第67話 マグル学院一年生『冒険者研修』2

 

 ソウシとヒナは不安から自然と手を繋ぎ、冒険者ギルドの扉を開ける。以前にも来た事はあったが、大人がいるといないとでは、感じる雰囲気が違う。

(大丈夫かな……絡まれないかな……)

(お腹空いた……自分から言うのは、ちょっとはしたないです)


 勇者の不安と聖女の食欲は、全く別の思考性を持ってギルド内部へと向かう。ただ、そこに待っていたのはーー

『ようこそマグル冒険者ギルドへーー!』

 その垂れ幕と共に、まるで学院生を歓待するかの如き、温かな様相を冒険者達は醸し出していた。

「あ、あれ?」

「何か、想像と違うです……」


 そこへ、テンカが階段を伝い降りて来て両手を広げる。その姿にヒナは怯えるが、ソウシは何故か慣れて来ていた。

 まるで外国人の様に、頬と頬を擦り合わせた後に言葉を発する。

「ようこそ。待ってたのよ〜〜!」

「もしかして、僕達の監修役ってテンカさん何ですか? それなら心強いや!」

「あの……以前はお世話になりました!」

「そんな他人行儀にならなくて良いわ〜! これから一緒にクエストを受ける仲なんだからね!」

 ビキニアーマーからはみ出しそうな筋肉を隆起させて答える姿に、勇者と聖女は若干引いていた。

((筋肉が凄いけど……ちょっと気持ち悪い))


 態度と肉体が釣り合わない歪な存在を目にして怯えるが、これからクエストを受ける中としては最高に頼りになる存在に歓喜していた。

「それで、僕達は一体何のクエストを受けるんですか?」

「はいはーい! まずは冒険者プレートの登録から始めましょうね」


 ーーパンパンッ!

「はいはい、ギルドマスターゲンジェ参上!」

 普通はこの程度の学院の研修にギルドマスターが出てくる事も、況してやSSランク冒険者が出てくる事も無い。だが、テンカは決めていたのだ。待っていたのだこの時を……


「まず、ランクとギルドポイントについて説明させて頂きます。ランクは一番下がFですが、十五歳以下の見習いはGランクと呼ばれます。成人後、貯まったポイントのランクに繰り上がる形です。そして逆に一番上がSSとなっており、S、A、Bランクに上がる際は試験と、それに伴う依頼を達成する事が必須となります」


「……そうなると、テンカさんはやっぱり凄いなぁ」

「そうでも無いのよ〜〜?」


「SSランクは、国の王に認めて貰う必要がある程の実力が無ければいけない。また、ギルドマスターの承認が必要となり、各国でも一名いるかいないかという、特異な存在となります。実質『周知されている』ランクはここまでですが、一部の噂ではそれ以上のランクがあると聞いた事があります。ですが、私達ギルド職員が知らないランクなど、疑問視はされますがね」


「そ、そんな存在がいるの?」

「いるのよ……いつか会う事になるわ。私が負けた不死の悪魔……ザンシロウは己をGSランクだと名乗っていたわ」

「えっ……絶対会いたく無いんだけど……」

「そうできたら良いわねぇ」

 青褪めるソウシを無視して話は進んでいく。


「冒険者ギルドでは、リーダーのランクがパーティーのランクと見なされますのでご注意ください。今回は学院の研修なので問題ありませんが、次回からは必要となりますよ」

「大丈夫です! 次回ってのがまずありませんから!」

「ですです! これを終わったらヒナ達は安心安全な生活を心掛けるです!」

 二人は見つめ合い同時に頷く。その姿を見てゲンジェとテンカは溜息を吐いた。

((そんな訳無いのに……))


 SSランク冒険者は独自の情報網を持っており、既に聖女獲得の為に、闇ギルドが動いている事実を把握していた。

 だからこそタイミングが良かったのだ。己の監視下に置いておけば、何かが起こった時に直ぐ様動ける。

 ーーそして、狙いは他にもあった。


「じゃあDランクダンジョン、『オークの王国』に向かいましょう!」

「ふぁっ⁉︎」

「ふぇっ⁉︎」

 素っ頓狂な声を上げる少年少女に、髭を尖らせたテンカが微笑む。

「何を驚いているのよ? 私が監修役に着くんだもの。他の生徒達よりクエストのランクが上がるのは当然でしょう?」

「チェンジ!」

「チェンジですぅ!」

「うふふっ! これは決定事項よ?」


 縋る様にゲンジェを見つめるが、両手を組みながら何故か嬉しそうに頷いていた。

(駄目だ。この人達はあてにならない……)

「ヒナ! 逃げるよ!」

「ガッテンです!」

 ヒナは両手を広げて万歳すると、ソウシは脇を抱えて逃走を開始する。しかしーー

「あらあら〜? 『空界』発動〜〜!」

 ーーふわりと宙を浮かびながら上階へと戻され、椅子に座らされた。


「ひ、卑怯だ!」

「お、横暴ですぅ!」

 二人の抗議に対して耳を貸さずに、話は進められる。

「落ち着いてヒナちゃん。今回戦うのはソウシちゃんだけだからね〜!」

「それなら文句無いです!」

「ふぁっ⁉︎」

 突然の聖女の裏切りに目を見開く。まさかの行動を予測すらしていなかった。しかし、逆の立場で考えて見た時にすんなりと理解出来る。

(同じ台詞を言われたら……僕も言いそうだ……)


「話は纏まったからしら? 明日って言うとソウシちゃんが逃走しそうだから、今日このまま出発するわよ!」

「ーーーーッ⁉︎」

「はいです〜!」

 こうして、学院の冒険者研修はまたしても他の生徒とは違う内容へ変更されたのだ。


 ーー勇者は半泣きのまま考えていた。

(また嵌められた……助けて……セリビアお姉ちゃん)


 この時の己の浅はかさに、後日ソウシは苦悶に歪む。

 その事実は、『魔剣白薔薇』を手に入れた聖騎士長。『限界突破』を学んだ勇者をキレさせるに値する事件だった……

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