1-1-6 続龍馬の事情?愛妹レベルアップ?

 今、俺の虐待について、事のあらましを皆に聞かせているところだ。

 暴力的で嫌な話なのだが、みんな真剣に聞いてくれている。


「保険医の先生がうっかりって感じで口を滑らせたんだけど、あいつの親父がここの理事長の弟で、入学の際に10億円ほど寄付しているみたいなんだ。この学校が国公立ならこんなことは起きなかったんだろうけど、ここ個人経営の私立だろ。まさか全国でも1、2って進学校でこんな虐待に遭うと思ってなかったよ」


「教師は全員理事長に逆らえないってこと?」

「城崎さんの言うとおりそうなんだって。理不尽な解雇が何回もこれまであったらしい。下手に不当解雇とかで訴えたら二度と教員の職場に就職できない権力とコネと資金があるらしい。だから教師は全員見て見ない振りをしてた」


 一流進学校のコネというのは本当に恐ろしい。当然のようにここの卒業生は優秀なので、各界隈のトップに結構な数の人間が君臨しているようなのだ。そしてそういう奴らはコネを大事にし、横のつながりも強固なのだ。俺のような異分子は揉み消されてしまうということだ。


「兄様が黙ってそれを我慢してたわけないですよね?」

「まーな、虐めがエスカレートし始めた頃に、教室に4個、廊下に4個、高等部のここと同じ場所にある用具室に2個、寮の俺の部屋に3個、職員室に2個。俺が虐めや暴力を主に受けてた場所に通販で買った超高画質火災報知器型カメラを全部で15個設置してある。俺に行った行為はすべて記録してあるし、教員との会話も大体録音してある」


 女子更衣室や女子トイレとかじゃなければ意外とバレないものだ。


「流石です兄様! そういう抜かりのないところはいつも尊敬しています!」

「大したものね、ちょっと溜飲が下がった気がするわ」


「でも今更だな。せっかく奴らを社会的に抹殺させるための証拠も使い道がなくなったよ」


「その……兄様は、井口直美さんって方のことが好きなんですか? それとストレッチャーで裸で、その……あの……理由があるって言ってましたよね?」


「そうだな、1学期の頃は彼女に好意は持っていたよ。全裸勃起事件に井口さんも係わっているから全部話すけど……中等部の子にはちょっと躊躇われるような話なんだけどなー」


「あの白石先輩のお兄さん、凄く気になるので今更言葉を濁さないでください! 今どきの中学生はお兄さんが思っているより結構エッチで知識も一杯なんですよ!」


「えっと。そうなの? まだ詳しく言ってないのに、エッチ関係の話って分かっちゃうくらいなの?」


 皆を見回すと、一様にウンウンと激しく頷いてる。


「なら全部話すけど、聞いてて嫌な気分になったら言ってね、すぐ止めるから――井口さんは10月の中頃まではよく俺と話をしてて、なんとかあいつらのセクハラも回避していたんだ。でも井口さんは俺への虐めが虐待に変わった頃にはすっかりビビッてしまって、10月の終わり頃には佐竹の彼女になっていた」


 目の前の女の子たちは、救われない俺に可哀想な者を見る眼を向けている。

 同情してくれてるのは分かるけど、泣かなくていいんだよ……井口さんのことも憐れんでくれているのかな?

 優しい子たちだね。


「あの……白石君、例の階段上の用具室の井口さんの噂は本当なの?」

「本当だよ。昼休みに噂の用具室の前に、男ばかり20人ほどいつも人だかりができていたでしょ? 土日以外は10月29日頃から、彼女は毎日佐竹と昼休みに用具室でSEXしてたよ。外の男たちは、井口さんの喘ぎ声が聞きたくて集まったクズな奴らだよ。あ、俺もその一人か」


「兄様も聞きに行っていたのですか!?」

「違うよ! 佐竹は俺に井口さんのヨガリ声を聞かせる為に、入口に毎回態々連れて行って、俺を外のドアノブに括り付けて殴る蹴るを井口さんに見せつけてから中でSEXするんだよ」


「なんてクズなの! 鬼畜もいいとこじゃない!」


 城崎さんが怒ってくれているが、あいつの醜悪さはこんなものではない。


「そうなんだが、まだ続きがあって、10日前の例の事件になるんだけど……その日は殴る蹴るされた後、扉の外ではなくて中に括り付けられてね。嫌がる井口さんを強引に脱がせて、俺の目の前で行為を始めたんだ。彼女を守れなかった自分が腹立たしくて涙が出たんだけど、それを見てあいつはゲラゲラ笑って、俺が目を背けたら蹴ってきた……『ちゃんと見てろ!』ってね」


「酷過ぎます! 兄様が可哀想過ぎます! 井口さんも可哀想です!」

「うーん……その井口さんなんだけど、行為中は自分で腰を振ってヨガリまくってぐっしょり濡らして――いつも外に聞こえてきてた喘ぎ声も演技じゃなくてマジものだったみたい。アレ見ちゃったら余計に情けなくなってきてね。アレ見た後にもう彼女を好きって感情はこれっぽっちもなかったんだけど……でも、俺は勃っちゃったんだよね」


「勃っちゃったんですか? 白石君は我慢出来なかったのですか?」


 う~城崎さん……そんな汚物を見る目で見ないでください……。学園一の美少女にそんな顔されたら心が折れちゃいそうです。


「情けないけど、めっちゃ興奮した。あれがレイプとかだったら勃たなかっただろうけど、気持ち良さ気に自分から腰を振って、目の前で可愛い娘に大きなおっぱいブルンブルンされて喘がれたらね。思春期真っ盛りの俺には無理でした。で、行為が終わった後、俺が勃起してるのを見つけたアイツは俺を裸にひん剥いて、例の廊下引き回し事件に突入したってわけ。勃っていたのはすぐ治まったんだけど、最初の廊下の端から端までの30秒程に見た人は、俺のフル勃起状態を目撃したんだろうね。はぁ~~、思い出したら死にたくなる」


「兄様、気付いてあげられなくてごめんなさい」

「菜奈にだけは気付かれないように細心の注意をしてたからね。あ、誰か人が別館に入ってきた……ちょっと連れてくる」


「白石君、オークじゃなくて人なんですか?」

「ああ、1人のようなので、上手く逃げ出せたんだろう。連れてきてあげよう。その後にまた話の続きをしよう」


「分かったわ、気を付けてね」

「兄様気をつけて」


 入口の鉄の扉をそっと開けたのだが、1人が『トイレ』と言って駆け出してしまった。


「あっ! 行っちゃダメだ! 待て!」


 その後に続いてもう1人。


 未来ちゃんも追っかけようとしてたので慌てて掴んで引き留めた。どうやら後から連れてきた茶道部の2名がトイレに行ったようだ。クソッ周りの状況が理解できないアホは救いようがない。


 茶道部なので、部活でお茶を飲んだ後に寒かったから催したのだろうが自殺行為だ。


「未来ちゃんはここにいて、俺が行ってくるから」

「お願いします!」


 連れ戻しに向かおうと思った時、下の階から大きな音がした。


 バタン、ガシャ、ジャー。


 ドアを閉め、鍵をかけ、女の子なのでいつものように排尿時の音が外に漏れないよう水を流しながら用を足しているのだろう……だが、それは非常にまずい!


 音を聞きつけたオークが3体、別館の建物の中に入ってきてしまった。


 このオーク3体……元は最初に入ってきた人を追ってきたのかもしれない。トイレの音を聞いて来たにしては、あまりにも到着が早すぎる。もう助けに行くのは無理だ……と言うよりこっちに帰ってこられたら俺たちもヤバい。


「オークが3体入ってきた……」


 城崎さんと菜奈を見たら状況を理解したのだろう。

 菜奈は首を振っている、城崎さんは俺の服を掴んで行かせないように制止しようとしている。


「皆、中へ……急いで!」




 すぐに3階トイレから悲鳴があがった。


「あの、お兄さん!」

「静かに、すぐ下の階まで来ている。3体いるのでもうどうしようもない。ごめん俺のミスだ。井口さんの話よりもっと危機感を持たせる話を先にするべきだった。今、俺が行っても、俺が殺されるだけだ。そうなったら皆が助かる術がなくなる。未来ちゃん耳を塞いで耐えてくれ。皆も暫く毛布を咥えて何があっても一切声を出さないように頼む」


 下の階から『やめて痛い!』と悲痛な声が聞こえてくる。

 泣き出した子もいるが、声を押し殺して我慢してくれている。皆がんばれ、耐えろ。耐えてくれ!


 オーク3体のうちの2体が1人ずつ犯しているのだろう。

 あぶれた1体が俺たちのいる上の階に上ってきている。


 だが、1体ならチャンスだ!


「菜奈、お前はこの世界で何になりたい。1体倒してレベルが上がったら、初回だけ亜空間の神のシステム部屋に行ける。そこは時間の流れが違っていて何時間でも考える時間が与えられる。システムアナウンスが流れるので、指示に従って【クリスタルプレート】の出し方や、スキル獲得の仕方などを教えてくれるはずだ」


 階下から悲痛な叫び声が聞こえているのに、俺の場違いな言葉に菜奈はキョトンとした表情を浮かべている。


「今、3体のうちのあぶれた1体がこっちに上がって来ている。俺が動きを抑えるから、この槍で首を死ぬまで手を休めず突き刺せ、できるな? もしその一体を倒せて菜奈がレベルアップできたのなら、俺とMMOのゲームでいつも遊んでいるお前だったら連携してトイレにいる2体も倒せるかもしれない」


 俺は【インベントリ】から槍を取出し菜奈に渡した。それから皆に調理室から持ってきた包丁を配った。 


 菜奈は覚悟を決めたようだ。


「人型を殺すのは凄く勇気がいる。擬似的殺人感覚に襲われるが迷うんじゃないぞ。菜奈が躊躇したら俺が死んじゃうからな。オークがここに気付かなかったらそのままやり過ごす。皆は俺たち兄妹がやられてしまったら、全員でその包丁で刺しに行ってくれ。全員でなら何人かは助かるかもしれない……もう直ぐだ」


 皆で息を潜め、オークが立ち去るのを待った。鼻を鳴らして匂いを追っているようだ。

 クソッ茶道部の女の子がコロンか何か付けていたんだろう。扉の前でフゴフゴ言ってるのが分かる。


 ドンッといきなり扉に体当たりをされビクッとなった。

 『ヒャッ』と何名かが毛布越しだが小さな声を出してしまっている。


「白石君見つかったみたい!」

「兄様、覚悟はできています!」

「そうか! じゃあ応援を呼ばれる前に行くぞ!」


 俺は外のオークが扉のすぐ前にいるのを確認して、扉を思いっきり開けてオークを窓際まで吹き飛ばした。


 一気に廊下に飛び出し、倒れているオークの右腕を取り、渾身の力でへし折った。

 一瞬『ピギー!』と豚の鳴き声のような声を出したが、それほど大きな声ではなかったので階下のオークに動きはないようだ。


 このオークは剣を持っていたがまだ腰に差したままだ。剣を抜かせないように逆の腕を取り、袈裟固めで決めて菜奈を呼んだ。


「菜奈今だ! 仲間を呼ばれないように首を狙って刺すんだ! レベルが上がったら自分の成りたいスキルをゆっくり選んでこい! お前の選ぶのは大体分かるが好きなように選べ!」


「はい兄様! エイ! エイ! ウリャー! オンドリャー!」

「兄としてオンドリャーはないと思う……それに声が大きい」


 上手く最初の一撃目を喉元に刺せたようで、ブヒブヒ言ってるが大きな声にはならず、喉から大量の出血と空気が漏れている。もはやほっといても死ぬだろう。


「ただいまです! 兄様!」


 必死で押さえている間にオークは絶命して、菜奈は亜空間の初回だけ行ける部屋に行ってきたようだ。

 無事菜奈のレベルを上げられた。良かった、第一段階クリアだ。


 下の気配を探るが、襲われている女子の悲鳴が大きく、俺たちの方には気付かなかったようだ。

 犯すのに夢中で、他に気がいってないのかもしれない。


「お帰り菜奈! とりあえず中に! 何とってきた?」


「当ててみてください!」

「菜奈悠長なことをしている暇はない! 下の階ではお前の同級生が犯されているんだぞ!」


「未来ちゃんごめんなさい。忘れてました……」

「時差ぼけだろうから仕方がない。向こうで結構な時間過ごしてきたんだろ? うっかり忘れるほど向こうに居たのか?」


「はい、約10時間ほど見てきました」

「パーティー飛ばすぞ、取ってきたのは火と雷か? それとも火と回復か?」


「パーティー申請了承しました。火と回復にしようと迷いましたが、雷にして3ポイントを使って雷をレベル2にしてきました」


 菜奈なら絶対魔法使いスキルを選んでくると思っていた。しかも今俺が望む構成を的確に選んできている。


「完璧だ菜奈! ひょっとしたら火の方をレベル2にしてくるかとも思ったが、ナイスだ!」


 火魔法は生物に対して強力なスキルだが、熱を浴びたら大抵は絶叫する。今回は周囲に対して隠密性も大事なので適していないのだ。しかもレベルの低い火魔法では殺しきることもできない。対して雷魔法は低レベルでも筋硬縮が起こって、一瞬だが動きを止めることができる。


 低周波治療器の弱い電流でも、ぴくぴくと動く筋硬縮を意識して止められないのだ。低レベルでも攻撃用魔法なので行動の阻害は十分可能だと女神様から聞いている。


「白石君、私にも説明してほしいのだけど?」


「ごめんちょっと待っててくれ。菜奈が雷魔法のレベル2を習得してきたので、下の娘たちを助けてくる。その後で説明するね」


「そういうことなら待っているわ。無理しないでね。菜奈ちゃんも、無理しちゃダメよ?」

「はい、城崎先輩。行ってきます」


「先に作戦だ。いきなり突っ込んでも勝てないからな。トイレの中で犯されてるみたいだから、まず入ってすぐの奴を俺が攻撃する。ホントなら雷を落として筋硬直中に1体倒したいところだけど、オークのナニが入っていたら女の子まで感電するかもしれないからできないよな。俺が攻撃した奴が倒せたらそのまま2体目を攻撃、倒せなかったら狭い場所だし女の子を巻き込むかもしれないので廊下に一旦退避する。出てきた奴に雷を落としてくれ。俺は、菜奈が硬直させた奴を優先して攻撃するので、タイミングはそっちに任せる。で、今のMPで何発撃てる?」


「雷は4発しか撃てません。火なら5発です。雷4発、火1発が最大攻撃数です」

「分かった。その槍はそのまま持ってろ。俺はさっきのオークの剣を使う。最後の火魔法はできるだけ撃つなよ。MP切れで気絶するかもしれないからな」


「了解です兄様」

「じゃあ、行くぞ! ゲームと違うんだから敵との距離感を間違えるんじゃないぞ!」



 菜奈とパーティーを組んだ俺は、茶道部の2人を救出するべく3階トイレに向かったのだった。  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る