3-8 三田村先輩の出発日?アレクセイの居場所?

 今日はかなり忙しくなる予定だ。朝食までにパソコンで事務仕事をしておく。


『……マスター、ミーニャがきましたよ』

『あ、そうだった。桜たちの作るご飯欲しさに、昨晩で家族とお別れしたんだよな?』


『……お別れする覚悟自体は奴隷商に身を売った時点でできてましたからね。彼女は終身契約ですので、本来なら間違いなく貴族の性奴隷か娼館行きです。黒豹族って事を考えれば、上級冒険者が戦闘兼性奴隷として買う可能性もありますが、戦闘で傷つく可能性があるのであまり現実的ではないでしょう。攫われた娘や奴隷落ちした者と違い、自ら身を差し出したミーニャやリリー、ベルの覚悟は並大抵のものではありません。大事にしてあげてくださいね』


『勿論大事にするよ』



 人数が増えてリビングも少し手狭になったので、朝食を2交代で食べることにした。2組目が食べ終えるころに、ダリルとレイラパーティーがやってきた。



 領主たちがくるのは10時頃なので、それまでにいろいろ済ませることにする。



「リョウマ君、約束していた分の金を借りてきた。確認してくれ……」


 ダリルさんたちはどうやら昨日のうちに冒険者ギルドで借りてきたようだ。


「確かに受け取りました。では、こちらの借用書はお返しします」


 そのまま受け取ったお金をレイラさんたちに渡してあげた。


「あの、本当に私たちが貰っていいの? 本当なら、命を助けられた謝礼を私たちがあなたに払う側なんだよ?」


「それは十分承知です。うちのパーティーの中には『なんで?』って思ってる子もいるのは事実です」

「じゃあどうしてよ。お金を貰えるのは嬉しいけど、私には正直理解できないわ」


「理由はいくつかあるのですけど、うちはお金に困ることがないってのが一番かな。そして打算的なことを言えば、隣にいる拠点の女子たちを気にかけてあげてほしいって腹積もりがあるのです」


「隣の大きな建物にいるあなたの仲間のこと?」


「はっきり言っておきますが、仲間ではないです。同郷ではありますが、あくまで只の知人です。それでも、あの中に何人かは仲良くなった者もいるので、事前にトラブルに巻き込まれないように、ある程度信用のおけるあなたたちに声を掛けておくのです。彼女たちも勇者と同じような力を神に与えられているので、悪意ある貴族や商人、冒険者は湧いて出てくるでしょう。できれば、そういうのを気にかけてあげてくれると有難いです。それと、お金なのですが、全額遺族に渡すのではなく、7割にしてあなたたち3人で1割ずつ自分たちの分を残してくださいね。半分もらってもいいぐらいですが、遺族に渡す配分はあなたたちにお任せします」


「いえ、お金は全部彼らの家族たちに分配します」

「ダメです。そのお金はあなたたちへの慰謝料も含んでいるのです。お金の使い道まで指図したくはないのですが、亡くなった仲間の補充ができるまで、あなたたちの収入が下がるのですよ? 金欠で焦って変な仲間を引き入れると、痛い目を見るのはレイラさん自身です。お金はちゃんと受け取って、それが尽きるまでに仲間を見つけてください」


「そこまで考えていなかった……。分かったわ。私たちは王都を拠点に活動しているので、気を掛けるのは王都にきた者だけでいいのよね?」

「はい。後、無理に指導とかしなくていいです。只、気にかけてくれるだけで良いです。冒険者になりたいと言っている者も結構いるので、彼女たちの中からパーティーに勧誘するのもいいですね」


「えっ! 本当? 是非仲間に欲しいわ! あなたたちはダメなのよね?」


「ダメですね。うちは勇者パーティーですよ? 一緒に邪神討伐に行きますか? 今のレイラさんたちじゃ間違いなく邪神に到達する前に死んじゃいますよ?」


「「「そうだった! ごめん、邪神とかムリです!」」」


 レイラさん、ミラさん、アーシャさん……ハモッて即答ですね。



『……マスター、マリウスがきました』

『ん? マリウスって誰だ?』


『………………この地の領主で、王家の血をひく者です。マリウス・B・フォレスト公爵様です』

『そうだった! で、何の用だ? まだ約束の時間じゃないよね?』


『……もうすぐ三田村たちが出発するので、わざわざ領主自らお見送りにきてくれたのですよ。領主ですら足を運んでくれているのに、可哀想に三田村の出発を忘れていたのですね』


 はい、忘れていました―――


 ダリルさんたちとはこれでお別れだ。レイラさんたちには明後日の早朝に再度きてもらうことにする。バグナーさんはサーベルタイガーが気になっているそうで、10時にまた来るそうだ。



 希望者は門までお見送りに出ることにしたのだが、体育館組やうちからも結構な人数が参加した。


「三田村先輩、お気をつけて」

「ああ、優秀な騎士が行くそうだから、色々彼らから教わってくるよ」


『……本人はああ言ってますが、本当はマスターのパーティーに入りたいのですよ。でも、我儘だって分かってるので、自ら距離をとって救出隊に参加したのです。やはり好きな娘が他の男に惹かれていくのを見ているのは辛いようですね』


 でも、こればっかりは譲れない。

 美咲先輩が三田村先輩に気があるのなら、俺はパーティーに入れても良いと思っているが、当人は全くその気はないというのだ。ならパーティー内に不和を招く恐れのある人を加入させるわけにはいかない。


 それに俺も美咲先輩が好きなので、恋愛感情を持たれて見られるのは不快に思う。



「水谷先輩は行かないのですか?」

「可愛い女子を助けに行くのならね……。バカな野郎の為に行く気になれない」


 気持ちは分かるけど、女子の前でそういうことを口にするからこの人はモテないんだよね。


『……あ! マスター、参加者の中に三田村に好意を持ってる娘がいます。獣人の娘には縁がなかったですが、今度はどうでしょうかね。なんだかんだで彼、チャンスはあるのですよね。後はそのチャンスを生かせるかどうかです』

『えっ? どの娘? ちょっと興味がある』


 ライトブルーのショートカットの娘だ……結構可愛い。髪色からして水系ヒーラーさんかな?


『それとなく三田村先輩に教えてあげても問題ないか?』

『……教えてあげないと、気付かない可能性が大きいですね。彼女自身奥手で、自分からは声を掛けるような娘じゃありません』


 そっと三田村先輩だけ呼んで教えてあげる。


「さっきから、三田村先輩のことをチラ見している娘がいたので、気になって女神に問い合わせたところ、三田村先輩に好意を持っているらしいです。ですが、奥手で男子とあまり話したこともない娘なので、先輩の方から意識して声掛けしてあげないと進展はないそうです」


「俺は……」

「先輩が美咲に好意を持ってるのは知っていますが、可能性のない娘を追いかけるより、好意を持ってくれてる娘に気を向けてみることから始めてみてはどうですか? 大きなお世話でしょうが、叶わぬ恋をいつまでも追うのはストーカーと同じですよ」


 あえて美咲と呼び捨てにする。可哀想だけど、失恋の傷は浅い方が良い。想いを募らせ、諦めきれなくなって暴走した者がストーカーやレイプ犯になるのだ。自分から距離をとるくらいなので、三田村先輩は大丈夫と思うが、好意を持ってくれてる娘がいるのならそっちの選択もありだと思う。あくまで先輩の気持ち次第だけどね。


「ライトブルーのショートカットの娘です」

「エッ!? ウソだろ? 磯崎さんが? マジで?」


「彼女のこと、知っているのですか?」

「学園でいた時に、レベルアップの遠征に参加してた隣のクラスの娘だ。大人しめの娘で、男子からも人気のある女の子だよ。マジか……龍馬、嘘じゃないよな?」


「がっついちゃだめですよ。これまでの誠実さに好意を持ってくれたのですから。今回の救出隊の参加もポイントが高かったようです。三田村先輩の参加を聞いてから、彼女も名乗り出たそうです」


 複雑な顔をしていたが、このチャンスを生かすかどうかは先輩次第だな。三田村先輩に回復剤と解毒剤を多目に持たせて救出隊を送り出す。馬車と馬を使ってなので4、5日もあれば到着できるそうだ。



 公爵様とも一旦ここで別れる。




 俺はその足でセバス夫婦を迎えに行き、拠点に戻る。


「セバス、自己紹介をしてもらえるか」


「はい。セバスでございます。わたくしは元々冒険者でして、伯爵家で専属の護衛を長年いたしておりました。そこで執事の教育をしていただき、伯爵家の子家にあたる子爵家の家宰として雇って頂いておりました」


「セバスの妻で、マイヤーと申します。同じ子爵家で侍女長をさせて頂いておりました。皆さまよろしくお願い致します」


 奴隷落ちした過去をあまり語りたくないのかもしれないけど、少し説明不足だな。


「少し補足しておくね。セバスは働きぶりを買われて伯爵家で準男爵の爵位まで与えられていたほどの好人物だ。家宰として子爵家に晩年雇われいたのだけど、その子爵家のミスに巻き込まれてしまった。家の重責者は同罪として借金を背負わされる為、家宰と侍女長だった二人も金額が多かったため奴隷落ちにされてしまったというわけだ」


「龍馬君、貴族の制度のことは分からないけど、伯爵家の救済はなかったの? 親家なのでしょ?」

「事業に失敗した子家を、親家が救済するのが通例になってしまったら、子家の者が失敗を恐れず成功率が低くても手を出しちゃうようになるでしょ? 不作や災害などで一時的にお金を貸したり援助することはあっても、事業に関しては自己責任で、親家は手助けしないってのがルールのようだよ。一度でも救済の前例を作っちゃうと、あの親家は救済していたのに、うちの親家はダメだとかいう者が出ちゃうからね。どこの親家も暗黙的に無視するのが決まりだそうだよ」


「成程~納得です」


「旦那様、仮住まいとはいえ、少しここは手狭ではないでしょうか? 公爵様がご用意くださったのでしょうか?」


「いや、このログハウスは俺の手作りだ。明日一日だけなので、少し狭いが我慢してもらう。男は俺とセバスとアレクセイだけなのだが、アレクセイが26歳とまだ若いので、男は嫌だと女子からクレームが出ている」


 俺の言で、アレクセイの顔が引きつってしまった。終身犯罪者奴隷の彼が売りに出されたら、過酷な場所に売られるのは必然だ。冒険者として買われても使い潰される事が多いし、なかなか売れなきゃ鉱山奴隷として買い叩かれる。


「我が身で恩を返す前に、俺は売られてしまうのか?」

「いや、拠点内でアレクセイを一緒に暮らさせるのを嫌がっているんだよ。1人男が混ざるだけで露出度の多いラフな格好ができなくなるからね。裸で走り回ってる裸族な幼女も何人かいるのでね」


「俺は子供に欲情したりしない!」

「子供には欲情しないだろうが、ここは超が付くほどの美人揃いだ。クレアやマイヤーも美しいだろ?」


「「あら、旦那様はお上手ですこと。うふふ」」


「確かにこれだけの美人……王都の高級娼館でも、ここまで粒揃いではなかった」


 おーい、自分で娼館に通ってたことバラシちゃって首絞めてるよ。それにお前が白狼族の超美しいアルヴィナに好意を持っているのはみえみえだ。


「心配しなくても、アレクセイを売ったりはしない。でも同じ屋敷は困るので、屋敷の外にアレクセイ用の小屋を建ててやるよ。大体このログハウスと同サイズのもので、王都に着いたら他に庭師とかも雇うつもりなので、そこで男は食事以外は纏まって生活してもらう」


「庭師の真似事なら俺もできる」

「少し宜しいかな。アレクセイ、あなたは旦那様に対して口の利き方を直す必要があるようですね。それと、旦那様は真似事ではなく、庭師を御所望なのだ。考えなく軽はずみに口答えするものじゃない」


 売られるのが嫌で何でもやるつもりでそう言ったのだろうが、セバスにぴしゃりと指摘される。


「うぐっ。おれ―――わたしは最近まで上級冒険者として暮らしていたので、口の聞き方が分からないのだ―――です」


「それをいうなら、私も元は上級冒険者ですが?」

「セバス、アレクセイを公の場に出すことはないので、あまり口うるさく言うつもりはない。だが、勇者パーティーの従者だと名乗っても恥ずかしくないくらいの、最低限の礼節を仕込んでくれるか? 気配察知力の高い灰狼族のアレクセイなら屋敷の周辺警護や王都内での買い物時の護衛や御者なんかもできるだろう。あとでその辺も話し合おう」


「承知いたしました」

「勇者の従者。そうなるのか……俺のせいで恥をかかすわけにはいかないな。セバス殿、ご指導宜しくお願いします」



 皆に今朝パソコンで作った金銭出納帳をファイルケースに入れて手渡す。


「龍馬君? これ何?」

「皆のお小遣い帳だね。計算の練習にもなると思って作った。午後から街に出て買い出しを行う。経費として支給するものと、お小遣いは別で支給するので、各自で記帳しておくように。セシル、皆に記帳の仕方を指導してあげてね」


「はい。分かりました」


「今日は、皆の服を買い揃えようと思う。各自11万ジェニー手渡すので、10万ジェニーは冬服の購入で使い切るように。下着類の替えも忘れないようにね。春になったらまた支給するので、冬物だけ買うこと。遠慮して寒い思いをしないようにちゃんとした防寒具も買うんだよ。1万ジェニーはお小遣いなので、さっき渡したファイルに記帳するように。その分はどう扱っても良いからね。買い食いをしても良し、追加で服を買っても良い。好きに使うといい」


「あの御主人様。実家の家族に送金とかしても良いのでしょうか? ご主人様が私たちの為にくださったものなので、自分たちで使うのが本当なのでしょうけど……」


「ベルは優しいね。ちゃんと俺の気遣いまでしているところが良い。お小遣いはどう使っても良いよ。でも、皆が買い食いしている時に我慢して、横でお腹を鳴らして涎をだらだら流されても、周りはあまり気分良くないから、その辺の気遣いはしようね。君たち全員に週に1度はお休みもあげるし、月に3万ほどお小遣いも出すので、あまりケチって物欲を我慢しないでね」


「はい、ありがとうございます。でも奴隷に3万ジェニーのお小遣い? 実家でいた時ですら、千ジェニーしかお小遣いはもらっていなかったのに……」


「旦那様、奴隷に3万ジェニーは多すぎます。3千ジェニーでも多いくらいです」


「セバス、俺はお金に困ることはない。安易に甘やかすつもりはないけど、一度仲間になった者はできるだけ快適に暮らさせてあげたい。終身奴隷だからって悲観することなく、働いて得る収入の喜びも感じてほしい。真面目な働き者には別途追加で特別手当てをあげるつもりだよ」


「了解しました」


「一度うちのクランのお屋敷を見せるので、全員で必要なものを買いだしてきてもらう。桜と茜には食材用に各自2百万ジェニーずつ渡しておくね。セバスには1千万ジェニー渡すので、屋敷を見たあと、接待用の食器や調度品の仕入れを頼む。もうすぐ公爵が指導員を連れてくるが、うちのクランには受け入れないので、そのつもりで発言してくれ。貴族や商人はすぐ言質をとろうとするので、皆も気を付けるようにね」


「「「はーい」」」



 お金を配給し、今日の行動予定を伝えるのであった。

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