3-11 虎の売り先?お屋敷の案内?
これから街の外に出て、一度屋敷の中を見てもらい、昼食後にセバスたちに足りない物を購入してきてもらおうと思っているのだが……バグナーさんやレイラさんが付いてきたそうにしている。
だが、俺はあまり大人数でウロウロしたくない。
まぁ、今日はどのみち体育館組の者が100人近く街に繰り出すのだから、一騒動ありそうだけどね――
有難いことに、公爵が暫くの間は街に衛兵を増員して巡回してくれるそうだ。
あまり手を借りたくないとは思っているのだが、公爵には既にいろいろ世話になってしまっている。
『……そう思うのでしたら、あの虎は公爵に譲ってあげたらどうですか? 値段交渉や面倒な手続きはバグナーに任せてしまえばいいのです。手持ちの予算も心許ないですし、公爵家なら資金の蓄えもあるので即金で払ってもらえ、活動資金に充てられて良いのではないですか?』
『でも、オークションで競わせた方が高値になるんだろ?』
『……それはどうでしょうか? 普通はそうですが、今回は公爵家が狙っていると分かった時点で他の者は引き下がるのではないでしょうか? 数回の価格アップ後、公爵家が絡んでいるのが知れた時点で打ち止めになるような気がします』
『あ~~確かに。公爵家に張り合うのは王家か同じ親戚筋の公爵家ぐらいだろう。よし、虎で貸しをチャラにするか。オークションで買うとネタバレしちゃうし、贈り物なら相手も知らないほうがインパクトあるしね』
『……それと、バグナーとレイラは、お昼を過ぎてるのであわよくばご馳走してもらえるのではないかと、淡い期待をしているようです』
『なるほど、料理部の飯が食いたいと……』
「バグナーさん、午後からあなたに一仕事してもらいます」
「私ですか? 何でしょう?」
「例の虎ですが、オークションに出しても公爵家が絡んでる時点でそれほど競り上がらないと思うのです。なので、午後から公爵様の都合次第ですが、バグナーさんの方で直接、販売交渉をしてきてもらいたいのです」
バグナーさんは少し考えた後結論を出した。
「確かにリョウマ君の言う通りかもしれない。他の貴族も下手に公爵家に対抗して、目を付けられたくはないからね。何か条件とかはあるかい? 君の方で最低価格とか決めておいてくれると交渉しやすいのだけど」
「正直あの虎の価値が分かりません。オークですら相場を知らないのです。なのでバグナーさんに一任しますが、条件として即金で貰いたいのです。できれば出立前の明日中に支払ってくれると有難いですね。あなたへの報酬は販売価格の1割でどうですか?」
「1割!? リョウマ君はあのサーベルタイガーの価値を分かっているのかい?」
「さっきも言いましたが、さっぱりです? 1割じゃ少ないですか?」
実は鑑定魔法で相場が分かるので価値は分かっている。
「いや貰い過ぎです。商業ギルドに行って、過去の販売記録や商人仲間から相場を精査してから交渉に向かいましょう。おそらく安く見積もっても億にはなると思うけど……本当に1割も貰っていいのですか?」
貰い過ぎだとバグナーさんは言っているが、オークショナーに支払う手数料が1割、最初に持ち込んで依頼した場所に1割で、本来は2割引かれてしまうのだ。今回最初に持ち込んだ場所というのはバグナーさんに該当するので、1割は元からある権利だと思う。
価値の低いものをオークションに下手に出すと、手数料でマイナスになるので注意が要るのだ。
「ええ、売値の1割お支払いしますよ。代わりに値段交渉や面倒な手続きは全部そちらでお願いしますね。あの虎の魔石はこちらで使うので既に抜いていますが、魔石なしでそんなに高値で売れますか?」
「魔石なしでも億は超えると思います。私に任せてください」
「これから街を出て、王都で使うお屋敷を召喚してお昼にしますが、バグナーさんも交渉前に一緒にどうですか?」
大人数での移動は目立つので本当は嫌なのだが、これから世話になる人たちだ。あまり邪険にするのは良くないと思い、食事に誘ってあげる。
パラサイトされないためにお屋敷は隠していたのだ。住居マンションを提供したのだから、お屋敷を今更見せるのを渋る必要もない。どうせ移動の際には出すんだしね。
「正直お昼をご馳走になれないかと期待していました。先日食べさせて頂いた夕飯の味が忘れられないのです……」
「「「あの! リョウマ君……ずうずうしいと思うのだけど……」」」
「レイラさんたちもお誘いしますよ、食べたいのでしょ?」
「「「ええ! ありがとう!」」」
街を出て1kmほど歩いたのだが、奴隷の何人かが体力なさ過ぎる。
チロルはすぐに俺が抱き上げて肩車をしてあげている。
目線が高くなったのが新鮮なのか、俺の頭に手を乗せてキャッキャと嬉しそうだ。元子爵家のご令嬢なのでこういうはしたないことはしたことないのだろう。
横で「ん!」っと言って手を差し出している雅は可愛いのだけど、肩車をする年齢じゃないだろ?
セバスとマイヤーが何か言ってくるかと思ったが、微笑ましそうに俺たちを見ている。礼節は教えてもらうが、うちは貴族家ではないのであまり煩く言うなといい含めてある。俺の意図がちゃんと伝わっているのだろう。ナビーが薦めてきただけあって実に優秀だ。
さしあたってはエリス、クレア、チロルの体力づくりかな。距離で1㎞、時間で15分歩いただけでへばっているようでは、仕事自体に差支えが出るレベルだ。
俺たちA班なら3分と掛からない距離なんだよね。
少し街道からそれた空きスペースにお屋敷を召喚する。
「「「エエエッ~~!?」」」
驚き過ぎて最初に声を上げてから、口をあんぐり開けて屋敷を見上げて呆けている。
「君たちが王都で暮らすのに使う屋敷だ。細部に拘った、俺ご自慢の逸品だぞ」
「ご主人様、早く中が見たいです!」
チロルが俺の頭をポンポンと叩いて催促してくる。
「あはは、ちょっと待ってろな。何人かで周辺に何匹かいる魔獣の狩りに出てくれるか? 1㎞圏内に8匹ぐらいいるようだけど、襲ってきそうなのはゴブリンの3頭ぐらいかな。食事中にこられたらウザいので事前に潰してきてほしい。B・C班と桜は調理に入ってくれるか? ハティ、お前は一番遠くにいるホーンラビットを狩ってきてくれ。兎は煮込み料理にすると美味しいから狩っておきたい。お礼にハティのお昼にはリンゴジュースを付けてやるからな」
「ミャン!」
雅と薫がゴブリン退治に出てくれた。
「龍馬君、もうお昼過ぎちゃってるから、材料を切るだけで簡単にできるスタンプボアのお鍋で良い?」
「良いね! 今日は寒いから牡丹鍋は体も温まるしね」
獣人たちはスタンプボアと聞いて超喜んでいる。やっぱお肉好きなんだ。
「D班と大影先輩と柴崎先輩はこっちに来て下さい。この屋敷の2階以上に入るには個人認証が要るのです。あ、アレクセイは悪いが上の階には入れないぞ。バグナーさんもレイラさんたちも駄目です」
しれっとバグナーさんたちも付いてこようとしていたが、入禁組は食堂で待機してもらう。レイラさんたちが不満そうだったので釘を刺しておく。
「上の階は王侯貴族などの上位貴族用の来賓室にする予定ですので、下手に登録してしまうと、暗殺や毒殺とか何かあった場合、真っ先に疑われますよ?」
「「「それはちょっと……」」」
15分ほどでお昼の準備ができるそうなので、その間に皆に屋敷の案内をしておく。
お屋敷の間取り
中世ヨーロッパ風鉄筋仕様レンガ造りの4階建て
・1F:厨房・大食堂・リビングルーム・応接室・執務室。メイド用居室6部屋
・2F:メイン浴場・応接室・リビングルーム・メイド用居室4室
・3F:メインリビングルーム・小浴場・来客用居室30室・メイド用居室4室
・4F:リビングルーム・キッチン・客用居室4部屋・仲間用居室20部屋・メイド用4室・浴場
「セバスとマイヤーには1階と4階に部屋を与えるので状況に応じて使い分けてくれ。前にも言ったが、セバスには俺たちが邪神討伐に出ている間の執事長的な立場で留守番組のサポートをしてもらう。留守番組の責任者は美弥で、厨房の監督者は茜に任せてある。侍女長的なことはマイヤーに任せるので、美弥と茜の指示に従ってくれ」
「「了解しました」」
「旦那様、少し宜しいでしょうか」
「なんだ?」
「この規模のお屋敷だと、今いる奴隷だけでは足らないかと進言いたします」
「マイヤーの懸念は掃除などの維持管理のことを言っているのかな?」
「はい。勿論毎日頑張って掃除いたしますが、どれほど頑張ってもこの広さだと今の人数では追いつかないかと思います。少なくてもあと10人は必要ではないでしょうか」
「この屋敷はあらゆる箇所に魔道具を仕込んでいて、俺のオリジナル魔法の【ハウスクリーン】という魔法で管理されているから、掃除は一切必要ないよ。お風呂場も厨房も含めてね。お風呂も24時間、適温管理されているからいつでも入れる。掃除は魔石に魔力を込めるだけだから、誰でもできるし、一瞬で済むから時間もかからない。厨房での食器の洗い物や衣服などの洗濯物も魔法で一瞬で終えるので、正直お前たちの仕事は特にないんだよね。調理もうちの女子が行うし、今のところシーツ交換や【クリーン】で綺麗にした洗濯物を畳んで各自のクローゼットに片付けるぐらいかな」
「全て魔道具で管理なされているのですか? 確かにどの階も適温に温度が保たれていますし、塵1つございません。ですが、仕える主人たちに食事を作っていただくのは了承しかねます」
「料理は彼女たちの趣味のようなものだし、雇っても彼女たち以上に美味しいものを作る料理人はそういないよ。この話はまた後でしよう。取り敢えず各自個室を与えるので、空調魔道具の温度調整の仕方や、お風呂の使い方を説明しておく」
「分かりました」
「3Fの小浴場は暫くはセバス専用にするので、マイヤーさん以外は入らないように。2Fの大浴場と4Fの浴場は入口にプレートがあって、俺が入っている時には青いプレートを掛けるので気を付けて確認してから入ってくれ。見られても良いならいつでも入ってきても良いけどね。俺が入ってない時はいつでも利用して構わないので好きに入ってくれていい。ただ、毎日入ることを義務にするので、億劫がらずに入るように。逆に俺に見られたくない者がお風呂に入る際には、赤のプレートを差すようにね。青は俺、赤は女子なので、それを見て判断するといい。差すのを忘れて俺と中でばったり遭っても文句は聞き入れないからね」
「ご主人様、お風呂凄いです」
「龍馬君、これ何? その辺の温泉施設より凄いんだけど?」
「そうよ、こんなの聞いてないわ……」
「大影先輩と柴崎先輩ですか。あなたたちに教えたら、間違いなくズルいとか言ってたでしょ? だから黙ってたし、公爵に貰った土地でも敢えてこの屋敷は出さなかったのです。寄生しようとする者がでそうですからね」
「このお屋敷やお風呂を見たらね。それと前にも言ったけど、私も柴崎先輩とかじゃなく皆のように名前で呼んでくれないかな?」
「そうよ。他の娘は名前で呼んでるのに、大影先輩とかちょっと疎外感で悲しくなってくるわ……」
確かにこの二人以外は全員名前で呼んでいる。以前にも言われたけど、美咲先輩も含めて年上の名前呼びはちょっとハードルが高いのだ。
美弥だって未だに美弥ちゃん先生と呼んでるくらいだ。
「正直、年上の名前呼びはちょっとハードルが高いのだけど……。分かった、美紀と友美も4階のどこかに入ってくださいね。他の者はマイヤーの指示に従って部屋割りを決めるように。チロルはマイヤーかクレアが面倒見てあげてくれるか? 流石にその歳で個室は逆に可哀想だ」
「兄様、チロルは菜奈が面倒を見ます」
「ん、私もチロルと一緒で良い」
雅の奴、もう帰ってきてる。その横で、ハティも尻尾を振っている。
「そういえばそういう約束だったね。うん、2人で面倒を見てあげて。それと雅と薫、ご苦労様でした。ハティもお帰り。皆、随分早かったね」
「ん、走って行ってきた」
「雅ちゃん、足速過ぎ……追いついた時にはもう倒しちゃってた」
「ミャン」
魔石と兎を各自提出してきたのだが、兎に一切傷がない?
パッと見、傷が全くないのだけど、これどうやって狩ったんだ?
『……ここから猛ダッシュでまっしぐらに兎まで駆けて、勢いそのまま兎の首にカプッと噛み付き、首をへし折ったのです』
言われて見れば首が折れているようだ。歯で傷つけないようにし、首だけ器用に折って即死させたんだね。
「ハティ、傷もなく首だけ折ってきたんだな。毛皮も高く売れるし、肉もこれだと傷みもなく解体できるよ。よくやった偉いぞ~」
「「「凄い。賢い子だね」」」
獣人たちから称賛の声が上がる。ハティも尻尾を振って褒められたことが嬉しそうだ。
「龍馬君、お昼の準備できたよ」
「お、もうできたの? じゃあ、皆も食堂に移動しようか」
桜が呼びにきてくれたので、皆で食堂に向かう。
カセットコンロを使い、4人1組で1つの鍋を囲む。
「お肉もまだ一杯あるから、遠慮しないでどんどん食べてね」
「「「はーい」」」
「「「美味しい!」」」
獣人とレイラさんたちの食べっぷりは今回も凄かった。兎人族のルフィーナはお肉より野菜が好きなようだ。
やはり兎だけあって人参が好きなようで、モキュモキュ小さなお口で食べている姿は可愛かった。
本日の昼食
・スタンプボアとオークの水炊き(ポン酢と胡麻ダレ)
・オークステーキ(塩コショウ焼き)
・米飯
・プリン
オークステーキは欲しい人だけ出してあげた。主に獣人たちの為のものだね。
チロルとハティにはリンゴジュース付きだよ。
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