2-7-6 盗賊警報?強化薬湯風呂?

 警戒中のナビーが何か異変を察知したようだ。


 盗賊?


『ナビー、盗賊が近くにいるのか?』

『……いえ、まだ計画段階のお話なので確定ではないのですが、念のためにお知らせすることにしました』


 詳しく聞いたら、今現在向かっている商都の宿屋で、2つの盗賊団が合同で襲撃の算段をしているのだそうだ。商都の宿屋の値段や空き状況を調べていたら偶然見つけたのだそうだ。ナビー、優秀すぎる。


 襲撃対象は勿論俺たちではなく、明後日の朝に商都を出立する商隊のようだ。


 商隊は護衛を雇うので、盗賊にに襲われることはあまりないようだが、今回の隊に高レベルの強い護衛者がいないという情報を得た盗賊団が、合同で襲う計画をしているみたいだ。



 盗賊団はどこもそれほど強くない。

 当然だ……強い者なら盗賊なんかに落ちぶれないで、冒険者として稼いでいける。


 盗賊になる者は冒険者として稼げない奴らや、喧嘩とかでつい人を殺してしまって町や村を逃げ出し、行き着いた先が盗賊団という者たちばかりなのだ。元傭兵や元冒険者のそこそこ強い者が幹部としているくらいで、下っ端は群れていないと何もできないほど弱いし、馬鹿が多いとナビーが教えてくれる。


 ヤバいのはその幹部たちで、快楽殺人者や性犯罪者が多く、自ら好んでやりたい放題できる盗賊になった者たちだそうだ。


『盗賊団が合同で襲うほど、今回商隊は良い物を運ぶのか?』

『……対象にされているのは、奴隷商と宝石商の混成商隊です。本来なら上級冒険者を3人以上と中級パーティーを1パーティーほど雇うのが襲われない基準なのですが、上級冒険者との折り合いがつかず、中級冒険者を2パーティー雇ったようです。15日に一度出ている国営の乗合便に便乗して追従して行けば襲われないのですが、宝石商の者が貴族に依頼された納期があるようで、仕方なく個人で雇って出立するみたいですね。そこに便乗する形の奴隷商なのですが、オークションに掛けて高級娼婦として売る予定の娘が5名もいるようで、盗賊たちからすれば美味しい得物のようです』


 出立が急ぎで護衛は手薄なうえに、女と宝石が手に入る美味しい襲撃対象か。


 明日早朝に出発すれば、今日のペースなら閉門前に商都に到着できる。だが、俺たちが明日到着すれば商隊が襲われる。知ったことじゃないのだが、襲われた女たちは悲惨な末路を辿ることになるのは明らかだ。


『……襲撃は確定ではありませんよ。盗賊団からすれば中級冒険者もかなりの脅威です。少なからず被害が出るでしょうから、少し尻込みしています』


『まだ未確定なのか……』

『……合同で襲撃することになれば、盗賊団側は上級冒険者クラスの者が4人になるので確実に成功するでしょう。配分の話が上手く纏まりそうなので、多分襲うという流れになると思います』


 ナビーが事件を事前に発見するたびに関わっていては、フィリアの勇者召喚の本来の目的を果たすまでに余計な時間を喰ってしまう。


『どうしたら良いと思う?』

『……ナビー的には救ってあげてほしいです。ですが、襲撃タイミングを合わせるのは難しいかと。待ち伏せ中の盗賊をこちらから先に襲うのが一番簡単なのですが、それだと奴隷商の娘たちが娼館や貴族に性奴隷として売られてしまうのですよね』


『娼婦とか言ってるのだから、娼館って俺たちの世界でいう風俗店のようなところだろ?』

『……そうです。既に性奉仕も含めた契約をしている者もいるようですね。オークションに掛けられるので、行先は確定ではないですが、皆、美人なので貴族に買われるか娼館行きが濃厚でしょう』


『本人はそれに同意しているのか?』

『……いいえ。家や兄妹の為に渋々といった者と、攫われて奴隷に落とされた者もいます』


『自分からってのも凄いな。昔の日本は半強制的に親や亭主に売られたとかだったそうだから、それを思えばまだマシなのかな。可哀想とは思うけど。でも、攫われた者もいるのか……う~~ん』


 同情はするが、他家のお家事情まで首を突っ込む気はない。


『……そうですね。この世界の事情を考えたら、小事にかまけている時間はないのでした。余計な事をマスターの耳に入れてしまい申し訳ありません』


『いや、関わるかどうかは俺が判断するので、情報はできるだけ事前にほしい』

『……分かりました。それでどうなされますか?』


『21:00~のミーティング時に皆の疲労度を見て判断するよ。体力的に持ちそうなら、可哀想だけど盗賊のことは無視して明日一気に商都入りする』


『……了解です』



 温泉で疲れを癒した後、俺と美弥ちゃん先生と桜は転移魔法でログハウスに一時帰還する。



「龍馬君、転移魔法を使えば、1kmみんなで移動しなくても良かったんじゃない?」

「桜、冷たくない? 俺一人でお屋敷を出せる地点まで移動しろってこと?」


 実際可能だが、それを言ってしまったら全て転移魔法で事が終える話だ。100人いるが、【飛翔】で俺一人商都まで先行し、その後【テレポ】でMP回復剤をがぶ飲みしながら4回に分ければ商都までその日のうちに移動が終える。


 従来での転移魔法は100kmほどまでで、人数も重量に比例して2、3人が限度らしい。消費魔力が多すぎて、普通ならこれぐらいが限界で、これ以上は魔力不足で発動しないそうだ。闇属性が高いこの世界の上位転移持ちでも、100kmを1PTで1回が精一杯でそれ以上は昏倒する。


 俺のようにレイドパーティーを組んで30人での転移とか有り得ないそうだ。もしこのことがこの世界の者に知れたら、軍事利用しようとしたり考える奴が必ず現れる。高レベルの暗殺者に、いきなり30人で襲われたら防ぎようがない。国としてもこの能力は脅威に感じるだろう。できるだけ隠しておく必要がある。わざわざ皆で商都に向かうのは、スキル隠蔽の為の大移動なのだ。 


「龍馬君でも一人は寂しいの?」

「そういうのじゃないよ。お屋敷のお披露目で感動を共有したかったんだよ。先に俺だけ見ちゃったら、一人だけ浮いちゃうかなって思ってね」


「造った当人の龍馬君が知らないという、その辺の裏事情を先生もっと詳しく知りたいな~」

「だよね! 私も知りたい!」


 桜と美弥ちゃん先生に肩を掴まれ、吐けと言わんばかりに威圧される。


「皆がいる時に1回で説明を終えたいんだけど……」


「皆に話してくれるの?」

「婚約者限定だけどね。桜と美弥ちゃんにはある程度話してるけど、俺の秘密ってことだろ? 話すなら、万が一関係が壊れて裏切られても許せる相手じゃないとね。話したからと言って俺には何のメリットもないんだから」


 皆の疑問は晴れるだろうが、俺にメリットはない。黙って秘密にしておく方が良いくらいだ。




 ログハウスから出て、拠点施設に入ったのだが、皆ぐったりだ。いつものリーダーを集め、明日の予定を決定する。


「龍馬、皆の状態を考えたら1日で向かうより、移動距離を短くして2日に分けた方が良いだろう?」

「ええ、俺もそう思います。格技場の男子はどんな感じです?」


「俺たちは部活で鍛えてるけど、それでも足にきているかな。腕力はあるけど、陸上部や野球部みたいに走り込んではいないからな」


「先輩たち男子がそれだと、文科系や部に入っていない者はきついでしょうね」

「料理部の娘たちがそうだろ?」


「彼女たちは皆より遥かにレベルが高いので、あまり参考にならないですよ。【脚力強化】とか皆、持っていますしね」


「そうなんだ……」


 高畑先生の意見も、2日に分けてほしいとお願いされた。明日は少し遅めの9:00出発にして、移動距離も40kmほどにした。



『……マスター、この流れですと盗賊団とかち合いそうですね。どうなさいます?』


 どうやら、向こうの話し合いも終えたようで、襲撃確定だそうだ。


『そうだな。少し時間ロスになるが、盗賊のおもちゃにされるより、娼館の方が女の子たちもかなりマシだろうから、タイミングが合えば救ってあげようと思う』


『……マシというより、盗賊に捕まった女子は最悪ですよ。風呂にもロクに入っていないような男たちに散々おもちゃにされた後、最終的には同じく娼館に売られるのです。しかも任期のない終身奴隷としてです。若くなくなり体で稼げなくなった女は、別の奉公先に売られます。一生自由はないのです』


『それは悲惨だな。できるだけ救ってあげるように動くよ』

『……そうしてあげてください』


 盗賊のことは皆には言わず、今は保留にしておく。余計な心配はできるだけさせたくはない。盗賊団が相手だと、殺人もしなきゃいけない可能性があるからだ。



「ところで、小鳥遊君はともかく、森里先生や城崎さんも随分元気ですね?」

「だよな、【脚力強化】だっけ? 俺たち格技場の奴ももっと熟練レベルを上げた方が良いのか? ちなみに俺は勝手に習得してて、いまレベル2なんだが?」


 三田村先輩は学園を出てからここまでの移動の間に、【脚力強化】を自己習得したようだ。


「あ、三田村君、これは多分違う効果だと先生思うな~」

「森里先生どういうことです?」


「龍馬君が薬湯風呂の効果をあげてくれて、それで疲労がほぼ回復しているの」


 しまった! 桜がバラしてしまった。

 すぐに止めるべきだった。三田村先輩や高畑先生が詰め寄ってきた。


「薬湯風呂に追加で魔力草や毒消し草をお風呂に入れて浮かべただけですよ。疲労回復効果が上がるので」


「そんな効果が有るなら、なんで私たちのお風呂にもしてくれないのですか? ズルいです!」

「そうだぞ龍馬! 俺も効果の高い薬湯風呂に入りたい!」


 メールで応援を呼んだようで、柴崎先輩や大影先輩たちもやってきた。桜と美弥ちゃん先生は俺にごめんねと謝ってくれるが、こうなってしまってはもう手遅れだ。



「元の薬湯風呂に魔力草と毒消し草を放り込むだけですので、自分たちでやってください。最初は少し揉んでお湯に成分を出す必要がありますが、大した労力ではないでしょう。お風呂から出る前にシャワーで洗い流すようにしないと、体に匂いが残るのでそこだけは注意です」


 男子との兼ね合いはそっちで話し合ってもらうことにし、薬草類を少し多めに渡しておく。



「優も冷たいわね。一緒にお風呂に入ろうって誘ったら、今日はこっちで皆と入るって断られたのよ。自分だけ良い薬湯風呂とか入ってたのね」


 大影先輩が、ブツブツいっている。優ちゃんにまで飛び火しそうだな。この件は俺に非はないので、責めるなら美弥ちゃんと桜にしてもらおう。

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