1-3-6 井口さんの心理分析?菜奈の狂愛?

 話の流れで井口さんのあられもない隠し撮り動画を皆に見せることになった。


「本来この隠し撮りは俺に対する暴力行為を記録する為に用意したものだ。俺はよくそこで暴力を振るわれていたのでカメラを設置したのだけど、いつからかそこは井口さんたちのSEX場所にもなっていた。俺はもうこの動画は見たくないので、隣の部屋で皆が見終わるのを待っているな。PCのバッテリーの替えを置いておくから、切れそうなら替えてもらっていいからね。動画はだいたい20分ぐらいだけど、本当に中学生は見ない方が良いよ?」


「「「絶対見ます!」」」


「そう……ならもう言わないけど、俺は隣で少し寝るから夕飯になったら呼んでね」


 俺はノートパソコンを残し、隣の教室で仮眠することにした。あの動画は二度と見たくない――不貞寝する。



  *  *  *



 アダルトビデオすら見たことないような中等部の子たちは、顔を真っ赤にしながら目を真ん丸にしてその動画を食い入るように見ている。


 だがすぐに見ていた彼女たちの視線が侮蔑したものに変わっていく。


「ん! 今この女、龍馬が泣きながら顔を背けたときニヤッて一瞬笑った!」

「兄様が可哀想です! この女絶対許さない!」


「龍馬君……」


「「「龍馬先輩、可哀想すぎます」」」


 開始そうそう佐竹に散々蹴られている龍馬を見て数名泣き出した子もいるが、10分もしないうちに殆んどの娘が龍馬に同情して泣き出した。泣いてないのは冷静にその動画を観察しているフィリアと美弥ちゃん先生、射殺すような視線で見ている雅の3名だけだ。


 途中で一時停止や逆再生をして何回か見て気が済んだ頃に、桜が皆に問いかけた。


「皆、この動画を見てどう思う?」

「どう見てもこれ演技じゃないです。しかも泣いて顔を背けた兄様を嘲笑うような顔をしてました」


「ん! 態と角度まで調整して見せつけるようにしてた! しかも佐竹より先に絶頂してイッてた!」

「人に見られて興奮するただの変態女です! 龍馬先輩が可哀想です!」


「言いだしっぺの優とみどりはどう思った?」


「井口先輩が言ってるような『感じている演技』でもなさそうですし、龍馬先輩の為とかにも見えませんでした」

「私ももう井口さんの言っていることは何1つ信用しません! 龍馬先輩が話してくれたことが真実です!」


「そういう桜はどう感じたの?」

「正直エッチなビデオすら見たことなかったからびっくりしてるけど、あんな蕩けた顔になるぐらい気持ちいいのかしら?」


「あなた何言ってるのよ?」

「今まであなたとこういう話をしたことなかったけど、茜はエッチなことに興味ないの?」


「ないことはないけど、小学校を出てすぐに全寮制のこの中等部に入ったから。皆もそうだと思うけど、相部屋なので中々そういう機会がなかったでしょ? エッチビデオなんて皆で見ていたら寮官さんが飛んでくるしね」


「でも毎年何組かが見つかって、反省文を書かされて晒し者になっているわよね」

「皆、お年頃だしね。見つかって晒されても温かい目で見られているよね。男子からは散々からかわれてたようだけど――で、桜はどう思ったのかな?」


「井口さん、龍馬君のこと本当に好きだったんじゃないかな……でも佐竹たちが怖かった。こんな感じかな?」

「でもどうみても彼女、本気で感じているわよ。それじゃおかしいでしょ?」


「そうね。正直井口さんがどう考えて佐竹と付き合いだしたのか分からないわ」 


「其方らはまだまだ若いのぅ。人それぞれ三者三様考えがあって良い事じゃ」


「フィリアは井口さんの考えが分かるの?」

「ここに落とされる直前まで龍馬の関係者のことは見ておったからのぅ」


「あの……フィリアは菜奈の頭の中とかも覗いちゃったのかな?」

「クククッ、勿論じゃとも。妾は其方は好きじゃぞ。龍馬に対して物心ついたころから全くブレがない。兄ラブ属性全開じゃ! 全く隠そうとしないとこも凄いのう。狂愛なのはちょっと引くがの」


「うっ、フィリア教えて……井口はなにを思って佐竹と付き合いだしたの? どうして兄様を裏切ったの?」


「ふむ、じゃが妾が言うより、雅と先生が大体分かったようじゃから二人に聞くがよかろう。神の神眼で覗いたことをそうそう話すわけにもいかぬしのぅ。菜奈とて、妾に龍馬にきたラブレターを全て其方が先に回収して、龍馬の恋愛を悉く阻止してきたことをバラされるのは嫌じゃろ?」


「フィリア言ってるじゃん! 今、言ったじゃん! 菜奈の秘密バラしたじゃん!」

「ヒャハハ、それはすまなんだ。つい口が滑ってしまったのじゃ」


「絶対わざとだよね! 意図して言ったよね! 兄様にバラしたら刺すからね!」

「怖いのぅ、菜奈なら本当に刺しそうで怖いのじゃ」


「雅ちゃんが分かったって本当なの? 一番お子様にしか見えないのに?」

「雅の観察眼は龍馬並じゃぞ。桜や菜奈も中々じゃが、この中じゃ雅と先生が抜きんでておるな」


「ん、人間観察は面白い」

「先生は生徒の動向を見るのが仕事ですからね! えっへん!」 


「美弥ちゃん先生は単に生徒に怒られないように、動向というより顔色を窺ってるようにしか見えないけどね」


「またバカにされた! これでも先生、大学では心理学を専攻していたのよ! もう、皆ですぐバカにして~!」


 ほっぺを膨らませて怒ってるとこを、桜に頭をよしよしされてすぐ破顔しているさまはお子ちゃまにしか見えない。


「じゃあ、先生教えて。井口さんのプロファイリングをお願いします」

「桜さん、井口さんは犯罪者じゃないからその言い方は間違いよ。プロファイリングっていうのは犯罪捜査において、犯罪の性質や特徴から、行動科学的に分析し、犯人の特徴を推論することなの」


「ん! それっぽいこと駄教師が言ってる!」

「駄教師とか酷い! 先生賞罰何もないよ! 無遅刻無欠席だよ! 良くもなし、悪くもなしだよ!」


「これこれ、話が進まぬじゃろ。さっさと答え合わせをするのじゃ」


「あう、ごめんなさい。じゃあ、先生の推論だけど言ってみるね。井口さんは唯一佐竹君たちに絡まれた時に助けてくれた龍馬君のことが好きになったと思うの。親身になって先生たちの所に一緒に相談とか行ってくれれば、日に日に好きになったんじゃないかな? それと同時に先生たちに無下にあしらわれ続け、日々エスカレートしていくセクハラ行為と龍馬君に対する暴力に恐怖していったんだと思う。トドメになったのが龍馬君への熱が出るほどの酷い暴力行為。これで井口さんは完全に心が折れたのね。龍馬君の為と心の中で言い訳をしながら、本当はその暴力がいつ自分に振るわれるか恐れた結果、佐竹君の彼女になった。こんなところかしら」


「ん! 私と同じ結論」

「でもそれじゃ、龍馬君の前でのあの蔑むような笑みは何なの?」


「自分を守れなかった者へのあてつけ行為かな? 好きな者の前で抱かれて興奮するタイプなのかもしれないわね。実際彼女になってしまえば割と良かったとか……」


「ん、フィリアこれで合ってる?」


「ふむ、ほぼ正解じゃ。ただ井口というおなごは元はそれほど佐竹という奴のことを嫌っておらなんだ。むしろ1学期は少し好意を持っておったくらいじゃ。あまりのしつこさと、龍馬に対する暴力行為で嫌いになったのじゃ。だからいざ彼女になってしまえば元々気があった男じゃ……性行為もそれほど嫌じゃなかったはずじゃ。むしろ大好きな龍馬に声を聞かせたり、見られることによってかなり興奮しておったようじゃな。それゆえ、弱く守り切れなかった龍馬を見下したかのようなあの態度になったのじゃろうの。今現在佐竹とやらを無視しておるのは、佐竹たちの評判があまりに悪すぎ、自分の立ち位置が悪くなるのを恐れておるからじゃ。それで完全に佐竹は悪者に仕立て上げ、自分は悲劇のヒロイン役、龍馬はそれを守り切れなかった三流ナイト、あわよくば周りから同情を買い地固めをして、大好きな龍馬の彼女になれるやもしれぬと目論んでいるのじゃろう」


「うわー、なんて腹黒い女」


「じゃあ、井口はいまだ兄様のことが好きなの?」


「そうじゃな、おそらく大好きじゃが、裏切って佐竹の彼女になって、目の前で抱かれて感じまくってしまった負目ゆえ、自分から龍馬に声を掛けられないのじゃろう。そこで周りからの地固めじゃ。龍馬の為に抱かれたのに龍馬は無視して声すらかけてくれないなどと吹聴して回っておるのじゃろ? それを聞いた優とみどりは、可哀想だと鵜呑みにして、龍馬に教えて進言しようとしたのじゃな。あのおなごは、あわよくば力を付けた龍馬に庇護してもらう気でおるのかもな。そのうちこっちに混ぜてくれとか平気で言ってきそうじゃの」


「ん! 断固拒否!」

「兄様にこれ以上近づいたら本気で刺します!」


「これ、菜奈よ……刺したらダメじゃぞ。この世界でも殺人は犯罪者として『ユグドラシル』という神のシステムにちゃんと記録されてずっと残ってしまう。窃盗や傷害、強姦や殺人も記録され、それを調べられる神器でチェックされる。街の入口でチェックされ犯罪歴のある奴は街に入れず、神器の設置していない治安の悪い小さな村や町で生涯暮らすことになる。当然龍馬が目指しておる冒険者にもなれないしの。其方が先走って井口とやらを殺してしまったら、龍馬の足を引っ張ることになるぞ」


「あっ! じゃあ、兄様は今日教頭を刺してしまったのは傷害になるのでしょうか?」

「微妙じゃが、まぁ大丈夫じゃろ。私怨のいざこざはこの世界じゃ日常茶判事じゃ。それを全部犯罪者扱いにしてしまうと冒険者など半分程度が剥奪されてしまう。この世界じゃ相手が剣を抜いた時点で正当防衛が成り立つ。たとえ殺す気がなくても抜いた時点で返り討ちで殺されても仕方がないのじゃ」


「分かった、気を付ける」

「うむ、良い子じゃ」


「ん、フィリア、あのビッチどうしたらいい?」

「そうじゃの、妾たちはただ龍馬を信じて付いて行けば良いじゃろ。龍馬が万が一間違いを起こしそうなときは全員で愛の袋叩きじゃ。井口とやらのことも龍馬に任せるのじゃ。龍馬は少し心が弱くできておるようじゃから、井口とやらのことでもし傷ついた時は皆で支えてやれば良い」


「ん、分かった」


「ときに菜奈よ、其方は龍馬とどうなりたいのじゃ? 独占欲が強く独り占めしたいようじゃが、妾は龍馬と将来添い遂げるぞ?」


「兄様は渡しません! 兄様は菜奈の物です! フィリアでも刺します!」

「これ菜奈よ、妾に本気で殺気を向けるでない。困った娘じゃのぅ……実際其方は龍馬を妾と取りあって勝てると思っておるのか? 妾はこれでも元水の女神、慈愛のフィリア様と言われておったのじゃぞ。龍馬は其方を愛しておるが、それは恋人に向けるような愛ではないぞ。妹に向ける親愛じゃ。兄妹愛じゃ。それに雅も龍馬を諦める気はないのじゃろ?」


「ん、私も龍馬と添い遂げる! 龍馬は約束は破らない! 25歳まで待てばいい! 楽勝! 勝ち組決定!」


 菜奈はフィリアと雅を涙目で睨んでいる。


「クククッ、雅も大したものじゃ。そこで菜奈に提案じゃ……龍馬は今は妹としてしか見ておらぬようじゃが、妾と雅で協力して、其方もハーレムに加えて添い遂げられるようにしてやろうではないか」


「えっ!? どういうことですか?」


「雅もそれでよいの?」

「ん、フィリアは強敵。妥協してハーレム案に私も乗る。菜奈もフィリアのことも好きだし問題ない。龍馬なら全員養う甲斐性はあるはず」


「龍馬の性格なら1人を選んで、その者を一生愛するだろうの。じゃがそれだと必ずあぶれて泣く者が出てしまう。実際妾と雅以外にも龍馬に好意を抱いている者、抱き始めている者がかなりの数でここにおる。菜奈もそれは何となく分かっておるじゃろ?」


「うん……でも絶対兄様は他の人に渡さない」


「じゃが、現時点で一番可能性の高いのは妾じゃぞ。菜奈とフィリアだけいれば良いとまで言ってくれたからのう。じゃが其方は妹としてでしか見られておらぬ。雅は今は子ども扱いじゃが25歳になれば龍馬は約束を守るじゃろ。そうなると菜奈は現時点で3番手じゃ。いや、龍馬からすれば枠外かの? そこで妥協案なのじゃが、龍馬を皆でシェアするのじゃ。菜奈は妾や雅のことが嫌いか?」


「嫌いじゃないけど……でも……」


「其方が幼少のころから龍馬を好きなのは知っておる。じゃが今のままだと死ぬまで其方は妹のままじゃ。添い遂げることなどできぬぞ? この世界では甲斐性さえあれば一夫多妻も認めておる。妾と雅で其方も龍馬の寵愛を受けられるように龍馬を誘導してやろうではないか。なんだったら第一夫人の権利は菜奈にやっても良いぞ」


「ん、私は3番目でもいい。あぶれて彼女にさえなれないのだけは絶対イヤ! 龍馬の子を産んで育てたい!」


「兄様の子供……私の夢……」

「どうじゃ? 広い屋敷で龍馬を中心に、三人で協力しながら育児とかも楽しかろ?」


「うん……楽しそう……本当は独り占めが良いけど、妹扱いの未来しか見えない。フィリアと雅で協力して頂戴……私も兄様の子供が欲しい! 菜奈も一人の女として見てほしい!」


「ん! 協定成立! 抜け駆け禁止!」

「勿論じゃ!」

「うん、三人で兄様を籠絡しましょ!」




 龍馬が不貞寝中に井口さんのことはそっちのけで、三人のちみっこたちが最高潮に盛り上がったところで新たな爆弾が投入される。


「あの、菜奈先輩! 私もその協定に入れてください!」


「ダメです!」

「ん! 却下!」

「ダメじゃの!」


 龍馬に救出され、密かに想いを募らせていた沙織ちゃんだ。


「何でですか! 私も入れてくださいよ!」

「兄様に出会ってわずか3日の沙織ちゃんは只のお遊びでしょ! 却下です!」


「ん! 菜奈正論! 愛が足らない! 排卵周期中で盛っているだけ!」

「そうじゃの、排卵中の盛りのついた猫は入れてあげられんのう」


「そんなことないです! 私は龍馬先輩に命を助けてもらいました! 生涯をかけて恩返しを考えています! それに龍馬先輩には避妊治療をしてもらって……あの、その……もうお嫁に行けません! 龍馬先輩に責任を取ってお嫁さんにしてもらいます!」


「な!? 避妊治療は亜姫ちゃんがやったって言ってたよね?」

「そうじゃ!」

「ん! どういうこと?」


「えと、私が龍馬先輩にお願いしたのです。亜姫ちゃんと龍馬先輩じゃ指の長さと魔力操作の技術が全然違っていたのです。少しでも避妊の確率が上がるように、私がお願いして先輩に治療してもらいました」


「教えてフィリア、兄様はただ可愛い沙織ちゃんに指を入れたかっただけ? それとも本当にその方が成功率とやらが高かったの?」


「ふむ、正直に言えばあの時点で亜姫が治療したとして成功率は100%とは言えぬ。じゃが龍馬なら100%だっただろうの。レベルや魔力操作、イメージ力というのはとても大事なのじゃ。こと避妊に関しては1%でも失敗の可能性があるのなら龍馬がやって正解じゃの」


「じゃあ、兄様は菜奈に嘘を言ったのね……許さない!」


 怒り狂った菜奈は寝ている龍馬の所に突撃するのだった。


「沙織も本気なら仕方ないの……」

「ん、仕方ない。でも、これ以上増えないように要警戒」  




 龍馬の知らないところで井口さんのことと関係ない話がされていた。龍馬はこの後すぐに怒り狂った菜奈に蹴り起こされるのであった。

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