2-3-3 雅が食べられた?蛇実食?

 料理部によるうな丼とキノコの入った味噌汁が提供されている。大盛況なのだが、ちょっと不安要素があった。


 そうなのだ、うな丼のあの甘辛く香ばしい、とても食欲のそそる匂いが周囲に立ち込めているのだ。風に乗って数キロほど匂いが届いてもおかしくない。


「皆ちょっと聞いてほしい! 俺の判断ミスで、ある事態が起きるかもしれない。気付いてる者もいるだろうけど、この匂いはヤバい。数キロ先までおそらく風に乗ってしまったと思う。念のために警戒態勢をとって、いつでも戦闘ができるようにしておいてほしい。あれほど香水やシャンプーの時に、匂いについてみんなに散々注意しておいて、ごめんなさい、俺の判断ミスです!」


「龍馬、気にするな! もしなんか来たら俺たちが真っ先に行ってやるよ! こんな旨いうな丼初めて食った! 異世界のウナギ、凄く脂がのってて旨いな!」


 三田村先輩を筆頭に男子が息巻いている。うな丼パワースゲー!


「美味しいのと引き換えに、ちょっと危険度が増しました。すみません」


 俺の思慮が足らなかったのだ、素直に謝った。

 だが、誰も俺のミスを責める者はいなかった。うなぎのニョロニョロ系がダメな者も、エビの掻き揚げ丼にしてあげたので、そっちも評判が良かった。勿論どっちも食べたいとお代わりする者もいたが、米だけは大量にあるそうなので認めた。


 食の充実は人を優しくする。食材を確保した俺に文句なんかないそうだ。と言うよりまた食べたいので、頑張って罠を一杯仕掛けてねと催促すらあった。



 その日の夜は、小型の魔獣が匂いにつられて襲撃してきたが、射程に入り次第【ホーミング】機能を使って、離れた位置から瞬殺していった。倒した魔獣は【自動拾得】機能で【インベントリ】にどんどん送り込まれてくる。


 やっぱ、この香しい匂いは超まずかったな。

 人間の鼻でも涎が出そうなくらいだ。鼻の良い魔獣が気が付かないわけがないのだ。 


 深夜2:00頃にやっと襲撃もなくなった。どうやら匂いも拡散されたようだ。


 昨晩は魔獣の襲撃が多かったので、俺の精液の採取はできなかった。ウナギ食べたのにだ。なので薬には限りがある。飲むタイプが5本、注入タイプの薄めたものが4本、薄めていないものが2本ある。



 早朝、昨日と同じ時間に周期中の二人を呼び出す。


「みどりちゃんと亜姫ちゃんもまだ周期中だよね? それとももう終わった?」


「「まだです! 注入タイプをください!」」


 亜姫ちゃんも迷わずそう言い放った。


「亜姫ちゃんは、タンポンも使ったことないんだろ? 大丈夫なのか?」

「分かりませんが、私もみどり先輩と同じものを使ってみたいです!」


「俺的には飲むタイプで効果があるなら、そっちの方を勧めるけど」


 頑として引かない……まぁいいけどね。


「昨日のはちょっと効果が高すぎたので、今回のは昨日の半分の濃度にしてある。効果はこれで十分だと思うので、これで試してみてほしい」


「ええ~~! 昨日のが良いです! どうして薄めちゃったのですか!?」

「昨日ので泡吹いて気絶しちゃった者がいるんだよ。強すぎる刺激は良くないからね」


「私には強すぎないです! むしろあれぐらいが良いです!」


 大人しいみどりちゃんにしては、恥ずかしそうにしながらも必死に抗議してくる。


「試しに今回はこっちを使ってみて。効果が薄かったら、また濃度を高くするからさ」

「分かりました……じゃあ試してみます」


 昨日のような失敗をしないように、注入器を2本渡したら俺は部屋を出た。

 すぐに中から艶めかしい声が上がった。


「龍馬先輩! ちょっと来てください!」


 緊迫した声で呼ばれたのですぐに部屋に入ったのだが、亜姫ちゃんがパンツを下ろして注入器をまだ挿入したまま、涙目で床にへたり込んでいた。


「何があった? 亜姫ちゃんには合わなかったか?」

「違うのです。あまりにも気持ち良くって腰が抜けちゃいました」


「って! 出血してるじゃないか! どうして無理に入れちゃったんだよ!? これ破瓜の血だろ?」

「あ! 本当だ……私の処女、注入器に奪われちゃった! ってか龍馬先輩何気にどこ見てるんですか!?」


「あはは! 私はタンポンだったけど、亜姫は注入器とか二人ともバカだよね! しかも先輩にしっかり見られちゃってるし」


 笑えないけど、当の本人は意に介していないようだ。


「どうする? 挿入したまま回復魔法を掛けたら処女膜は破れたまま回復されるので、次回からは注入器での痛みは少なくなる。抜いてからすぐに回復魔法を掛ければ、処女膜も回復されるので、処女性は失われない筈だよ」


 亜姫ちゃんは少しだけ迷った後に、このまま回復してほしいといってきた。

 処女性より、今後の注入器の使用を選んだのだ。


「中学生の二人には、飲むタイプの使用を勧めたいけど――」

「「却下です!」」


 回復魔法を掛けてあげて、処置を終える。


「龍馬先輩に私たち二人とも恥ずかしい姿を見られちゃいましたね」

「まぁ、そうだけど。今回の事は俺を医者と思って諦めてよ。実際現代の医者より俺の方が凄いんだしね。俺、自分で言うのもなんだけど、ヒーラーとしてかなり優秀だからね」


「確かにそうなんですが、恥ずかしさがなくなっちゃうと、元々先輩に好意を持っていたので、私もお嫁さんにしてもらおうかなって気になっちゃいました」


 亜姫ちゃんが爆弾発言をしてきた。


「そう早急に答えを出さないで、もっとちゃんと見極めよう?」

「私じゃダメですか? やっぱり桜先輩たちぐらい可愛くないと嫌ですか?」


「え? 何言ってるんだよ、亜姫ちゃんもみどりちゃんも料理部で可愛くない娘は一人もいないよ?」

「じゃあ、私も結婚したいって言ったら結婚してくれますか?」


「勿論いいけど、知っての通り婚約者たちの許可がいる。それにまだ中学生なんだから、拠点に落ち着いてから、もっと俺のことを見極めてほしいかな。今は吊り橋効果の影響が大きいと思うんだよ。だから、この旅の間はノーカウントにしておくね。王都に拠点を構え、そこで暫く俺たちと共同生活をしてみて、それでも俺のことを好きでいてくれるなら、その時は俺の方から改めてお願いするよ」


「結婚を断られたんじゃなくて、吊り橋効果の影響が少なくなってからもう一度告白してほしいってことですか?」


「ちょっと違うよ。亜姫ちゃんの告白自体はOKだ。俺に断る理由がない。嫁たちも亜姫ちゃんを嫌だとか言うはずないしね。亜姫ちゃんたちは中学生なので精神的にもまだ未熟なんだよ。勿論俺もまだ未熟だ。だから、慌てないで、いきなり婚約とかじゃなくて、普通にお付き合いから始めればいいんだよ。まだ俺たち知り合ったばかりだろ? 中学生で婚約とか、皆、慌てすぎなんだよ」


「分かりました。では婚約とかの前に、私と付き合ってください」

「うん。それくらいから始めよう。俺たち本来は学生なんだから、それが普通なんだよ。みんな先にお付き合いするってことをすっ飛ばして、婚約とか結婚してとか、嬉しくは思うけど急ぎ過ぎだよ」


「亜姫になんか先越されちゃったけど、私も先輩のことは好きです」

「うん。なんとなく知ってた。でも、亜姫ちゃんと同じく旅の間は保留ね。普通彼氏が二股してたのがバレただけでも、喧嘩して別れ話に発展してもおかしくないのに、何人もと結婚してもいいとかおかしいよね? 二人とも気付いてる?」


「そういえばそうですね。私、凄い焼き餅焼きだと思います。でも、何故か仕方がないと諦めちゃってます」

「私もだ! 不思議……」


「状況に流されるってやつだよ。集団催眠的な効果もあるのかもね。ほら、みんながみんな、結婚だの婚約だの騒ぐから、その場の雰囲気に流されて『じゃあ私も!』って感じ? 電車がきて周りのみんなが一斉に乗ったから、自分も乗り遅れないようにと思って乗ったら急行電車で、自分が乗りたかった各駅停車の電車と違ってたと乗ってから気付いて後悔するパターン? まあ、後悔しないためにも正常な生活を始めてからゆっくり考えた方が良いんだよ。まして今は発情中でガードが甘くなっているんだと思う」


「「分かりました」」


「で、薬の効果はちゃんとあったみたいだね?」


「はい、私は腰が抜けるほど強烈でした」

「私も思ったより効果があったので、これで良いです。昨日のも魅力的ですが、ちょっと危険な気もしますので」


「うん? 危険?」

「絶頂薬として、病みつきになりそうで怖いです。ある意味麻薬です」


 絶頂薬って言っちゃったよ。


「絶頂薬じゃないからね! 変な名前付けて噂を流しちゃダメだよ! 抑止剤だからね!」



 二人と別れ、罠の回収に向かおうとしたら、料理部の娘たちがぞろぞろ付いてきた。どうやら回収作業を手伝いたいのだそうだ。やっぱこの娘たち普通の女子とはちょっと違う。


 2人1組になってロープを手繰り寄せて、中身を見て一喜一憂している。皆、キャッキャと嬉しそうな笑みを見せていて可愛い。昨日より更に大漁だった。上流より中流域の方が数がいるようだ。餌になるモノが多いのだろう。昨日より丸々太ったウナギが多い。モクズガニも大量に獲れた。今日はカニを茹でて1人1杯ずつカニ汁にして出してあげてもいいな。



 出発しようとしたら高畑先生がやってきて、昨日より排卵周期の者が3人増えたと報告があった。

 いま使ってくれと、注入タイプを3本と飲むタイプを2本渡した。どうやら先生と昨日飲むタイプを試した女子が効果を説明して、昨日より使用者が増えたみたいだ。フラフラしながら付いてこられるよりは、薬を飲んでシャッキとして余裕を持っていてほしい。



 出発して4時間、無警戒で敵に襲われてしまった。ナビーも俺も土の中は警戒していなかったのだ。


 土の中からいきなり襲いかかってきたのは、18mもある大きな蛇だった。襲われたのは俺と先頭を歩いてた雅だ。一口でパクッと丸呑みにされたのを見て、心臓が止まるほど焦ったのだが、3秒もしないうちに喉を掻っ切って雅は飛び出してきた。

 

「大丈夫か雅!」

「ん……足が折れた……痛い」


 身体強化でかなりの強度がある雅の足の骨が折れるとは恐ろしい。もし首でも噛まれていたら、雅は即死してたかもしれない。足をまっすぐ伸ばしてから、上級回復魔法をかける。


「ん、ありがとう。臭い……」


 自分の体の匂いをクンクンしてそんなことを言っている。【クリーン】を掛けてやったのだが、蛇に余程ムカついたのか、雅は皮を綺麗に剥ぎ始めた。


『……マスター、その皮ですが高級品として買取りしてもらえます。雅に気を付けるように言ってください』


「雅! それ高級ななめし皮として売れるそうだ! 売れたらお前のお小遣いにすればいいから綺麗に剥ぐんだぞ? 後、肉も美味しい食材だそうだ」


 当然料理部が加わり目の色を変えて解体していた。


「小鳥遊君、さっきどうして襲われちゃったの? 今までこんなことなかったのでちょっと驚いちゃった。もし丸呑みじゃなかったらあの娘、即死してたかもしれないよね?」


「高畑先生の言うとおりです。俺の探索魔法の地中部分をOFFにしていたのが失敗でした。今後はこんなことがないようにします」


「対策できるのね? 良かった……死人が出たかと思って肝が冷えたわ」

「俺もそうですよ。頭が真っ白になりました」


『……マスター、申し訳ありません! 地中も警戒するべきでした。危険な魔獣や獣は冬眠しているだろうと勝手に思い込んで、少ない可能性を考慮していませんでした。あの蛇に魔力がなかったのも発見できなかった要因の一つです』


『ナビーが完璧じゃないと分かったんだ。俺ももっとナビー任せにしないでちゃんと一考するように心掛けるよ。そうすることで更に危険性は減るだろうからね』


「龍馬君、蛇の魔石が見当たらないけど、どの辺にあるのか分かる?」

「ちょっと待って……あら? 桜、驚け! それ魔獣じゃなく普通の蛇だ! アナコンダの仲間みたいだぞ」


 成程、魔獣じゃない普通の蛇だから魔力がないわけだ。俺やナビーの魔力探知に引っかからないはずだ。


「「「ええ!? 只の蛇?」」」


 異世界には凄いのがいるようだ。地球には18m級のは確認されていない。せいぜい10mもあれば最大級だろう。


 蛇は昼食時に焼いて食べた。あっさりしていて、鶏肉に近いかな。


 食べる食べないは個人の自由としたが、皆たくましい。ニョロニョロ系が苦手な者以外は、一口食べてみると挑戦している者が殆どだった。食わず嫌いするよりずっと好ましい。

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