3-6 異世界料理?フィリアの身バレ?

 奴隷商を出て、近くにあった宿屋内の食堂で奴隷たちの腹ごしらえを行っている。注文してからの待ち時間に、ある程度俺たちの説明をしておこうと思う。


「セバス、悪いが俺たちは貴族じゃない」

「はい、承知しております」


「え? 貴族っぽく話していたつもりだったけどダメだった?」

「いえ、旦那様はそれっぽくは見えましたが、お嬢様方の立ち居振る舞いで一目瞭然でございました」


「そうなんだ……」


「たとえば今もそうでございますね。そちらのお嬢様はチロルお嬢様と歳は同じくらいとお見受けしますが、貴族のご令嬢というより商家のお嬢様という感じですね」


「あなた……もうその娘は……」

「そうであったな……チロルをご覧ください。椅子に浅く腰掛け、足を地にしっかりつけ、背筋を真っ直ぐ伸ばしてちょこんと大人しく座っています。ですが……」


 そう言って、雅の方を見た。同じくらいの背丈の雅は、深く椅子に座って背もたれに背をあずけているため、足が地についていない。しかも子供っぽく足をピコピコ跳ねて落ち着きがない。確かに貴族令嬢と、商家のお嬢様って感じで、あからさまに違う。


 途中でマイヤー夫人が言葉を止めさせたのは、チロルのことをつい昔の癖でチロルお嬢様と呼んだためだ。チロルはもう貴族でもないし、雇い主の子供でもない。これから礼節を教える立場なのだから、マイヤーが『お嬢様』呼びを注意したのは当然だな。


「うちは貴族じゃなく勇者パーティーなんだ。この世界の人間でもないのでいろいろこの世界の法や規則などが知りたい。明日、公爵家からそういう指導をしてくれる者がくるが、その人をずっと同行させるつもりはないので、あなたたちを急遽買った次第だ」


 勇者パーティーと言ってもピンとこなかったようなので、少しこれまでの経緯を説明した。


「そうでございましたか。神託で勇者召喚が行われたと噂には聞いておりましたが、旦那様たちが……。確かに国の手配する者を同行させていては、国に逐一行動を監視されているのと変わらないことです。ですが、そのような世界の存亡に関わるほどのお方のクランに、私どものような子爵家を没落させてしまった家令で宜しかったのでしょうか」


「俺たちの国では縁というものを大事にする。いろいろな行動や選択の結果偶然繋がった縁だが、それをただの偶然としてとらえるか、良い縁としてとらえるかは当人たち次第だ。俺は今回の出会いは良縁だと感じている」


「縁でございますか? そうかもしれませんね。終身奴隷に落とされ、残り少ない余生を夫婦で過ごせないのか……と愁いていたところを夫婦共々拾っていただきました。老骨でもお役に立てるなら、心血を注いで御恩をお返ししたいと思います」


「今後王族や神殿の高い地位の者も関わってくるので、最低限のマナーを今いる奴隷たちに躾けてほしいのだ」


「今、旦那様たちは何人ほどのクランなのでしょう? あと、旦那様たちの方への指導は宜しいのですか?」

「現状奴隷が8人、君たちを入れたら12人。勇者パーティーが21人だ。俺たちにもある程度のマナー教育はしてもらうつもりだけど、それほどきっちりやるつもりはない。俺たちはこの世界の人間ではないからね。ルールは守るつもりだけど、王族だから、貴族だからと言って、俺たちを抑制することはさせない。国が無理強いして邪魔してくるようなら、邪神討伐の前にその国を先に滅ぼしてやる……」


「「!!…………」」


 ちょっと引かれてしまったかな。


「まぁ、心配するな。一応女神フィリアが選んだ勇者パーティーだ。悪いやつはいないよ。こちらから国に喧嘩を売るようなこともしないし、できるだけ多くの者を助けたいとも思っている。今回こうやって躾教育をしてもらうためにあなたたちを買ったのも、事前にトラブルを避けるためだしね」


「思ったより大所帯でございますね。その奴隷の中に掃除や洗濯、料理のできる者はいるのでしょうか? 家事全般の指導はマイヤーが全て教えこむことができますが、調理技術は流石にプロには及びません。王侯貴族を招待する機会がございますのでしたら、名のある料理人を雇われた方が宜しいかと思われます」


「その辺は問題ない。明日見てもらうけど、実はうちの屋敷は基本掃除や洗濯などする必要がない」

「あの? どういうことでしょう?」


「屋敷全体に家を綺麗にすることに特化した俺のオリジナル魔法の【ハウスクリーン】という魔法が施している。洗濯は魔力を注ぎ込めば【クリーン】で一瞬で終える。食器洗いもそうだな。うちは家事で奴隷が苦労することはないぞ。調理もプロ並みの娘たちが沢山いるので多分大丈夫だろう。この世界の料理がどんなものか食べてみないと分からないけどね」



 色々話しているうちに料理が運ばれてきた。


 ・オークのステーキ

 ・ハリハリネズミの香草焼き

 ・野菜スープ

 ・黒パン

 ・生野菜のサラダ


 奴隷たちはみんな美味しそうに食べている。


「セバス、マイヤー、いま食べてる料理は美味しいのか? 点数を付けるなら何点だ?」


「この店は宿屋ですが、それなりに美味しいですね。私的には85点ですかね」

「大変美味しゅうございますが、80点ですね。王侯貴族に出せるようなものではございません」


「エリス、クレア、チロルはどうだ? 何点付ける?」


 う~ん……。


 セバス  85点

 マイヤー 80点

 エリス  100点

 クレア  90点

 チロル  85点


 これまで食べていた物によって個人差がかなりあるようだ。


「あの、旦那様たちはどうなのでしょう?」


「俺は75点、美味しいけど、また来たいと思えるほどじゃないね」

「ん、70点……不味くはないけど、美味しくもない」

「70点ですね。最近美味しい物を毎日食べていたので、少し口が贅沢になっているのかもしれません」


「随分評価が低いようですね……」


 オークステーキを2枚出して、皆に切り分けてやった。


「うちで出すオークステーキと言ったら、これが基本ランクのやつだ……」


「「「美味しい!」」」


「これならどこに出しても良いお味です。それより、旦那様の【亜空間倉庫】はひょっとして……」


「ああ、マイヤーもクレアも気づいたようだね?」

「「はい……驚きました」」


「俺は良い人材を手に入れられたみたいで嬉しいよ。気付きもしないで美味しいと食べる娘も嫌いではないけど、それなりの知識と頭の回転の速い者の方が有用性はあるからね」


「ご主人様ごめんなさい……」


 農家の娘のエリスはまだ分かっていないようだ。

 クレアさんは元商人だし、時間停止機能のある【亜空間倉庫】のことは知っていて当然だろうからね。


 チロルにプリンを出してあげたかったけど、味見のオークは別として、店の中への持ち込みは失礼だと思い自重した。



「それにしても、奴隷の価格おかしくないか?」


「どういうことでしょう? 旦那様の話術で相場より安く買われたと思いますが」

「いや、安過ぎるって話だ。契約奴隷より終身奴隷を買った方が遥かに安いのではないか?」


 普通に雇うより終身奴隷の方が日割りしたら遥かに安いと思ったのだ。


 たとえば日給5千ジェニーで契約奴隷を1年雇ったとしよう。実労300日で計算したとして1年で150万ジェニーになる。クレアが500万ジェニーだったから、4年もしないでお得になる計算だ。


「ああ、そういうことですか。旦那様はご存じなかったのですね。終身奴隷には年税がかかるのです。用途によってかかる税も変わるので、自己の資産配分を考えて購入しなくては税で苦しむことになります。性奴隷などは飽きがきたり、若い娘の方が良いでしょうから、数年で買い換える者の方が多いです。何カ所も転々とする奴隷には購入者が付きませんし、飽きたからと処分するのにもお金が要りますので、終身奴隷の方がお得とは限りません。終身奴隷は生きる希望を失った者が殆んどですので、使いにくいというのも理由の一つに挙げられます」


 成程ね~、一生自由がないと思えば病んでも仕方がないよな。やる気のない病んだ人間を扱うのは難しい。【奴隷紋】で縛っているので、無理やり働かせることは可能だが、やる気のない人間が雑な仕事をするのは目に見えている。それを鞭などで脅し、恐怖で支配し脅しながら働かせるのだろう。



 もっと色々話が聞きたかったが、クレアがソワソワしていたので今日は帰ることにする。娘のことが気になるのだろう――


「明日の午前中には迎えに来るので、2人はこの宿で待機していてくれ」

「「はい、お待ちしております」」




 セバス夫婦と別れて、拠点に戻る。エリス、クレア、チロルの【個人認証】をし、ログハウスに入った。


「セシル! ああ、良かった……旦那様、ありがとうございます!」

「え? お母さん! 嘘! ご主人様? どうしてお母さんがここに……」


「奴隷商で見つけて連れてきてあげたよ。お父さんまでは流石に面倒見きれないけどね……」

「ご主人様、ありがとうございます! お母さんとはもう二度と会えないと思っていました……嬉しいです!」


 二人で抱き合ってわんわん泣いている。


「龍馬君……その娘、やっぱり売らなかったんだ?」

「途中で奴隷商に売りに向かっているバグナーさんに偶然会ってね。菜奈と雅がやっぱり可哀想だからって止めたんだよ。エリスとチロルは菜奈と雅が責任を持ってくれるそうだから、何かあったら俺じゃなく二人に言ってサポートさせるようにね」


「そうなんだ……まぁいいわ。王都に着いたら売り子でもやってもらうから、特に問題ないわ」


 桜的には歓迎してくれるようだ。それよりなにか全体の雰囲気が重い。


「桜、何かあったのか?」

「ええ、フィリアが自分が例のミスした女神だって、あなたが出て行った後に大影先輩と柴崎先輩に言っちゃったのよね……」


「あたた、いずれは言うつもりだったけど、もっと仲良くなってからにすればいいのになぁ~困った女神様だ」


「そうよね。フィリアの気持ちも分かるけど、タイミングって大事よね」


「とりあえず皆を集めてくれるか? 新しく入った人の紹介と部屋割りを決めなおさなきゃいけないからね」



 さて、大影先輩たちがどんな対応をするかで今後の方針がかなり変わってくる。フィリアを拒絶するなら二人にはここを出てもらい、明日にでも王都に出発する。秘密厳守ができないようなら、体育館組からフィリアが責められる可能性があるからだ。そうなったら、ここにはいられない……。



 できれば面倒なことにはなってほしくないな。

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