2-6-3 蜜蜂?沙希の決意?

 拠点を設置後、皆に蜂蜜採取の相談をしてみる。


「ここから3kmほど森に入った辺りに、ハニービーという蜂が巣を作っているそうなんです」

「龍馬、そのハチ、アリみたいに狩るのか?」


「分かった! 蜂蜜ね?」

「茜正解! 日本ミツバチに近い生態だそうなのですが、少し異世界入ってて、1匹の大きさが10cmもあるそうです。当然巣も大きいので採れる蜜も大量になるのですが……」


「巣には一杯蜂がいるのね?」

「桜正解! そうなんだよ……1匹は10cmほどで攻撃は偶に噛み付く程度で、メインは尻の毒針のみだけど、これもちょっと異世界仕様のようで刺すだけじゃなくて針を射出して飛ばしてくるそうなんだ。毒針の射程は5mほどで、毒性に即死性はないそうなんだけど、結構な猛毒で麻痺系だそうだ」


「麻痺毒ということは大量に打ち込まれると心停止とかで死ぬのかな?」

「うん。あとアナフィラキシーショックとかも起こすらしい。日本ミツバチだと一度毒針を打ち込むと、毒袋ごと内臓まで出ちゃって一刺しで刺した個体は死ぬらしいけど、こっちのハチは10本ほど替え針が備わってるそうなんだ」


「龍馬、それ無理だろ? 数万匹とか相手していたらマジ死ぬぞ?」

「1匹自体は凄く弱いんですけど、巣を相手にするとかなり危険ですよね」


「その蜜、勿論美味しいのよね?」

「超高級品らしいよ。西洋ミツバチっぽいのもいるそうだけど、ハニービーの方が蜜が美味しいから高額なんだそうだ。それと毒針が売れるようだね。なんか麻痺毒を利用して、肩こりや腰痛なんかの針治療に使うらしい」


「龍馬君的に狩れそう? こっちの世界の人はどう採取しているんだろう?」

「蟻と違ってミスった時に飛んで逃げるとかできないので、精鋭部隊だけで行こうと思う。こっちの世界の人は、重戦士ばかりのパーティーを組んで、中に防刃服を何枚か着て、その上にフルメタルアーマー装備で【亜空間倉庫】に持てるだけ蜜を取ったらそそくさと撤退するんだって。女王蜂を生かしとけば来年もまた巣が大きくなってて数年はその巣で蜜が採れるそうなんだ」


「養蜂じゃないけど、全滅させないで上手く活用してるのね」


 行きたいという者は多かったが、足手纏いなので却下した。



「メンバーを発表する。俺・美咲先輩・雅・フィリア・菜奈・桜・美弥ちゃん・未来・穂香・沙織・薫・三田村先輩で行く」


「龍馬先輩! 私も連れて行ってください!」

「俺も行きたいぞ!」


「水谷先輩は却下です。沙希ちゃん? 危険だよ?」


 沙希ちゃんは、オークに止めを刺すのすら最後まで躊躇ったほどの優しい娘だ。生き物を殺すのも、可哀想と言って凄く嫌そうなので、C班にいる娘なのだ。最近はハティの面倒を全面的に見てくれていて、ハティの一番のお気に入りの娘だ。


『……マスター、先日のお風呂での件で、自分も嫁にと声を掛けてもらったのが凄く嬉しかったようで。頑張って強くなろうという意識が芽生えたようです。マスターについて行くには、強さも要ると判断したようですね』


「ん、龍馬! 沙希は私が守るから連れて行って!」


 親友だけあって、雅は沙希の心情をくみ取ったようだな。


「三田村だけズルいぞ! 俺も連れてってくれよ!」


「じゃあ、雅と穂香で沙希ちゃんを保護してあげて、菜奈は専属でシールドのリバフをその3人に頼む」

「「「了解です」」」

「ミャン!」


「ん? ハティも沙希ちゃんを守るって?」

「ハティちゃん、ありがとう!」


「美弥ちゃんは、美咲先輩と桜と三田村先輩のリバフを、俺が残りのメンバーのリバフ担当をするね」

「「「了解」」」


「無視するなよ!」

「水谷先輩は、ダメですってば。三月先輩も今回飛行型なので、リーチのないガントレットは相性が悪いですからごめんなさいです」


「そうだね。飛行型は飛び道具とかリーチがあった方が良いよね。分かった、俺は留守番して拠点防衛をやるので、こっちは任せてもらっていいよ」


「水谷先輩、三月先輩を見習ったらどうです。今の発言で何人かの女の子がキュンときちゃいましたよ。それと比べてあなたは……女子の冷たい視線を感じませんか?」


「うっ……分かったよ! 俺も拠点を守るぞ!」

「人に言われた後に言ってもねぇ~……どうぞお好きに~って感じ……」


 女子に突き放されて、また隅っこに行っていじけちゃったよ。


「龍馬、俺は同行して良いのか?」

「ええ、他の剣道部員や剣道部女子も連れて行ってあげたいところですが、シールドのリバフ管理が大変になるので、この人数にします。管理ミスでバフが遅れたら、その人がどうなるか想像できますよね?」


「ん、蜂の針でウニ人間!」


「そういう意図もあるんだな……」

「また料理部だけズルいとかいう人がいるなら、どうぞ勝手にPTを組んで狩りに出て行って結構ですので、ハチの巣つついて、数万匹に刺されて死んじゃってください」


「兄様はどうしてそう余計なことを言うのですかね?」

「いや……例の我儘プーが何か言ってくる前に牽制をだな……」


「それ誰のことよ! 私だって数万匹とか相手にするのに、流石に無理言わないわよ」

「それ、柴崎先輩がビビってるだけじゃん!」



「それで、また夜行くの?」

「いや、今回は今から行く。もともと冬は越冬の為に巣に密集して殆ど活動しないようなんだよ。働き蜂は越冬しない個体もいて、春から夏にかけての蜜の採取季節だけで死んじゃうそうなんだ。女王蜂は流石異世界、なんと10年近く生きるそうだよ」


「またあの禁呪で仕留めるの?」

「そう思ってたんだけど……女王のいる部屋を残して1/3ほど巣を削って逃げようかと思う。魔獣じゃないそうなので、殺しちゃうとそのまま個体数が減っちゃうんだよね。魔獣だと魔素溜まりから神が調整して、減った分の個体数がどこかで戻るから狩り尽くすんだけどね」



「10cmもあるのに、魔獣じゃないんだね」

「うん。キラービーっていう蜂の魔獣がいるようだけど、そっちはスズメバチに近くって肉食系なので経験値は凄く良いらしいけど、このハニービーは蜜集めしかしないので、1匹当たりの経験値は凄く少ないそうだよ。寿命も働き蜂は1シーズンしかなくて凄く短いので、経験値的には美味しくないんだ」


「今回、あくまで蜜がメインなのね」




 ハチの巣があるのは、この森の規模で考えるなら森の入り口付近にあたるのだが、入って1kmで既に密林めいている。俺のように優秀なMAP持ちでないと迷子になりそうだ。


 蜂の巣の方に向かいながら、この森独特なキノコや薬草なんかも採取していく。



「でかいな……龍馬あれだろ?」

「ですね。思っていたよりでかいです」


「龍馬君、あれ大丈夫なの? 15mはあるわよ……しかも巣に群がってびっしり付いてるよ」


 見た感じだけでも、巣に数千匹が群がってひしめき合っている。


 巣に鑑定魔法を掛けて、女王蜂がいる部屋を特定する。どうやら女王は巣の最上部にいて、その直ぐ下の階層が次期王や王女になる子供たちの部屋のようだ。


 よし、これなら巣の下の部分をごっそり半分削って逃げれば、巣自体に壊滅的被害はないだろう。



「皆行くよ! 巣の下の蜜を溜め込んでる部分を魔法で切断して、その切った部分を禁呪で凍らせるので、中の生きている個体が死んで【亜空間倉庫】に収納できるようになるまで、何とか防衛戦をしてね。切り取った巣が倉庫に入ったら即逃げるからね」


「俺たちはそれまでの時間を稼げば良いんだな?」

「ええ、蜂自体は女王が最優先なので、巣からある程度距離を取ればそれ以上追ってこないそうです」



 蜜がたっぷり入ってる部分をメインに、上級魔法の【ウィンダガカッター】で巣の下位部を切断する。当然巣に群がっていた数千の蜂が一斉に飛んで、襲撃者を追い払おうと攻めてくる。


 落ちた巣に【寒冷地獄】をピンポイントで放つ。氷漬けって感じではなく、生き物に含まれる水分そのものを凍らせるイメージで放った。そうしないと蜜に水分が混じってしまうと美味しくなくなってしまう。



「ん! 龍馬まだ!? 凄く怖い! 急いで!」

「怖いです! ハティちゃん守ってね!」


「ミャン!」

『さきはハティが守ってあげる!』


 幼少組がビビってる。薫も果敢に槍で打ち落としているが、目は涙目になっている。

 巣から飛び出してきた分も加わり、現在俺たちの周りを4千匹ぐらいがブンブン飛んで針を撃ち込んできている。


「お! よし! 切り取った巣が倉庫に入ったので、速やかに撤退するぞ! これ以上刺激しないように、ゆっくり後退!」



 巣から300mほど離れたら、蜂は追撃しなくなった。



「龍馬、俺は二度とハチの巣採りは行かないからな!」

「ん! 超怖かった! 沙希大丈夫?」


「「怖かったよ~!」」


 見たら沙希はハティを抱っこして薫と一緒にプルプル震えていた。


 中一組のこの3人はいつも仲が良いな。見ていて微笑ましい。



「龍馬君、蜜は採れたの? あれほど怖い思いをしたのだから、一杯採れたわよね?」

「桜は逞しいな……大丈夫だ。今、俺の工房で分離作業をしている」



『……マスター、メッチャ甘いです! これ凄く美味しいです!』


 先にナビーがつまみ食いしたようだ……別に良いんだけどね。


『少し小皿に入れてもらえるか? 俺も味見してみたい』



「少し味見してみる?」

「「「味見する!」」」


 小皿に出して皆で味見してみた。


「「「美味しい! あま~~い!」」」


「龍馬君、これ超高級蜂蜜よ。和蜂が集めた蜂蜜も1リットル数万で売買されてるけど、それ以上の価値がありそうね。茜も喜ぶわ」



「龍馬、レベルが3つも上がってるぞ? お前経験値は少ないって言ってたよな?」

「そうなんですが、俺が凍らせた巣の中に7千匹ほどいたようです。数がいれば、少ない経験値でも結構なモノになるってことですね」


「沙希ちゃんも結構レベル上がったんじゃない?」

「あ! 本当だ! 11も上がってます!」



 そんなに上がっちゃったんだ……どこかでステータスの振り分けさせないといけないな。白黒世界に行かないように設定していたので、レベルは上がったが、ポイント保留のままなのだ。11レベル分を保留にするのは凄く勿体ないので、誰かのレベルが上がるのを待ってステ振りさせてあげたい。



「どこかでステ振りしたいので、誰かのレベルが上がるまで何か狩っていきましょう」


『……マスター! それでしたら、また蜘蛛が欲しいです! 近くに3匹いますので、それを狩ってください!』


 ナビーが言っているのはストリングスパイダーという糸蜘蛛だ。お尻から出す糸が高級糸でシルクのような肌触りのモノが作れるらしい。



 どうやらその糸を紡いで、ナビーは何やら工房内でやっているようだ。

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