第83話 情けないポーター 3

 

 Bランクパーティー『黒曜の剣』と、新米ポーターに任命されたソウシが王国マグルを出発して二日。

 目的は南にあるテイメス村の、近隣の森に潜む魔獣の駆除だと説明されていた。

 ソウシは今まで『転移魔術』や聖騎士長の馬や馬車で移動していたので、徒歩で目的地まで向かう進行速度の遅さに驚いていたが、余計な注目を集めたくなかったので押し黙る。


 Aランク以下で、馬車や乗り物を用意するパーティーの方が稀なのだと後にピエラに説明された。

 想像以上に時間がかかるのかと溜息を吐くが、その理由は一つでは無かった。


 ーー己の内部で、騒ぎ立てている存在がいるからだ。

『ねぇ、ご主人。僕はいつまでこのビッチ魔剣と一緒にされなきゃならないのさ!』

『黙りなさいロリ聖剣! 私だってマスターに早く格好いい鞘を作って貰って、腰にかけて欲しいわよ!』

「二人共、喧嘩しないでよ……」

 ソウシは頭の中にガンガンと響き渡る喧騒に、正直ウンザリしていた。黒髪を振り乱して煩いと何度も告げたが、どうやらアルフィリアもシャナリスも納得していない様だ。


「ともかく、二人共絶対に勝手に顕現しちゃ駄目だからね!」

『僕は君が戦うって決めてくれなきゃ、この身体から出れないんだけど……』

『うふふっ! 不便な聖剣ですね。それに比べて私はいつでもマスターを助けにいけます!』

 ソウシは身体の内から湧き上がる新たな力を感じて、冷や汗を流しながら注意した。


「駄目だってばぁ! シャナリスも大人しくしてないと嫌いになるからね!」

『はうぅぅ〜! そんなご無体なぁ〜!』

『ザマァ見ろ、ビッチめ……』

「こら! アルフィリアも挑発しないで! 全く何がそんなに気に食わないのさ」

『……黙秘するよ』

『……こちらも黙秘します』


 聖剣と魔剣はある一つの事柄についてのみ、互いの認識を同じくしていた。それは自らを宿す主人の体内の封印だ。

 聖剣が普段どれだけの力を使って、その封印の制御を行なっているのかを理解した時、魔剣は己という異物が体内にいる事は危険だと判断した。


 憎み合っている訳ではない。互いに主人であるソウシを守る為の結論。それがーー

『脳内で喧嘩してるみたいに騒いでいれば、さっさと鞘を作ってくれるに違いない』

 ーー作戦を立案した時には拍手し合ったものだが、冒険者研修のせいでいきなり頓挫したのだ。愚痴を言いたくもなる。


「とにかく、この冒険者研修が終わるまでは我慢してね? 僕は全力で逃げて素材回収に努めるんだから」

『『そう上手くはいかないと思うけど(ますけどね)』』

 聖剣と魔剣の呆れた様子を含んだ台詞を聞き流して、ロングイテの背後に駆け寄った。


「あの……目的地のテイメス村って、あとどれくらい何ですか?」

「そうだなぁ〜。道中魔獣に襲われなければ、早くて一週間位で着くぞ」

「えっ⁉︎ それまでに村が壊滅したらどうするんですか⁉︎」

 驚愕するポーターの姿を見て、ロングイテを含む冒険者達は呆れた表情を浮かべる。


「本当にソウシは世間知らずなんだなぁ〜。山に住んでいたんじゃ、知らないのも当然か」

「は、はい……すいません」

「基本的にな、マグル王国内の村や町には『結界石』が置いてあるんだ。突然襲われたら依頼を出している暇すらないだろ? 凶悪な魔獣が出て、危険度が高い場合はAランク以上のパーティーが依頼を受ける」


「つまりは、結界石が壊されない範囲で、村側も依頼を出すという事ですか?」

「そういう事だ。今回の依頼を受ける上で、その期日もギルドから提示されるんだ。その日数が短い場合は、馬車なども手配して対応する」


「成る程……すいませんでした」

「謝る事はないさ。未来の後輩に足りない知識を教えるのも、先輩冒険者の仕事だからな」

 照れながら謝る少年を見つめて、リーダーが頭を撫でる微笑ましい光景が繰り広げられる最中、ーー周囲を警戒していたピエラが突如叫んだ


「魔獣の反応だよ! 数はおよそ九匹前後! ランクはD!」

「「「了解!」」」

「ソウシ君は背後にーーってあれ?」

 ロングイテが警戒心を強め、今まで隣にいたポーターへ忠告するとーー

「皆さん頑張ってくださぁぁぁぁぁいっ!」

 ーー疾風の如き素早さで、隠れた木の陰から声援を浴びせられた。


「どんな素早さだよ……」

「何でだろうね。嬉しい様な引っ叩きたい様な……」

「間違ってないんだけどねぇ〜。何だかなぁ〜?」

「自分が思うに、彼はあの俊足を買われてポーターに選ばれたのだよ」


 四人の冷ややかな視線がソウシに注がれる。

(あれ? 僕何か間違えた? ポーターって逃げて良いんだよね?)

 遠目には小柄な黒い狼、ーーブラックウルフが群れを成して『黒曜の剣』へ迫っていた。


「ハピー! 炎魔術で牽制!」

「はーい!」

「ピエラ! 魔獣が怯んだ隙に左右から挟撃するぞ!」

「了解!」

「ステイン、付与魔術を頼む!」

「パワーアーム! ウインドレッグ!」


『黒曜の剣』の面々は襲い掛かる魔獣の黒牙や爪を逸らしながら連携をとり、的確に急所を突いて絶命させていく。治癒術師のステインでさえ、モーニングスターを振るい、魔獣の頭部を破壊していた。


「凄いね。これがパーティーか……」

 見習いポーターは木陰からその様子を眺めながら、一切心配する必要がないベテラン冒険者達の動きに見惚れている。


 この後、初めての作業として、魔獣の皮を剥ぐ気持ち悪さに絶叫する羽目になるとは知らぬままに……

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