2-7-5 部屋割り?AI比べ?

 4Fリビングで夕飯を食べているのだが、みんな少し興奮気味だ。個室の部屋割りで揉めている者もいる。


「兄様、玄関はどっちの方位になるのですか?」

「買う土地によるだろうけど、地球の風水学では玄関は南が良いそうだけど、この世界では北西向きが良いそうだよ。このお屋敷も玄関を北西にしたら、日光の取り入れ的には一番理想形になるかな。ベランダ的テラスがあるのは玄関の裏側だし、主だった居室も裏側にあるからね」


「兄様の部屋はどこの予定なのですか?」

「龍馬は勿論妾と一緒じゃよな?」


「フィリア! 抜け駆けはダメよ!」

「兄様は一緒の部屋は嫌がりますよ……」


 そうなのだ。俺は人が一緒だと寝つけないのだ。余程疲れていない限り、部屋の者が全員寝付くまで自分は寝られない。人数が多いほど、寝付くのが遅くなってしまう。小中学校の修学旅行では常に寝不足で苦労した。


「俺、人が居ると中々寝付けないんだよ。できれば寝る時は1人が良いんだよね」


 無理な話でした――


「龍馬は妾たちに寂しい思いをさせないのではなかったのか?」

「そうよ、毎日とは言わないけど、好きな人と一緒に寝たいってのは女の子の憧れの1つなのよ」


 フィリアや桜、美弥ちゃん先生まで一緒に寝たいと言ってくる。何とも嬉しいことなのだが、1人で寝れそうにないのはちょっと悲しい。それに君たち、皆で寝たら性処理どうするの? 中学生ばかりのこの場では言えないけどね。後で婚約者だけで、きちんとそういう話もしないとね。


「分かったよ。いまポケットコイルマットのベッドを作製中なので、それまで待ってほしい。学園のベッドはシングルサイズで狭いし、2つ並べてもどうしても間の繋ぎ目が気になる。それにボンネルコイルだから、誰かが動くと全体が揺れて目が覚めてしまうのも良くない」


「ポケットコイルって兄様が実家で使ってた物ですね?」

「うん。あれだとスプリングが独立してるから、1人が寝返りやトイレに行くのに動いたとしてもあまり揺れないからね」


「龍馬先輩、そのポケットコイルのベッドって先輩の分だけ作っているのですか?」

「勿論皆の分も造っているよ。他にも何種類かのベッドを開発中なんだけど、ポケットコイル製のモノは王都に着く頃には人数分できているはずだよ」


「龍馬先輩ありがとう! 実はそのベッドほしかったんですよ! でもちょっと高いでしょ。お母さんに普通のにしなさいって言われて、家具屋さんで断念したことがあったんです」


 沙希ちゃんが過去話を語ってくれながら、とても喜んでいる。

 でもそれって小学生の頃の話だよね。固めのベッドの方が成長期には良いらしいからお母さんの選択で正解じゃないかな。あえて言わないけどね。



 それからも部屋決めで話し合いが続く。


「玄関の方位は、買う土地によって変わるのね?」 

「そうだね。王都の城壁の内部にこのお屋敷を出すとしたら、買った土地に隣接する道路がどの位置にあるかで決まっちゃうからね。なるべく北西に玄関が来るように探すつもりではいるけどね。あと周囲の建物に合わせるつもりなので、ひょっとしたら門と玄関までの間に庭園とかが必要かもしれないので、やっぱ買った土地次第になるね」


 城壁内に広大な土地はない。魔獣が入らないように高い壁でぐるっと囲っているのだ。人間はその壁の中で魔獣を避けるように、纏まって暮らしている。



 さて、一番人気の南東角部屋なのだが、どうやらくじ引きで雅が引き当てたようだ。この部屋は窓も多く、一番日当たりの良い場所だ。


「ん! 日頃の行いが良い」

「クククッ! 西日で夏に苦しむと良いのじゃ!」


「ん、フィリア負け惜しみ。元女神の癖にみっともない」

「ウッ、負け惜しみなどではないわ! 絶対夏は暑いのじゃ!」


 フィリア、確かにこの世界の主神だったとは思えないおこちゃま発言だ。なんだか実体を得て、マジで見た目通りに幼女化してきてないか不安だ。


「その心配はないよ。このお屋敷の窓は全て普通のサッシと違って、ログハウスと同じ特殊ガラスだから、太陽光なんか幾らでも紫外線なんかを含めて調光可能だよ。強力な空調設備も完璧だしね」


 4Fエリアは土足厳禁で、全エリアバリアフリー仕様の床暖房が入っているので、どこに居てもあったかい。

 冬は暖かく、夏は涼しく快適なはずだ。


「龍馬君、なにかこのお屋敷での注意点はあるかな?」


 美弥ちゃんの質問だが、特に注意するようなことはないな。


「特にないですね。今日は水着着用で開放しますが、通常は俺が入ってる時はこれまで通り入口に『入浴中』と表示させておきますので、それだけ注意してくれればいいです」


「龍馬先輩、いつも水着着けていれば問題なくないですか?」

「あくまでお風呂だからね。体を洗う際にわざわざ脱ぐの? それに温水プールじゃないんだから塩素なんか混ぜて水質保持って訳にはいかないので、水質をできるだけ長く保持するためにも着衣はダメなんだよ。勿論お風呂同様タオルを湯船に浸けたりもしないでね。掛け流しだし、【クリーン】の魔道具で水質は常に綺麗な状態だけど、皆の協力なしではすぐ汚れちゃうからね。これまで通り、綺麗に掛け湯してから湯船には入ってね」


 いくら大きくてもプールではなくお風呂だと説明しておく。

 水温も温水プールよりかなり高いので注意がいると説明した。


「そっか、分かりました」



 夕飯の後片付けを終えたのちに、皆でお風呂に向かう。

 一応21:00から明日のミーティングを行うことになっているので、最長でも2時間ほどの入浴予定だ。



「んみゃ! ビリッときた!」

「雅、それは電気風呂だよ。あ、そうだ! そこのなんか変な色のお風呂に、全員必ず5分ほど入っておいてね! 薬湯風呂なんだけど、薬草と魔力草が入ってるから、今日の疲れがとれるよ」



 全員スクール水着なのだが、これをネット配信したらかなり稼げそうだ。


 体育教師じゃない美弥ちゃんは水着を持ってなかったそうだが、未来が貸したと言っていた。

 菜奈のじゃ、胸のサイズが合わないもんね。


「で、フィリアと雅は何ですっぽんぽんなんだ?」

「今更恥ずかしいもないじゃろ? 其方がいるから水着着用なのだろ? 妾は平気じゃ。雅に借りて、着てはみたのじゃが、あれは窮屈であまり好きではないのぅ」

「ん、私も必要ない」 


 それを聞いて、嫁の中の何人かが脱ごうとしてたので即止めた。


「他の者はちゃんと着ていてね! 可愛い娘の裸とか見たら、俺が欲情しちゃうでしょ!」


「なんて失礼な奴じゃ! 龍馬よ、今のはちょっと傷ついたぞ!」

「ん! ムカついた!」


 お怒りの幼女二人に4Fのスライダー乗り場に連行された。

 どうやらお仕置きのつもりらしい。だが俺からすれば楽しいだけだろうに。


「ヒェ~~! コワッ! ナニコレ!」


 予想以上に怖かった。いきなり15mほど垂直かと錯覚するほど落下したのだ。


 このお屋敷は4階建てだが、標準のマンションなら15階ほどの高さはあるだろう。1Fは多目的ホールに使われる場があるのでかなり天井を高くしてある。当然数カ所に魔道具のエレベーターが設置してある。この世界初のエレベーターだそうだ。



 何回かアップダウンを繰り返し、3回転のループ&コークスクリューを通った後着水する。


『ナビー! 頑張り過ぎだ! マジで怖かったじゃないか!』

『……楽しくなかったですか?』


『いや、「楽しかったけど怖かった」が本音かな。最初の垂直落下は心臓に悪い……』

『……改善しますか?』


『う~ん。皆の様子を見てから決めよう……』



 皆、超楽しそうだ。最初怖がってた沙織ちゃんも、3回目にはヒャッハーしていた。


『……皆、大丈夫そうですね。マスター以外は……』

『俺も大丈夫だぞ!』


『……なら、暫くこのままで良いですね。飽きた頃にコース変更を施しますね』

『建築後にコース変更とかできるのか?』  


『……事前に6コースのバリエーションを組み込んでいます。大きなコース変更はできませんが、パイプの繋ぎ方でコースを変えることが可能です』


 ナビー、優秀過ぎる!

 青い猫型ロボットほどではないだろうが、一家に1台ナビー様だな!


『……不愉快です! あのような空想上のロボットにナビーが劣るとは思えません!』


 そういえば俺の考えは筒抜けだったな。にしても、あの全日本人が欲しいと思ってる猫ちゃんより優秀だと?


『随分大きく出たな……「どこでもドア」すら持っていないくせに』

『……【テレポ】の転移魔法ではダメなのですか?』


『ん? 一度行った場所でないとダメだが、上手く使えば代用可能だな。じゃあ「竹コプター」』

『……あの速度では【レビテガ】と大差ないのでは? 未来から来たという設定なのにプロペラ仕様とか、先日マスターが創った【飛翔】の方が凄いですよね』


『確かに、『スパイ衛星』とかも放映時欲しかったな……』

『……ユグドラシル経由で、ありとあらゆる動画撮影は可能です。源静香ちゃん的な入浴の盗撮なんか、ナビーはしてあげませんけどね!』


『静香ちゃんの姓なんか今初めて知ったよ! じゃあ『スモールライト』!』

『……あれはアニメの世界の話であって、現物の物に物理法則を無視した事は無理なのはご存じでしょ?』


『流石にね。でも、吸血鬼の蝙蝠化やハティの件もあるから可能かと思った』

『……あれは特殊な事案です』


『タイムマシンとかは可能か?』

『……可能ですが、禁則事項なので教えられません。事象の書き換えは世界に歪みを与えます』


『だろうね。ドッペルゲンガーとかパラレルワールドとかいろいろ仮説があるけど実際どうなるの?』

『……その手のことは全て禁句指定されているので、ナビーは教えることができません』


『まぁ、聞いても理解できないだろうからいいや。話がずれたけど、確かにこの世界だと魔法や魔道具でかなり近いことができるよね。今後も俺のサポート宜しくな!』


『……ハイ! ナビーが全面的にサポート致します!』


 頼ると凄く嬉しそうにするんだよね。元は俺が創ったAI的スキルなのに可愛いヤツだ。




 打たせ湯やジャグジー風呂、浴場内を流れる流水プールのようなものに浮き輪を浮かべて遊び倒す。

 7種ある湯船も堪能した頃、ナビーから連絡が入る。


『……マスター、どうやらこの世界の住人との初遭遇は盗賊になりそうです。苛めっ子に苛められた事後に毎回駆けつけるダメロボより、事前に察知してお知らせするナビーの方がやはり優秀です』


 ちょっと根に持ってたんだね……。

 ユグドラシル経由で周囲を警戒していたようで、ナビーが何か見つけたようだ。

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