気持ちが同じなのを伝える事。
自分がやって来た事への自信を躊躇わず口にする事。
詐欺みたいなものだけど、自分の声を届かせる為には必要な手段だ。
「一体感で倒せる相手なら、我々の国が滅びる道理はない。そうだな、ラモネース」
絶妙なタイミングでガーディアルさんが諭す。
というより……俺を泳がせたな。
彼なら強引にラモネースの怒りを鎮めさせるくらい、訳もなく出来るだろう。
「……チッ」
露骨に舌打ちした割には、さっきまでの居丈高な振舞いとは違い、静かに座している。
ふて腐れているような様子も見当たらない。
この切り替えが出来るあたり、その辺のチンピラとは流石に全然違うらしい。
「彼は確かに実証実験士としては未熟です。でも、凶悪なイーターが相手でも物怖じしない勇気……胆力があります。だから、イーターに対する洞察も人一倍冷静に行っていますし、理解力もある筈です。なまじレベルが高いからこそ、自尊心を砕かれ平常心をなくしてしまう。これまで簡単に倒せてた相手だからこそ、現実が受け入れられない。そういう僕達とは違った視点を、彼が与えてくれると期待して、僕は彼を推薦しました。ご理解頂きたく存じます」
そしてブロウもタイミングを見計らって俺へのフォローを始めた。
奴はLv150とあって、ウォーランドサンチュリア人からも一目置かれているらしく、その擁護で明らかに空気が軟化した。
特に女性方面の。
イケメンは無敵だ。
「私はその男と知り合って間もないが……見事に出し抜かれた事がある。作戦の立案、そして状況判断に関しては目を見張るものあった。湿地帯の温度。数値だけで彼を判断するのは早計だという意味だが」
例えがわかり難いのはいつも通りとしても、まさかアイリスまで擁護してくれるとは思わなかった。
隣のシャリオは眠そうにしてるけど。
「こちらとしても異存はないよ。済まなかったね、君」
「いえ」
四城騎士の一人、ノーレが穏やかな笑みを向けてくる。
流石に名前までは覚えていなかったらしいけど、それは構わない。
名前を売りに来た訳じゃないしな。
「話が纏まったところで、作戦会議を始めたいと思う。尚、エルオーレット殿下は今回の会議には出席しない。了承願いたい」
意外――――でもない。
王子様が作戦会議の席上にいたら、反対意見が出し辛いからな。
「では、まず討伐するイーターの選出についてだが……」
場の空気が締まっていくのがわかる。
実際、最初の議題にして最重要課題だ。
ここまで仰々しくイーター討伐隊を結成し、そして討伐を行う以上、中途半端なイーターじゃ意味がない。
国民を勇気付け、高揚させる為の討伐なんだから、大物でなければならない。
でも、倒せなければ何の意味もない。
打倒可能で、かつ名のあるイーターが求められる。
俺が簡単に実証実験を出来たカラドリウスやグールじゃ話にならない。
「それに関しては、私に考えがあります」
挙手しながらそう発言したのは――――四城騎士の一人、巨乳のラファルだった。
「幻のイーターと言われている『スライムドラゴン』など如何でしょう」
彼女が口にしたのは、聞いた事のある名前同士を組み合わせた結果、想像も付かない存在と化したイーターの名前だった。
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