6-22

「取り敢えず、今必要なのはこんなところかな」


 城内の稽古場にいつまでもデカい旗を放置する訳にもいかないってんで、四人で三往復してどうにか宿の傍の空き地まで世界樹の旗を運び終えたのが、もう一時間も前の事。

 ようやく今回の勝負に必須と思える物のリストを書き終えた。



・世界樹の旗を一人で立てられる装備品または魔法


・世界地図とイーターの分布図


・世界樹の旗の分析が出来るアイテムまたは魔法


・世界樹の旗をイーターに壊されない為の工夫



 上の二つは一分とかからず思いついたし、入手はそう難しくないだろう。


 旗の持ち運び自体は刹那移動で出来るから、寝かせたままでも問題ない。

 でも、移動した先で旗を設置するには、少なくともこの自分よりも巨大な旗を立たせなくちゃいけない。

 それには、俺一人の腕力では無理だ。


 万が一刹那移動で向かった先にイーターが生息していたら、そのスポットは諦めて再度刹那移動を使う。

 それで危険は回避出来るだろう。

 旗を立てている最中にイーターが現れた場合も、あとちょっとで……なんて一切考えず、速やかに刹那移動を使用するつもりだ。

 

 でも、リスクを最小限に抑えるには即座に旗を立てられる用意があるに越した事はない。

 アイリスさんがやっていたように風の魔法を使って旗を立てるのが現実的だろう。

 腕力を大幅にアップさせる装備品があれば尚良い。


 俺は現状、風の魔法を使う事は出来ないけど、一番低レベルの風魔法なら簡単に習得出来る筈。

 魔法自体、才能がないからあんまり興味なかったんだけど、この機会に自分に合ったものを覚えても良さそうだ。


 世界地図とイーターの分布図は、流石にオルトロスが所持しているだろう。

 イーターが何処にどれだけ生息しているかをリアルタイムで監視するのは難しいかもしれないけど、最低限の調査はやってる……と思いたい。


 下の二つは、結構厄介だ。


 まず、この世界樹の旗が本当にアイリスさんの説明した通りの物かどうかを調べる。

 そこを疑うのは失礼かもしれないけど、アイリスさんだって依頼人から受けた説明をそのまま流用している筈。

 彼女が開発に関わっている訳でもないんだし。


 となると、その信用度はアイリスさんとは無関係。

 本当にイーターを集められるのか、仮に集められたとして、直ぐに壊されないのか、本当に近付いたイーターをカウントしているのか……などを事前に確認しておかないと、後で骨折り損になっても嫌だしな。


 そして、仮に世界樹の旗の硬度がイーターの攻撃力を下回る場合、どうやって旗を壊されずに済むかを考えないといけない。

 幾らイーターへの誘引効果と解析効果があったとしても、破壊されてしまったら何の意味もない。


 とはいえ、イーターの脅威から完璧に身を守れる何かがあれば、この城下町の住民はここまで巨大な壁を周辺に作る必要はなかった。

 現実問題、正攻法は不可能と判断するしかないだろう。


 ならば、何らかの創意工夫が必要だ。

 イーターに見つからない、認識されないような旗の設置の仕方を考えるべきだろう。


「成程ね。確かに、これらを事前に全て用意出来たら勝ちは見えてくる。とはいえ、あくまでも可能性が上がるって話だけどね」


『イーターが多いほど危険度が増す問題には踏み込めていないとエルテは問題提起を記すわ』


 そうなんだよな……


 かといって、イーターと戦える訳じゃない。

 刹那移動があるとはいえ、イーターの密集地に飛んだら最悪瞬殺される可能性もある訳で。

 イーターの分布図といっても、イーターの現在地を正確に把握出来る物じゃないからな……


 ん?

 待てよ。


 確かイーターには位置情報通知タグが付けられてるんだったな。

 ならリアルタイムで位置情報はわかるのか。


 となると……頼む相手はテイル、もといステラになるな。

 ついでに他の件についても相談してみよう。


「シーラ君、何か良い案が思いついたんですね」


「思いついたっていうか、ほぼ他力本願なんだけどな」


 俺の表情で悟ったのか、リズは両の拳をギュッと握ってなにやら嬉しそうだ。

 彼女なりに、俺を激励してくれているんだろう。

 頑張らないとな。


「なら、ここからは別行動でいこう。僕達は他の女神候補を捜すよ」


『余り気乗りはしないけど仕方がないとエルテは無念を記すわ』


「不安ですけど頑張ります!」


 三者三様、それぞれにやる気の度合いは違うものの、今までにない一体感があるような気がする。

 俺もパーティを代表して勝負する以上、気合いを入れないとな。


 さて、ステラに会いに行こう――――





「我が名はステラ。円環の運命に導かれ安息の永久機関螺旋を纏し鈍色の光」


「そういうのはいいから」


 ってか円環好きだな。


「キャラ作りは大事なのに」


「それより、イーターのリアルタイムの位置情報を知りたいんだけど、なんか最新のアイテムとかない? 実証実験するから貸して」


「……ちょっと見ない間に強欲になった?」


「そういう訳じゃないけど、他にアテがないんだ」


 少女の姿をしたこのステラに頼むのは、それなりに抵抗があるし勇気も要る。

 でも他に選択肢はない。


「イーターレーダーならあるけど」


「なんか取ってつけたような名前だな……性能は大丈夫?」


「試作品だから、精度は七割くらい?」


 結構微妙だな……出来ればもう少し確実なのが欲しい。

 こっちも命懸かってるからな。

 簡単に妥協は出来ない。


 ……って偉そうに言える立場じゃないけど。


「それより、ステラに協力を仰ぐって事は、本格的にステラに付くって決めたんだね。ようやく軍門に降ったか」


「怖い物言いは止めてくれ……そもそも、俺は実証実験士だから依頼されればオルトロスとも普通に協力する」


 そもそも、俺達がこの城の中にいられるのは彼等の計らいだ。

 裏切りはすなわち、ここからの退去を意味する。


「つまんないの」


「あ、今もしかしてテイルになった?」


「元々テイルだけど?」


 あのテイル独特の口調とは無関係だったか。

 最初はなんかうざったく感じたけど、いざ消失すると恋しくなる不思議。


「……一応、イーターレーダーの精度を上げる為に、魔法と融合させてイーターの位置情報を完璧に解析する世界樹魔法が開発中だけど、その実証実験をする?」


「それ! 流石ステラ、円環に導かれし者は違うね!」


「そのとってつけたような褒め言葉は神経を逆撫でするの」


 なんとなく負の感情が生まれた際にテイルの口調に戻るっぽいな。

 だとしたら、テイルの時にはずっとストレスを感じていたんだろうか?

 確か、孤立してたみたいな事言ってたし。

 

「紹介状書くから待ってて」


「助かる。あ、それと……」


「まだ何かあるの?」


 俺が受けた依頼じゃないから、特に守秘義務とかないよな?


「世界樹の旗を解析したいんだけど、そういうアイテムか魔法があるならそっちも紹介して貰えると……」


「強欲が過ぎるの」


 怒られた。

 少女の姿をした女性に。


 とはいえ、ここは押しの一手だ。


「今回の件はリッピィア姫からの依頼に関わってる重要案件なんだ。協力して貰えると助かる」


「……その依頼内容を教えてくれたら」


 そう来たか。

 でもこれは守秘義務の観点から無理な相談だ。

 本人が許可すれば話は別だけど――――


「聞いてくればいいのか。ちょっと行ってくる」


「え?」


 ここで刹那移動を使って一瞬で聞いてきたらカッコ良いんだろうけど、流石にそんな理由でMPを空っぽにする訳にはいかない。

 多少ダサくても、走って聞いてこよう。


 公務が入ってないのを願うばかりだ――――





「別にいいよー。私とステラの仲だし」


 幸い、部屋で昼寝してて助かった。

 とはいえ、寝起きで明らかに思考回路動いてなさそうだし、発言を覚えていないパターンもあるなこれ。

 後で文句言われるのは怖いけど……ま、その時はその時だ。




 颯爽とステラの研究室に戻ると、既に紹介状は二通書き終わっていた。

 ありがたい。


「イーター感知魔法【ポジレア】の紹介状はこっち。イーターの基本情報を解析する魔法を作った人ね。んでこっちがアイテム鑑定用の開発品【真贋ルーペ】。どっちも試作品だから、失敗しても知らないから」


「了解。色々ありがとう」


 持つべき者は紹介力のある知り合いだな……こんなトントン拍子に事が運ぶとは。

 俺もしれっと有識者を紹介出来る人間になりたいもんだ。


「それにしても、あの子も妙な事を思いつくよね」


 "あの子"がリッピを示しているのは直ぐ理解出来た。

 そしてそれ以前に、ステラはリッピについて話す時、心なしか顔が優しくなっている気がする。


 この二人の関係に関しては、色々疑う必要はなさそうだ。


「リッピの力になってあげて」


「当然。今はその為に動いてるんだし」


「そういう事ではなくて……ね」


 影武者なんてやらせている負い目なのか、それとも友情なのか――――なんて些細な問題だ。

 彼女は心から、リッピの味方を欲している。

 きっと、自分の味方として俺を引き込みたいという気持ち以上に。


「今ここで答えても、忖度にしかならないでしょ」


 だから、そう答えておいた。


 返事はない。

 必要もない。

 

 俺達は多分、この日、この瞬間に同盟を結んだ。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る