第44話 また逢う日まで……
翌日、手を握り合いながら向き合って眠っているソウシとレインを発見し、アルティナとテレスは絶叫した。
「私の馬鹿! 何で酔い潰れて眠ってるのよ〜!」
「先輩の所為ですからね。とりあえず二人を起こしましょう!」
早く就寝した二人とは違い、ソウシ達は興奮から中々寝付けず、今もまだ穏やかな夢の中にいる。
「起きなさい、この馬鹿!」
テレスがソウシの頭を叩いて無理矢理意識を覚醒させると、寝惚けながら目を擦っていた。一方普段から寝起きの機嫌が悪いレインは、邪魔をするなと無言で睨み付けた後、二度寝を開始する。
ーーその際にソウシの首元に腕を絡ませ、わざと見せつける様に抱き枕にして胸元へ引き寄せた。
「なっ⁉︎ 離れろこの小娘!」
「あんたも好きにさせてんじゃ無いわよ!」
「いや、でもこれいつもの事だし、レインは寝相が悪いんだよ?」
焦るソウシの顔横では、魔族の姫がはっきりと目を見開き、舌をちろっと出してテレス達を挑発する。
ーー何も知らずに勘違いしているのは勇者のみ。朝から少女達による三つ巴の戦いが勃発しようとしていた。
「ぐぬぬっ! ソウシ、早く帰る準備をなさい!」
「は、はい!」
アルティナが激昂しているのを敏感に感じ取り、少年は賺さず立ち上がった。帰る準備を開始しようとしたのだがーー
「うん、特に持って帰るものも無いか」
ーー準備する必要がない事に気付く。
「う、んん〜!」
レインは、ワザとらしく欠伸をすると徐ろに起き上がった。庭に縛り付けて魔術で寝かせているカテールスの懐から、レイネハルドに行き先が設定された転移魔石を奪うと、その身体を掴み、即座に転移魔石を発動させる。
「えぇっ⁉︎」
ソウシは魔族の姫の突然動きに驚愕した。まだ別れの挨拶も済ませていないのに、一体何故だと目を見開く。
「これで良いの。大切な言葉は昨日語り合ったでしょう? 私が会いに行くまで待っててね」
「うん! レインもどうか元気で! 困った時は僕を頼ってくれ、絶対に助けに行く!」
「じゃあその時は黒毛に伝言を預けておくわ!」
「分かった!」
「ありがとう、大好きよソウシ!」
「僕もレインが大好きだ!」
想いの深さに差異はあれど、素直に好きだと言葉に出来た。心の通じ合った魔族の姫と人族の勇者は、溢れそうになる涙を堪えながら別れる。
その様子を黙って見つめていた学院の先輩二人は、心の中で考えていた。
(もしかしたら、これがソウシの初恋なのかもしれない……)
ーーそう考えたら、安直な台詞は吐けなかったのだ。
転移したレインの残影を見つめながら佇む少年の背中にそっと手を寄せ、どうせ泣いてるのであろうと慰める心構えでいたテレスは、その横顔を見て固まった。
力強い決意を宿した瞳に、精悍な顔付きをした『男』がいる。弱々しく常に逃げ腰であった面影はもう無かった。
ーートクンッ。
(あぁ、ダメだ……やられたなぁ……)
胸の高鳴りが止まぬテレスは、自然とアルティナの横まで退がる。
「今更気付いたの? 貴女も大概鈍感なのね〜?」
「…………うるさい」
心中を見透かされた気恥ずかしさはありつつも、当然の事だと諦めた。きっと顔が真っ赤なのだろうと、自分自身が熱を一番感じているからだ。
「ソウシ〜! そろそろ行くわよ?」
「うん!」
周囲を見渡すと島の様々な魔獣達が見送りに現れていた。しかし、雄叫びを上げる事も無く、黙って新たなる王を見つめている。別れの言葉は必要なかった。
「必ずまた来るから、どうかみんな元気で!」
その言葉を最後に、勇者は王国マグルに帰還したのだ。
__________
「帰って来たんだ……」
「ソウシ〜〜!」
転移した先にはセリビアが待っており、抱き締められると同時に、胸元に顔を埋めさせた。
「く、苦しいよ、お姉ちゃん!」
「いいのよ! お姉ちゃんに心配をかけた弟への罰なんだから」
「心配かけてごめんね?」
「無事に帰って来てくれたんだからいいのよ……」
「他のみんなは?」
「今は授業中でしょうが!」
柔らかい姉の抱擁に包まれながら、ソウシは日常に戻って来たのだと安堵する。
ーー『メルクが消えた』
クラスメイトとの感動の再会の直後、ドーカムからその台詞を聞かされるまでは……
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