1-1-8 回復職?メインPT決定?
皆に倉庫に入ってもらい、最初のトイレの時点で屋上に並べてあった物を4つ持って俺も後に続いた。
「兄様それは?」
「実はお前を助けに来る前に、災害物資保管庫に寄って保存食料やら毛布なんかをいろいろ確保してきている」
「流石です兄様!」
「菜奈ちゃんの言うとおり、凄いとしか言いようがないわね。深謀遠慮・先見之明という言葉がぴったりね」
「ん! さすが魔師」
なんかボソッと聞きなれた言葉が聞こえたような気がするが気のせいかな?
この中だと菜奈と綾ちゃんしか知らないはずだし。
「褒められて少し照れるけど、食料の心配は暫くいらないから安心していい。すぐ飢えて死ぬことはないだろう。それと菜奈の質問だが、これは日中太陽に晒して置くとソーラーパネルで発電してバッテリーを充電してくれる発光灯だ。庭先や玄関周りにおいて足元の明かりにしたり、泥棒除けに置いている人も多い。電気が来てないので夜間完全に闇夜になるからこれは役に立つだろう。外に明かりが漏れないように対策はいるけどね」
食べ物の心配がないということで、少し安堵したようだ。俺が言うまで食糧のことまで頭がいってない者ばかりだった。多分腹が減るまではそれどころじゃなかったかもしれないが、もう少し先に目をやってほしいかな。
「とりあえず水を出しておくので、脱水を起こさないように各自で飲んでくれ。後、塩飴もあったからこれも渡しておく、これも脱水対策だな。うーん、近くには居ないな。今ならトイレも行けそうだから、先に全員で済ませておくか? 行ける時にいっておかないと漏らす羽目になるから尿意がなくても必ず行っておくように。3階はちょっとあれなんで2階に行こう」
3階トイレはオークの血飛沫で酷い惨状なのだ。
ちなみに4階はトイレの部分が倉庫になっているのでトイレはない。
「美加ちゃんだっけ? 行けそうか?」
「私は暫く大丈夫です。その……ついさっき失禁しちゃってるのでもう出ないです」
「そうか、嫌な思い出になっただろうけど、災害で被災したようなものだから、辛いだろうけど気にしちゃ負けだ」
「うん、助けに来てくれてありがとう。それと『ダメだ!』って聞こえてたのに、忠告を聞かないでトイレに行って皆を危険な目に晒しちゃってごめんなさい」
「ああ、それだけ分かっていればもう同じミスはしないだろう。皆とトイレに行ってくるよ」
無事トイレから帰った俺たちは、すぐって訳ではなさそうだが、出血死しそうな美加ちゃんを助けるべく話し合いを始めた。
調理室にあったホワイトボードを取り出し、書記を決めることにした。
「書記に誰かなってくれないか?」
「茜、頼める?」
「仕方ないわね。一応3人しかいない高等部の者だしね」
「その人は? 元副部長の……えーっと」
「竹中茜よ、桜とは中等部1年の頃からクラスも部活も一緒だったの」
「じゃあ、竹中さんお願いします。目配せしたことだけ記載してくれればいいので」
「ええ、分かったわ」
「まず、このまま出血が止まらなかったら出血死しそうな美加ちゃんの救出が最優先なんだけど、その為にはレベルを上げて回復魔法を習得してこないといけない。ただ、その為にはレベル1になるのにオーク1体が必須だし、俺と菜奈はレベル2になるにはパーティーを組んだ状態だと後2体必要なんだ。今パーティーを解散してソロだと1体倒せばレベルアップかなって感じだと思う」
なんかメモ書きしてる娘までいて、皆、真剣だな。
「それとパーティー時の補足説明だけど、パーティーを組むとそのリーダーが経験値の割り振りを選択できるようになる。パーティーでの均等割りか、貢献度別の個別割り振りかのどっちかなんだけど――貢献度って言うのはこの世界を管理している神のシステムがいつも監視していて適正に判断して割振ってくれるらしい。止めを刺したとか、ヒールしたとか、魔法や剣などで攻撃をしたとかだね。何もしないで突っ立ってた人には殆ど経験値は貰えない方式だね」
「働かざる者食うべからずね。この世界では合理的で良いんじゃないかしら」
「そうなんだけど、俺のパーティーでは均等割りにするね」
「どうして? 何もしない人に何もあげることないと思うけど?」
「甘いかもだけど、俺は中学生に無理に戦闘をさせようとは思ってないんだ。それと、城崎さんが思っているより今後起こりえる現実は厳しいと思うよ」
「私の考えではまだ甘いって思ってるのね? 理由が聞きたいわ」
「そうだね、早めに忠告しておいた方が良さそうだね。今の目先の危機はもっぱらオークなんだけど、他にももっと危険な敵が沢山いるんだよ」
「他にも危険な魔獣がいるのね? オークより強いの?」
「後々は間違いなく強いだろうね。そして城崎さんは最優先で狙われる」
「脅さないでよ……なんで私が最優先なのよ?」
「あっ! そうか……兄様、この部全員ヤバいかも!」
「菜奈は気付いたようだね、偉いぞ。城崎さんはまだ気付かない? 他に気付いた人はいるかな?」
先生が手を挙げた。
「お! 美弥ちゃん気付いたんだ」
「美弥ちゃんって……あの、私一応先生なんだよ!」
腰に手を当て、不満気な顔で俺に抗議してくる……怒っているのだろうけど、仕草が可愛いのでまたからかってしまう。
「ああ、一応でしょ? で、答え合わせしてみようか?」
「う~っ、先生なのに……城崎さんを狙うのはオークの襲撃から生き残り、レベルが上がって力を付けて暴走した男の子たち?」
「正解です。城崎さん、君を犯しに来るのはオークだけじゃないってことだよ。普段理性で抑えているクラスの男子や上級生なんかが君を襲ってくるよ。普段からイヤらしい視線を感じたことはない? よくその素晴らしい胸を見られたりしていなかった? 現実世界では法律や世間体なんかがあるから理性で行動を抑制してるけど、この世界では今その枷がないんだよね。レベルが上がって強大な力を手に入れた男たちはどうするかな? 目の前でクラスの女の子や下級生がオークにレイプされているのを見て興奮しないで全員が我慢していられるかな?」
「白石君はどう考えているの?」
「一度タガが外れたら我慢なんて無理だろうね……一部の者が可愛い女の子を襲ったら、連鎖のように襲い始めるよ。ここが思春期真っ盛りの学園ってのもまずいよね。菜奈も中等部ではかなりモテるんだろ? ラブレターいっぱい持ってたもんな?」
城崎さんは血の気が引いて真っ青になっている。今にも倒れそうだ……俺の言ってることが理解できたのだろう。
「菜奈のこと、兄様が守ってくれるんですよね?」
「勿論だ! 当たり前だろ」
「白石君も私を襲うの?」
「何言ってんだよ、妹の前でそんなことできるかよ」
「菜奈ちゃんが居なかったら、襲うんだ……」
「兄様はそんなことしません! 喧嘩も人の為にしかしたことないですし、嘘も人を傷つけるような嘘は絶対言いません。とても優しくて、かっこいい人です」
「兄妹で照れるようなことを平気で言うな。それと城崎さんに危機感を今のうちに持ってもらいたくて脅すように言ったけど、全員が君を襲うことはないし、今は生き延びることで皆必死だろうから性犯罪が起きるのは当分先だろうと思う」
「それは絶対起きると思う?」
城崎さんが不安げに聞いてきた。
『大丈夫だ』と言って安心させてあげたいが、現実はそう甘くないだろう。女子全員が今のうちにしっかり警戒しておかなければならないことだ。
「100%起きると思っている。女神様も同意見だ。これは震災などの被災地で必ず起きている事案なんだ。避難所の体育館で、トイレの中で、体育館裏で、路地裏で――テレビのニュースではあまり報道されないけど、人目が少ない場所で強姦されたって話題は尽きないよ。男は3日ほど出さないと溜まって性欲が強くなるしね。それに命の危機が高まると種の保存とかの法則で男女とも性欲が異常に高まるらしいよ」
「あ! それ聞いたことある!」
「排卵日に性欲が強くなるとか、この世界独特のモノもあるそうだけど、この話は落ち着いたらゆっくりしよう。今は美加ちゃんが最優先だ」
「分かったわ。ここには男子は白石君しかいないんだから、平均的男子の性欲とかのこと教えてね」
「凄く嫌だけど、善処するよ」
「じゃあ、話を進めるね。ヒーラー希望の人いる? 手を挙げてほしい」
未来ちゃんと2年の娘と美弥ちゃん? 3人が手を挙げた。
あえてゲーム用語で『ヒーラー』と言ったのだが――
「美弥ちゃん? あんた分かって手を挙げてる?」
「分かってますよ? どうしてです?」
「ヒーラーとアタッカーとパッシブの意味を説明してくれる?」
「もう、信じてないんですね。回復職と攻撃職と持続型支援魔法のことでしょ」
そう、こういう知識がある者に優先して回復魔法を覚えてもらいたいから、ゲーム用語を選別目的で使ったのだ。
「先生もこっち側の人か……。未来ちゃんは美加ちゃんを助けたいから名乗り出たのかな?」
「兄様、未来もこっち側の人です」
「そうなんだ。うーん、じゃあ3人に質問。皆も聞いててね。俺はパーティーを3つに分けるつもりでいる。まずはメインで戦闘を行う主戦力になるAチーム。次に能力的にちょっと劣るけどこれも戦力になるBチーム。最後に『戦闘なんて怖くてできません』て娘たちの為のCチーム。Aチームは積極的に外に出てオーク相手に毎日戦闘をしてレベル上げをするのが仕事だ。BチームはAチームの補助をしつつAチームが外に出ている間の拠点防衛が仕事だ。Cチームは危険な戦闘はさせない分、A・Bチームの全ての雑用をしてもらう。掃除や洗濯ものや料理なんかだね。専業主婦的なものだと思ってくれればいい。で、Cチームの子には回復魔法と生活魔法を覚えてもらう。怪我人の回復とか、【クリーン】って浄化魔法がお風呂や洗濯代わりになったりするのでそういうやつを覚えてもらうつもりだ」
「兄様は回復職じゃなくて良いのです? これまでどのMMOもヒーラーとしてやって来たじゃないですか?」
「そうなんだけど、それはあくまでゲームとしてだから。現実に命の危険があるなら対人特化の超火力を目指すよ。実際に命のやり取りになりそうな奴がいるからね」
「兄様は、何を目指すのですか?」
「魔法剣士かな? 咄嗟の事態にも対応できるように、遠近両用のオールラウンダーを目指そうと思う」
「オールラウンダーって兄様が一番嫌っていたタイプじゃないのですか? 器用貧乏はダメだっていつも言っていましたよね?」
「私も反対だけど、白石君のことだし何か考えがあるのでしょ?」
「まーね。それでさっきの3人はどんな回復職になりたいんだ? 配置はA・B・Cのどこ希望? 美弥ちゃん、2年の娘、未来ちゃんの順で答えてくれる?」
「バトルヒーラーが好きなんですけど、ダメかな」
え~! 美弥ちゃんマジかよ! 俺のメイン職がいつもそれだよ!
「私は戦闘は怖いけどちょっとは役立ちたいので支援回復職でBチームが良いです。それと名前は中森優です」
「私も戦闘は怖いけど、回復特化になりたいです。私もBチームがいいです」
「よし決めた! 美弥ちゃん先生と優ちゃんでBチームの回復担当ね。先生はバトルヒーラーを目指して戦えるようにね。【杖術】とか【棍棒術】とかあったからそれを習得するといいよ。優ちゃんは支援魔法も覚えてもらって、美弥ちゃん先生と2人で頑張ってもらうね。未来ちゃんはAチームで回復特化のメインヒーラーをしてもらう」
「Aチームのメインなんて無理ですよ!」
「俺も回復魔法は取るので気張り過ぎなくてもフォローはするから安心して」
ちょっと涙目の未来ちゃん、むっちゃ可愛いな。髪はショートボブ、小顔で大人しいところとかかなり好みなんだよね。胸とかも凄く大きいし……あれ、城崎さんに負けてないよね。
「A・B・Cチームどこに入ってもメリットとデメリットはある。それもゆっくり後で説明するけど、今は時間が惜しいのでおいとくね。今更だけど俺が仕切っちゃってるけどいいかな? 反対の人いる? 美弥ちゃんに任せたいとかの意見はない?」
「白石君、正直に言うわね。私、先生だけど怖すぎて無理です! 何が怖いって皆の命を預かるほどの決断力がないの。だから白石君がリーダーをやってね。あなたを見てたけど、素晴らしい判断力よ。先生はあなたに従うから皆を纏めてあげて。白石君がもし自分自身に色々限界だと感じたその時は交代してあげるわね」
「了解です。反対意見はないみたいだね? 城崎さんも竹中さんも良いかい?」
「いいと言うよりお願いします」
「あなたの他に居ないでしょ? ここまでの判断力や用意周到なのを見て反対なんか誰もしないわよ」
なんか妹の菜奈が、なぜかドヤ顔してるのが気になるが、触れないでおこう。
「ちなみに城崎さんはいつもMMO内での職種は何やってるんだ?」
「両手剣でバリバリの超火力剣士よ!」
「なんか意外だけど……じゃあメインアタッカーでいいのかな?」
「できればそうしてもらいたいわね。襲ってくる男がいるなら返り討ちにできる火力がほしいわ」
「クククッ、いいねその心意気! じゃあとりあえずAチームは決定かな? 盾職が居ないけど、盾がないから手に入れるか町に行ってからだね」
「町があるの?」
「ああ、まだ言ってなかったね。この世界にも人がいて、村や町があって国もある。エルフやドワーフ、猫耳娘の獣人やヴァンパイアのような魔人もいる。この世界はできたばかりで、その概要は俺たちの世界のラノベやMMOなんかが参考になっているって言ってた」
「できたばかりの世界なの?」
「そうだね、だけど時間の流れ方が違うらしく6千年の歴史はあるみたいだよ」
「6千年あれば十分な歴史ね。100年で人が宇宙にいける程の技術革命が起こるんだもの。わずか30年前には携帯なんかなかったらしいし」
「ん! 私もAチームに入る!」
なんかちみっこが言ってるぞ。
『ん!』っていろいろ言ってたのお前か! 最後にMMO経験者組に顔を赤らめてやってきた子供だな。
「雅ちゃん、遊びじゃないからダメよ。Aチームは最前線で戦闘をするから命の危険が一番高いのよ」
「ん! 分かってる!」
「えーと、この小学生は誰?」
俺の小学生発言に怒ったのか、思いっきり俺のスネを蹴ってきた……かなり痛い。
「ん! 小学生じゃないもん! 魔師のクセに! 魔師のクセに!」
「痛っ! ごめんって! ん? お前なんでその名前知ってんだ!」
『魔師』というのは俺が妹の菜奈とよくやっているMMOでのキャラネームだ。
俺はちみっこの脇下に手を入れ、目線まで持ち上げて問い詰めた。
そういえばさっきボソッと聞こえたのもやっぱこいつだったのか。
「ん、ナトリだよ!」
「ナトリってシーフのナトリか? いつも一緒に遊んでるあのナトリ?」
「ん! そのナトリ!」
「え~っ!? 雅ちゃん、なんで今まで黙ってたの?」
菜奈が驚いて問い詰めているが、俺もナトリの中身がこんなちみっこ幼女でびっくりだ。チャットの会話から、もっと大人な人と想像していたのだ。
「ん、白石先輩と長谷川先輩がゲームの話してるの聞いて私も一緒に遊びたかった」
「そういえばお前、最初俺たちのたまり場にやってきて、しつこく初心者だから色々教えてくれとか言って仲間になったんだよな。計画的故意犯だったんだな」
「ん、ごめんなさい。もっと早く打ち明けて菜奈先輩と一緒にゲームの話したかった」
「さっさと言えば良かったのに。どうして?」
「ん、時間が経てばたつほど言い出せなくなった……」
「あー、そういうのってタイミング逃すと言い難くなるよな」
「あの、白石先輩。私、死んじゃいます。グスン、痛いです」
「ああっ! ごめん! すぐ何とかするから! ホントごめん」
凄く我慢していたんだろうが、あまりにも関係ないゲーム話をするものだから、美加ちゃんから泣きが入った。
【周辺探索】でMAPを見たらこの別館の裏にある災害物資の倉庫にオークが2体いる。よし、これを狩るか。
「本当は、1体攫って未来ちゃんに止めだけ刺してもらってレベル上げしたいとこだけど、美加ちゃんがヤバそうなんで、今回は俺がソロってきてヒールを覚えてくるよ。菜奈、この別館の裏にある災害物資の倉庫にオークが2体いる。今からそれを狩ってくるけど、3階の窓から1体に雷を落として足止め支援してくれないか? オーク2体同時は今の俺だとヤバいかもしれないので支援頼む」
「兄様、大丈夫なのですか?」
「不安はあるけど悠長なこと言ってる時間がなさそうだしな。ここが踏ん張りどころだ。美加ちゃんの為に頑張るかっこいい兄さんの雄姿を3階の特等席で見せてやる!」
「分かりました。信じてますので怪我しないでくださいね」
「白石先輩、自業自得なのに私の為に危険な目に遭わせてごめんなさい」
「ああ、ちゃんと反省してるならもういいよ。もう少し我慢して待ってろな。じゃあ、逝ってくる」
「兄様、それダメですって! 自分で死亡フラグ立てないでください!」
「ん! 逝ってらっしゃい!」
「こら! 雅ちゃんも悪乗りしない! 本当に白石君が死んじゃったらきっと後悔するよ!」
「ん、城崎先輩ごめんなさい」
MMOとかでよく冗談で言葉遊び的にやってたことだけど、一部の者には伝わったようだが、殆どの者は分からなかったようだ。やっぱ文字でやるから冗談が伝わるのだが、普通に言っても『行く』と『逝く』の違いは分からないよね。それに、本当に死んでしまったら冗談にならないと城崎さんには怒られてしまった。
皆の声援を一身に受け、ヒール獲得の為にオークを狩りに出陣するのだった。
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