1-1-11 ブラコン?シスコン?
俺の重い告白のせいで、雰囲気が悪くなってしまった。
「ちょっと空気重くなっちゃったけど、今はもう自殺する気なんかないから」
「当たり前です! そんなの絶対ダメですからね!」
「白石君の事情は大体分かったわ。思っていたより酷かったのね」
「あー、それから俺の本名は小鳥遊 龍馬(たかなし りょうま)だ。毎年年末にニュースでやってるから皆も知ってると思うけど、10年前に大きな飛行機事故があっただろ? 両親はあれに乗っていて、俺が5歳の時に亡くなっている。俺はその時にお隣の白石家に養子として引き取られて育ってきた。菜奈とは本当の兄妹じゃないんだ。菜奈と被って紛らわしいし、この際だからタカナシ姓に戻すことにする。タカナシでもリョウマでもどっちで呼んでもいいよ」
「兄様! それは絶対秘密だと兄様が言っていたことじゃないですか!?」
「まぁ、変な冷やかしや勘繰りが面倒だったから秘密にさせていたけど、俺は小鳥遊家の家名を継ぐ唯一の子供なんだ。本当のこと言えばアニメで有名になった家名は結構気に入ってた。朔磨さんが子供の頃に俺たちがからかわれないように配慮して白石姓に変えてくれたんだけど、いつでも元に戻してもいいからなって言ってくれてたんだよ。いつ死んでもおかしくないこの世界だから、自分の本来の姓を名乗って死にたい。俺が死んだら墓石には小鳥遊龍馬で頼むな」
「分かったわ小鳥遊君……って白石君で言い慣れたから、なんか違和感があるわね。龍馬君でも良いかな?」
「ああ、どっちでもいいよ。俺の変なこだわりで迷惑かけるね」
「本名で死にたいって気持ちは凄く分かるから気にしないで。それより本当の兄妹じゃないってのがびっくりよ。菜奈ちゃんっていつも兄様が大好きって言ってたけど、ひょっとしてマジもののブラコン?」
菜奈はもじもじして顔を赤らめている。
「ずっと兄様のことは大好きです!」
こいつ言いやがった! 隠す気すらないらしい……菜奈恐ろしい子。
周りの女の子たちはキャーキャー騒いでる。
「おーい! 静かにしろ! オークが来るぞ!」
オークの名は効果抜群だな。
「家族に迷惑を掛けたくない事情ってのも結構重いのね……それで龍馬君は自殺って結論を出したのか……」
「俺の父親と菜奈の父親が同じ職場で先輩後輩だったんだよ。俺の親が俺が生まれた時に建売の家を買ったんだけど、菜奈の両親も超仲が良かったせいもあって隣同士で買ったんだって。翌年菜奈が生まれて元々兄妹のように育てられたんだけど、例の飛行機事故の時、火災が起きてから墜落までの10分の合間に、俺の母親は高校の時の親友の弁護士に連絡して遺産や財産管理のことをすべて録音させて遺言代わりにしてくれてたんだ。親父の方は菜奈の父親の方に電話して、自分たちの親類は屑ばかりだから俺のことを頼むって言い残してから逝ったんだ。その時の会話も朔磨さんに録音させていて、朔磨さんから中学になった時に聞かせてもらった」
皆、真剣に聞いてくれている。意外と菜奈も口が堅いからな。
誰も菜奈の家庭事情を知らないようだ。
「龍馬君、無理に言い難いことは話さなくていいのよ?」
「過去のことだから大丈夫だよ。それに俺に命を預けるんだ、皆にはちょっとの隠し事もしたくないので、この際自己紹介もかねて全部俺の事情はぶちまける。まだ名前も知らない子もいるので、俺の後に皆のことも少し話してくれたら有難い」
「それもそうね。後で自己紹介しましょう」
「で、両親の葬儀の後なんだけどね。皆が優しそうな笑顔で俺を引き取るって話してたんだ。俺は母親の妹だっていう若い美人さんに気がいっちゃって、そこに行きたいなって子供ながらに思ってたんだけど、そこにやって来た母さんの親友の弁護士やってる御影恭子さんの登場で場が一変したんだ。優しそうな叔母さんが般若のような顔になったのを今でもはっきり覚えてる。後でその時の会話内容を録音してあるものを恭子さんに聞かせてもらったんだけど、うちの親類は父さんの言う通り皆クズだったよ。俺を引き取りたいと言ったのは遺産目当てだったんだよね。俺についてくる両親の保険金や航空会社からの慰謝料なんかだね。恭子さんが頑張ってくれたらしく、総額2億4千万ちょっとの額が遺産として両親が俺に残してくれたことになる。あっちの世界でも学校を卒業してからもお金の心配いらなかったのにな……」
「結構な金額ね。極端な贅沢をしなければ、余裕で暮らせるわ」
「だよね。その時葬儀に来てくれていた菜奈の母親の良子さんがブチ切れてね。あなたたちに龍馬君は任せられないって、結局白石家が俺の両親の希望どおり引き取ってくれたんだよ。元々俺の両親は共働きで週に一回は菜奈ん家で俺だけ一緒に夕飯食べてたからあんまり違和感なくってね。白石家には毎月20万の金額が恭子さんから振り込まれていて、余ったお金はちゃんと良子さんが貯金してくれてた。俺はその分は菜奈にあげるって言ったんだけど、成人してから自分で渡しなさいってニヤニヤしながら拒否られた」
「それ知ってる! 兄様と私が結婚したら共有財産だから一緒でしょって言ってました!」
「良子さん何考えてるんだか……」
「あの、私ずっと気になってたんだけど聞いていい?」
「城崎さんなんです? 気になってたこと?」
「龍馬君というより菜奈ちゃんになんだけどね? その『あにさま』っていうのは何かなーって」
「あ~それね……可哀想なので聞き流してやってほしい。ご想像の通り中二病です。しかも小4の時に見たアニメから言い始めてずーっとなので筋金入りです。小学校の時は俺もなんとも思ってなかったけど、中学の頃は恥ずかしくて何度直させようとしたことか……結局諦めてしまったけど、只の痛い子なのでホント聞き流してやってください」
周りの皆が残念な子を見るような目で菜奈を見てる。これは仕方ないな。菜奈の自業自得だ。
あにさまって何だよ! プッてなるのが普通だよな。
「なに憐れんだ目で私を見てるのですか! 本当は第一候補は『おにいさま』なんですよ! 上流家庭じゃないのでそれは断念しましたが、兄様はそれほど素敵なんですからね! 盗っちゃダメですからね!」
「ん! ブラコンにシスコン!」
「おい雅、そういうことを言わせないように朔磨さんが俺の姓を変えてくれてたんだよ」
「ん、ごめんなさい! 冗談でも配慮が足らなかった」
「えっ? 謝らなくてもいいよ? 兄様のことは大好きですから!」
「おい、菜奈も後々のことを考えろ」
菜奈は頬を膨らませてご機嫌斜めだ。『本当のことなのに』とかブツブツ言いながら俺を軽く睨んでる。
「竹中さん、書記お願いします」
「はい、了解です」
1、美加ちゃんの避妊処置と骨折治療
2、戦闘の要となる俺のレベルアップ
3、メインパーティーのレベルアップ
4、全員をレベル1に
5、サブパーティーのレベルアップ
6、支援パーティーのレベルアップ
「じゃあ話し合いの結果どおり、優先順位はこの順でいいですね。とりあえず俺が5レベぐらいまで上がれば強制的にオークを連れてこれるようになるので、その後はAパーティーを組んでオークを生け捕りにして連れてくるので皆に1体ずつ殺してもらいます」
「あの兄様? 最初一人で行かれるんですか?」
「ああ、レベルが上がったので1体ならまず負けない。見てただろ?」
「はい、でも凄く心配です。付いて行ってはダメでしょうか?」
「悪いがレベルの低いうちは却って足手まといだ。俺一人なら【身体強化】Lv2があるからオークぐらい何体いても逃げるだけなら簡単に逃げられる。あいつら足短いからな」
「あ~、確かにそうかもです」
「参考までに希望のパーティーと職種をボードに各自で書いてもらえないかな? 名前も書いてくれてたら俺も覚えやすいしね」
15分ほどで皆の記入が終わったのだが、いい具合にばらけた。こんな感じだ。
Aパーティー
・小鳥遊龍馬(高1) 魔法剣士 剣術Lv2・身体強化Lv2
・城崎桜 (高1) 剣士 剣術Lv2・身体強化Lv1
・白石菜奈 (中3) 魔法使い 火Lv1・雷Lv2
・栗林未来 (中3) ヒーラー ヒールLv1・治癒Lv2
・名取雅 (中1) シーフ 双剣術Lv2・身体強化Lv1
Bパーティー
・森里美弥 (教師) バトルヒーラー 杖術Lv2・ヒールLv1
・長谷川綾 (中3) 剣士 剣術Lv2・身体強化Lv1
・山下美加 (中3) 魔法使い 火Lv1・雷Lv2
・中森優 (中2) 支援系ヒーラー ヒールLv2・ヘイストLv1
・大谷薫 (中1) 槍使い 槍術Lv2・身体強化Lv1
Cパーティー
・竹中茜 (高1) 調理士 料理人Lv2・身体強化Lv1
・有沢みどり(中3) ヒーラー 治癒Lv2・ヒールLv1
・山本愛華 (中2) 支援 クリーンLv2・料理人Lv1
・中屋亜姫 (中2) 支援 クリーンLv2・ヒールLv1
・森田沙希 (中1) 支援 クリーンLv2・料理人Lv1
右に書いているのはレベルが上がった際に獲得する予定のスキル候補だ。
本人の希望職に沿って俺と菜奈と未来ちゃんでアドバイスしながら決めたものだ。
「じゃあ、良い感じにばらけたので、最初のスキルはこれを獲得するということで良いかな? でもあくまでもここでの意見なので、レベルアップの部屋で気が変わった場合は変えてもいいんだからね。A・B・Cともに危険はあるけど、中学1年生の薫ちゃんはBパーティーの戦闘職で良いの?」
「はい、MMOではいつも槍專です。こっちの世界ではリアル戦闘なのでどっちにしろ剣は距離的にちょっと怖い気もしますので槍が良いです。やってみてダメなようならCパーティーにお願いします」
「うん分かった。他の人も怖かったりヤバそうだったらすぐに支援に入ってもらうから安心して。死んでもゲームのように死に戻りはないから『命大事に』でいこうね。竹中さんは最初から支援組でいいの? 料理部だから無理に料理人とか取らなくても美味しいの作れるんじゃないの? それに身体強化はどうして習得するのかな?」
「Bパーティーには美弥ちゃん先生と綾がいるからいいけど、Cパーティーにもまとめ役がいるかなと思って。私、結構ビビりだし、丁度良いかなって。それとね、料理スキルのレベルアップでどれだけ美味しいものが作れるのか凄く興味があるの。身体強化は途中でへばったりしないためと、誰かがもし無理そうで人員配置の交代がどうしてもいる様な時は私が逝くわ」
「逝くって、このネタは怒る人がいるので止めとこうね」
案の定城崎さんが凄く睨んでる……親友らしいから当然か。
「最初の【クリーン】獲得は未来ちゃんじゃなくて、亜姫ちゃんに頼みたいけどいいかな?」
「私ですか? じゃあ、次のレベルアップ者は私ってことですか?」
「うん、そうなるね。美加ちゃんもお互いに恥ずかしいだろうけど、膣に中指を目一杯入れて強く浄化と避妊のイメージをして発動しないといけないけどできる? 治療行為だと思えば大丈夫かな?」
「ちょっと恥ずかしいですけど、頑張ります。大丈夫です、やれます」
「うーっ、私の為にごめんなさい。想像しただけで恥ずかしいけど、お願いね」
「まぁ、全裸勃起で同級生の男女共に沢山いる廊下を引き回されるよりは恥ずかしくないだろ?」
「あははは、それ言われたら、大抵は恥ずかしくないですね」
自虐ネタで笑ってもらえたけど……やっぱ、凄く恥ずかしい。
「皆がどうしても膣に指入れるのを躊躇うようなら俺がオチンチンで奥まで浄化してあげるから安心していいぞ! 指だと奥まで届かない可能性もあるけど俺のなら余裕で奥まで届くからな! イテッ!」
菜奈と城崎さんと雅に思いっきり叩かれた。冗談なのに。
「あの、指だと奥に届かない可能性があるのですか? 妊娠の可能性があるのですか? もしほんの少しでも妊娠の可能性があるのなら、私は龍馬先輩にその、あの、お願いしたいです!」
俺が迂闊だった……変なこと言って不安がらせてしまった。
場を和ませようと、軽い冗談のつもりだったのに配慮が足らなかったな。
「本当のところはどうなの龍馬君? 指だと妊娠の可能性があるの?」
「大丈夫だ。避妊が成功したかどうか判定できるスキルがある。それは俺が獲得してくるので安心してくれ。美加ちゃん不安がらせてしまって悪かった。場を和ませようと、軽い冗談のつもりだったのに冗談が冗談になってなかった。ごめんな」
「龍馬君、あまりそういう冗談はやめようね。年頃の女の子しかいないんだからダメよ」
「うん、ごめん。場を和ませようとしたんだけど配慮が足らなかった」
怒られてしまった……ここは素直に反省だな。
「レベルが上がると、このA4サイズのタブレット型のステータス画面が呼び出せるようになるんだけど、これでPTを組んだり習得スキルやステータスを見たり、【亜空間倉庫】なんかの保管物や装備している装備品が表示されて分かるようになる。それと、機能としてフレンド登録やメール送信、電話のように通話もできるし、パーティー内やレイドPT内ならチャットもできる。こっちの世界の日時も表示されてるからかなり便利だ」
「それ、まんまタブレットだね。こちらの世界は今何時なの? ちょっとお腹が空いてきたわ」
「確かに……本当なら今頃夕飯時間だよな。今、こっちの世界は年号こそ違うけど、向こうと同日のAM11時20分だな。俺たちの世界がモデルになってるだけあって、1日24時間1年365日で1月から12月の暦がある太陽暦が使われてる。ちょっと時間がずれてるけど今日はこっちの世界の11月18日のAM11:20分だね。料理部がテーブルに並べてたやつ持って来てるからそれをお昼にしようか」
「そうね、食べられる時に食べておきましょう」
「あ! 2頭豚がこの建物に入って来た! 丁度いいや、行ってくる。これ食べといて、俺にもちょっと残しておいてね! 美味しそうだから絶対残しておいてね!」
調理室のテーブルにあった食べ物を全部出して、水も追加で出して置いておく。
「気を付けてね!」
「兄様、死なないでくださいね!」
皆の声援を受けて廊下にそっと出た。
中からちゃんと鍵をかけたのを確認してオークが調理室を物色してるのをMAPで確認する。
さて、戦闘前に一仕事だ。
残しておいたAP2ポイントを使って新たにスキルを創る。
チートすぎて流石に無理かもだけど……フィリア様お願いします。
【魔法創造】
1、【殺害強奪】
2、・特殊系持続発動型パッシブ
・殺した相手からSP・AP・Exp・技・スキルを全て奪う
・相手が死亡した時点で強制強奪
・すべてを奪われた者は蘇生魔法が無効になる
・この機能はON・OFFできる
3、イメージ
4、【魔法創造】発動
『システムちゃん? どうかな?』
『……マスター、成功ですが、かなりズルいですね。チートすぎでしょこれ。なぜ創主様がお認めになるのか不思議で仕方がないです』
『ですよねー。俺もびっくりだよ。でもこれマジずるいよね。特にAPとか経験値の強奪とかポイントすぐ貯まるんじゃないかな?』
『……そうですね。強い魔獣ほど経験値も持っているでしょうから、マスターのレベルが上がるのも早くなると思われます』
『初期の生き残りさえ上手くできれば、後はチートで無双できそうだな。じゃあ、もう1つ残りのAP1ポイントを使って創りますかね』
【魔法創造】
1、【獲得経験値倍増】
2、・敵を倒したときの経験値が倍増される
『……マスター流石に倍増しは無理だそうです。増量ぐらいなら認めるそうです』
『そうか、了解だ。ユグドラシルシステムとの仲介ありがとうな』
【魔法創造】
1、【獲得経験値増量】
2、・持続発動型パッシブ
・敵を倒したときの経験値が増量される
・ON・OFFできる
3、イメージ
4、【魔法創造】発動
『……マスター、どうやら熟練度のレベルがあって、レベルごとに10%増しになるようです。Lv10の最大で100%つまり2倍ってことですね』
『そういうことか……倍増だと倍・倍・倍で最終的にとんでもない数値になるから却下されたんだな』
『……そのようです。【殺害強奪】と併用すればかなりの経験値が得られますね。むしろ全て奪ってしまう【殺害強奪】の経験値の方がもらえる量が多いと予想されます』
『俺がレベル3になるには、本来オーク4体いるんだったな……パッシブ効果で何体で上がるか楽しみだ』
『……そうですね。油断なさらないようにお願いします』
俺は調理室で食料を漁ってる2体を倒すべく、そっと階段を下りるのだった。
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