2-2-4 炭酸水?新カップル?

 現在レベルアップ部屋でスキルにポイントを割り振っている最中だ。各自で好きにやらせているが、知識があまりない者は俺や雅、桜などにちゃんと相談してから獲得している。無駄振りは勿体ないから、自信がないなら相談するようにと先に言ってある。


 桜と茜が何やらホワイトボードに数式を書いてブツブツやっている。


「小鳥遊、城崎さんたち何やっているんだ?」

「さぁ? 数式は化学式のようですけど、どうせ料理絡みなんでしょうね。気になるなら本人たちに聞いてみたらどうですか?」


「ちょっと声を掛けづらい雰囲気なんで止めておくよ」


 俺も少し気になったので覗いてみた。ボードにはこう書かれていた。


 H2CO3⇔CO2+H2O


 成程ね……何がしたいのかは分かった。こいつら、まだ蟻蜜のことで頭が一杯のようだ。


「お前らいい加減蟻蜜のことは一旦忘れてステ振りしろよ!」

「小鳥遊? この文字で何で蟻蜜が出てくるんだ?」


「水谷先輩マジで言ってます? 桜もそんな可哀想な目で見ない」

「そうだ、三田村先輩ちょっと来てください。これを見て、プラス蟻蜜で何を連想しますか?」


「俺が分からないのに、三田村が分かる訳ないだろ。あはは」

「お前、これ中学レベルの化学式だぞ? よくこの学校に入れたな? 炭酸水に蟻蜜入れてソーダ水でも作る気だろ?」


「多分そうでしょうね。で、桜と茜は何をやっているんだ?」


「茜がさっき【錬金術】をLv10にして空気中からガスを錬成しようとしたのだけどあまり上手くいかないそうなの。なんでかな?」


「そりゃそうだよ。空気中の二酸化炭素含有率はかなり少ないんだ。当然錬成される炭酸ガスの量もかなり少なくなる」

「そっか……流石龍馬君、物知りだね。何か良い手はないかな?」


「重曹を10kg俺が持ってるから、クエン酸だけレモンからでも錬成抽出すれば炭酸ガスはできるんじゃないか?」

「あ、クエン酸なら俺が2kgほど持ってるぞ。格技場の奴は殆どの奴がまだ持っているんじゃないか?」


「なんでそんなもの持っているのですか?」

「柳生が今年の夏に流行らせたんだよ。クエン酸は疲労回復とかにも良いらしくて、水に混ぜて冷やして飲んでたんだ。ちょっと酸っぱくてレモン水みたいで疲れた運動後に飲むと旨くてな。1kgの袋で500円ぐらいで買えるから経済的だということもあって、送料を只にするのに皆でまとめ買いしたんだ。なぁ、皆もまだ残ってるだろ?」


 みんな持っているようだ。これを聞いた茜の目の色が変わる。


「それ、料理部に全部提供してくれないかな? 替わりにレモンスカッシュをお風呂上りに提供するわよ? 三田村先輩どうかしら?」


「よし、俺は全部提供しよう! 時々飲ませてくれるんだよな?」

「ええ、入浴後に毎回提供するわ。1L作るのに重曹10gとクエン酸10gでいいから、少量で大量の炭酸水が出来るわ。甘さは蟻蜜次第ね」


 ここを出たら、速攻で引き渡せと言われてしまった。

 重曹はおそらく掃除用に購入されたものだろう。保健室の薬品庫に保管されていた。



「皆、振り終えましたか? じゃあ、レベルアップ者は決定ボタンを押してください。現実世界に戻ります」


 全員が【身体強化】Lv10なので、帰りの3kmはめちゃくちゃ速かった。おそらく10分かかってないだろう。それなのに誰一人汗すら掻いてない。



 野営地に帰宅したのだが、少し離れた場所で男子は待機だ。まだ女子が入浴中との事で離れた場所で止められた。昨日のようなラッキースケベイベントは残念ながら起こらないようだ。


「入浴中に帰宅してキャー的なイベントはなかったですね?」

「そうそうあんな良い思いはできないだろう? 都合よく何度も男子にラッキースケベが起きるのはアニメやラノベぐらいだよ」



 俺たちのたむろってる場所に桜たちがやってきた。手にはお盆に乗せたグラスがのっている。


「提供はお風呂上りじゃなかったのか?」

「大量にできちゃったから、お風呂上りにも飲んでいいわよ。とりあえず飲んでみて」


「「「おお! レモンスカッシュだ!」」」


 美味しい。市販のジュースとは全く違い、本物の果汁が使われた美味しいやつだ。少し塩分を感じるが、化学反応時にナトリウムが少量発生してしまうので仕方がない。


「レモンが貴重だからレモンスカッシュは今回だけね。でもソーダ水はお風呂上りに提供できるわよ」


「これ糖分は蟻蜜か?」

「ええ、凄く甘い液体甘味料よ。あれは色々使えるわ。もっと欲しいかな……」


「希望者のレベルアップもしてあげたいから、周辺の蟻塚をある程度狩るのもいいかもね」

「全部狩っていきたいけど生態系を崩しちゃうわよね?」


「蟻は結構重要なポジションにいるからね。増えすぎや減り過ぎは環境破壊の元になる。キノコや薬草と一緒で、間引く程度にしないとね。でも、魔獣はまた勝手に魔素から湧き出るそうだからある程度は狩り尽くしても良いみたいだけどね」


「あ、それと龍馬君……お風呂は失敗よ」

「え!? 俺、結構頑張って色々考えたのに? 何がダメだった?」


「それよ! いろいろやり過ぎたから駄目なの! 皆、1時間近く入って出てこないのよ。昨日は順番を気にして、皆ささっと出て交代したけど、ジャグジーや打たせ湯でくつろいじゃって皆が入り終わるのにどれだけかかることか……」


 それから2時間ほどしてやっと男子の時間になった。これほど長時間拘束されるのは冗談じゃない。


 夜、皆を集めて口頭で伝える。


「明日からは男子が先に入るからな! それから掛け流しの湯量を減らす! あまりにも長時間お湯が出っぱなし状態だったから、周囲に池ができちゃったじゃないか! 4つあるうちのハティちゃん口を2個にして出る湯量も少し調整する。浴槽の設置場所は男子のテントからもっと離して設置して、男子側の方の片面に衝立を置く。夕食後、男子が入ったあとから起床時間までお風呂を解放するので、学年ごとの入浴を廃止して時間を気にせず各自好きな時間に入るといい。ただし必ず5人以上で入ること。それと人が誰も入ってない時は掛け流しのお湯のスイッチは必ず切ること。いいね?」


「それって何回入ってもいいの?」

「いいですが、毎回シャンプー等を使われてはすぐ無くなっちゃいますので、入浴はOKですが、洗浄は1回とします。起床時間までは何時でも入っていいので、朝風呂も認めますが、騒いで寝ている人を起こさないよう静かに入ってくださいね」


「「「やったー!」」」


 どうやら好きな時間に好きなだけ入れることが嬉しいようだ。また少し弄る必要があるが、さほど難しくはないのでいいだろう。冬なので掛け流しの湯量を減らすと、大きな浴槽だとすぐ温度が下がってしまう。保温用の火属性の魔石を取り付けて、一定温度を保つ機能がいる。


「龍馬、俺たちは入浴後はテントから出ちゃダメなのか?」


「いえ、衝立があるので出てきてもいいですが、女子側のテントエリアへの侵入はこれまで通り禁止です。うろつかれるだけで不快に思う女子もいるようですので、お互い快適に過ごすため、その辺の線引きはしましょう」


「ああ、その辺は問題ない。理解もしているので許可なく入って行くことはない。もともと学園でも女子寮側周辺のエリア自体男子禁制だったからな。テントに変わったからといってもそれは一緒だろう」


「あの、女子の方から男子に会いに行くのなら良いのでしょうか?」

「「「え!? 誰に!?」」」


「私、学園を出る前の晩に三月君に告白されて付き合うことにしたんです」


「「「ええええっ!?」」」


 三月って誰? ああ、柔道部の主将の2年生か。


「三月! お前何時の間に! しかも相手は吉井さんじゃないか!」


 吉井さん……はて? どこかで見たことがあるようなないような。


『……彼女はマスターがキングのコロニーから助け出した1人ですね。魔素毒と避妊治療もマスターがしたのですよ』

『え? こんな可愛い娘だった?』

『……瀕死状態で顔色も悪かったからでしょうかね? あ、オークに殴られていて、顔が最初腫れていたからですね。ヒール後は治療で忙しくじっくり見る余裕がなかったのでしょう』


「小鳥遊、彼女……お前に凄く感謝していて好意すら感じているそうだ。治療だったそうだが裸も見られて、避妊治療もされたとか言っている。そのことで俺はどうこういう気はない。嫉妬心はあるけど、感謝すらしている。俺が言いたいのは、今後彼女を俺から取らないでくれということだけだ」


「取らないですよ! というか、彼女に失礼かもしれませんが全く覚えていません! 柴崎先輩のことは左胸の横に3連のホクロがあったのまで覚えているのですけどね」


「な! あなた何言ってるの! 確かに胸に3つ並んだ3連ボクロはあるけど、って何言わせるのよ! セクハラよ! プライバシーの侵害だわ!」


「ごめんなさい、つい思い出してしまって」

「思い出したって……このスケベ!」


「ん! 龍馬のアホ!」

「イタッ! 何で雅が蹴るんだよ!」


「取らないでくれとか情けない話だが、今日の狩りでも思ったのだが、お前に惚れても仕方がないと思ってしまった。それほどお前は魅力的な男だ……何お尻を抑えて後ろに下がってるんだよ! そういうBL的なあれで言ってるんじゃない! お前という奴はどこまで本気でどこまでふざけてるのか分からん奴だ!」


「ねぇ、小百合? 小鳥遊君のことが好きなのに、どうして三月君と付き合うことにしたの?」


 大影先輩が真剣な顔をして吉井先輩を問い詰めている。二人は友人なのかな?


「元々三月君とは中等部2年の頃から同じクラスで、仲は良かったんだけどね。小鳥遊君に救出された後、何かと気に掛けてくれて絆されちゃった。小鳥遊君のことは今でも好意は持ってるけど、私、あの子たちに混ざって彼を競う自信ないのよね。何、あの美少女集団……まったく勝てる自信がないわ。そんなことを思っていて心も沈んでたのだけど、三月君が今後は俺が強くなって私を守ってやるって必死でアプローチしてきたの。顔は人並みだけど、性格は真面目で優しいから、良く考えればありかなって……きっと彼なら私を幸せにしてくれると思う」


「「「三月! クソッ羨ましい! おめでとう!」」」


 吉井先輩はなかなかの美人さんだ。他の男子から羨ましがられても仕方ない。

 なんだかんだ言われているが、良い感じのカップルができたようだ。 


「ちょっといいかな! 二人ともおめでとう! でも、移動中はあまり羽目を外さないようにね。テントから変な声が聞こえてきたとかいう事態は先生許しませんよ。そういう行為は街に着いてから行うように。良いですね? 小鳥遊君もですよ? 集団行動中なのでちゃんと風紀の事も考えてね?」


「「高畑先生、了解です」」


 先生たちも風紀を乱さないなら恋愛もOKみたいだ。そもそも個人恋愛を制限する権限すらもう持ってないのだ。



「ん、龍馬。この後一緒にお風呂に入りたい」

「雅はもう入ったのだろ? 俺もさっき入ったからもういいよ」


「ん! 昨日も一緒に入りたかったのに入れなかった!」

「そうだけど、明日ならいいぞ? 今日はもう入ったからね。明日にしないか?」


「ん! 今日が良い! でも明日も一緒に入る!」

「なに子供みたいに我が儘言ってるんだよ? 急にどうした?」


「ん、大きなお風呂で星を見ながら龍馬と入りたいだけ……」


 雅らしくもなく、やたら甘えたことを言ってくる。どうしたんだ?


『……なんだかんだで、まだ佐竹を殺したことを引き摺ってるようです。我が儘ですが聞いてあげてください』

『そっか……分かった。そうする』


「あの、龍馬先輩! ハティちゃんがまだ入ってないので、私も一緒に入りたいです!」


『……沙希は親友の雅の心の不穏に気付いているので、援護射撃のつもりでハティをダシにしたようですね。自分は一緒に入るのは恥ずかしいのに優しい娘です』 


「よし、じゃあ入るか。俺も風呂は好きだしな。ハティ、お風呂入るか?」


「ミャン!」

「ん! 入る!」


 ハティは大好きな俺と雅と沙希とで入れるのが余程嬉しいのか、俺たちの周りをクルクル走り出すほどだった。


「ちょっと待て龍馬! お前がノーマルなのは知っているが、幾らなんでもまずいだろ? 犯罪だぞ? 雅ちゃんだっけ、彼女は8歳児にしか見えないので、まぁ良いとしても、その娘は10歳ぐらいだろ? まずくないか?」


「確かに二人とも幼女体型で実年齢より幼く見えますが、二人とも13歳の中1です。実年齢を考えるとまずいといえばまずいのですが、当人が入りたいと言ってるので別に良いのではないですか? 一応結婚は16歳以上ってのがあるようですが……」


 男子だけじゃなく、他の先輩女子たちの視線も痛い。


「私たちも少し心配だったから、一度確認しに私がお風呂を覗いたのですが、龍馬君に関していえばそういう心配は一切ないですので料理部としてはもう容認しています。でも沙希ちゃんはちょっと心配かな……」



 桜の援護もあって、結局当人が良いと言ってるのなら良いだろうと、ハティを伴って再度お風呂に入ることになった。


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 お読みくださりありがとうございます。


 ナビーお薦めの沙希ちゃんへの伏線です。

 ハティが一番懐いていて、最近は全面的に世話をしてくれています。

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