第31話 学期末対抗戦 1
「今日は、来月の期末対抗戦のメンバーを選出するわよ! 推薦でも立候補でも良いから、我こそはと勇気ある生徒は挙手しなさい」
「「「「…………」」」」
朝、授業開始前にアイナが一年一学期終了前の『期末対抗戦』代表メンバーを選ぼうとするが、誰も挙手せず滞っている。
その理由は明白だ。この対抗戦はクラス毎にハンデが定められており、Aクラスのハンデは選出者が五名までという重い内容だった。
一年生は、各AからFまで一クラス四十名おり、他国からの特別留学生組を除いて、同学年のクラス同士で期末対抗戦を争う事になる。
ルールは互いのクラスで王を一名決め、その者の被った王冠を方法を問わずに奪い合うシンプルなものだ。
問題は人数差と実力が見合うかに絞られていた。
_________
Aクラス 五名
Bクラス 十名
Cクラス 十五名
Dクラス 二十五名
Eクラス 三十名
Fクラス 四十名
_________
魔力やMPを含め、ステータスと能力差を考慮されての学院側からの措置ではあったが、Aクラスからすれば襲い掛かるプレッシャーは半端では無い。
この対抗戦に負けると、一方は褒美として、一方は罰として、寮での食事と部屋の『交換』をせねばならないからだ。
実力で優遇されているAクラスは、部屋も食事も他のクラスより良い扱いを受けている。この生活を失うかもしれないリスクを自らが引き起こすなど、考えただけで恐ろしかった。
自信の無い生徒達は不安を抱いていたがーー
「はい! 俺はメルクを推薦します。Aランク冒険者の資格を有しているし、魔術においてこのクラスで彼女に並ぶ者はいません」
ーー沈黙の中、ドーカムが挙手してメルクを推薦した。一斉に皆の注目が集まる。
「……まぁ、良いよ」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
教室に歓声が湧き上がる。普段のメルクを鑑みて、クラスメイトはまさか素直に了承してくれると思っていなかったのだ。
「……じゃあ、ドーカムも決定で」
「えっ? いや、俺は正直接近戦しか脳が無いから、この対抗戦には向かないぞ?」
「……決定で」
「あっ、はい……みんなは良いのか?」
自らで本当に良いのか答えを求めた職業騎士へ、異存は無いとクラスメイト達は拍手で答えた。
「私はベルヒム君を推薦します!」
勢いに乗り、マリーニアスが挙手して三人目を推薦した。だが、その言葉に誰よりもベルヒム本人が目を見開いて驚いている。
「はあぁっ⁉︎ おらはいやっす! 剣も魔術もマリーニアスの方が上っすよ?」
「でも、貴方はこの学院の一年生の中で誰よりも頭が良いのよ? ペーパーテストは常にトップじゃない! きっと敵の作戦を読み切って、その頭脳が私達を勝利へ導いてくれるわ」
「勉強と実践は違うっすよ! おらは軍師じゃねぇっすから!」
「貴方なら、あと一ヶ月でそれすら学んで見せてくれると信じています!」
推薦したお嬢様は、熱く拳を握り締めて熱弁した。両者の温度差が激しい。
「買い被り過ぎっすよ⁉︎ 無理! みんなもそう思うっすよね?」
「大丈夫だ、俺達も手伝うからさ!」
「えぇ、一生懸命サポートするわ?」
「頑張れ、ベルヒム!」
クラスメイトは縋り付く様な、弱々しい視線を向ける男のやる気の無さに反比例して、みんなで応援しようとやる気に燃えていた。
その様子を見て、アイナが強制的に決定を下す。
「それじゃあ、ベルヒムで決定ね!」
「……ま、マジっすかぁ」
項垂れる同級生にソウシは憐憫の視線を向けていた。自分には全く関係無い事だと窓際の席から、晴れやかな空を眺めている。
だが、もうこれ以上堪えきれなかった猫娘は、輝いた瞳のまま挙手をしようと動き出した。
ソウシはその瞬間、猛烈に嫌な予感に苛まれ、最大の敏捷を発揮してその手を下ろす事に成功する。
ーーしかし、時は既に遅かったのだ。
「サーニア〜〜? 今、手を挙げたわよね?」
アイナは二人の一瞬の攻防を見逃していなかった。少年の意図を理解した上で逃さない。
「ソウシを推薦するにゃ、そしてあたいも出るにゃ! 二人が組めば無敵なのにゃあ!」
ソウシは胸を張って最強説を唱える少女を、柔らかな口調で説き伏せようと試みる。
「あははっ! 落ち着いてサーニア? 何を馬鹿な事を言ってるのかなぁ。僕みたいな落ちこぼれの出る幕じゃ無いんだよ?」
「大丈夫にゃ! みんなさっきから推薦したい癖に出来なくて、チラチラとこっちを見てたにゃ! あたいは何でも知ってるにゃ!」
「そ、そんな訳無いだろ?」
「いや、まぁ、チラチラじゃあ無いな。俺とメルクはガン見だ!」
「……えぇ、漸く名前が出てホッとした」
ーー自信満々に肯定する友人二人は、満面の笑顔で応える。
「僕は嫌だ!」
「「駄目だ!」」
「返事はやっ⁉︎ みんなだって僕の事なんか認め無いよ? そうだ! マリーニアスさんが出ればいい!」
「お断りしますわ!」
「否定はやっ⁉︎ 無理だって、僕なんかすぐやられちゃうからね? そうだ! 最後の一人は、次の魔術か剣術の授業で決めれば良いんだよ!」
「「「「絶対に嫌だ!!」」」」
「声揃い過ぎ⁉︎ さぁ、みんな! 今こそ己の勇気を奮い立たせる時が来たんだよ! 常日頃、模擬戦や勉学に勤しんでいるのは何の為だい? この時の為さ! 僕以外の誰かに清き一票を‼︎」
「「「「「…………」」」」」
教室は静寂に包まれた。必死にアピールするソウシは既に涙目だ。見兼ねたマリーニアスが口を開く。
「ソウシ君、私達は他ならぬ貴方を代表にしたいのです。どうか引き受けてくれませんか?」
マリーニアスが頭を下げた瞬間、他の生徒達も一斉に立ち上がり頭を下げた。
それは、本来クラスメイトらしからぬ行動だ。だが、今迄ソウシを蔑んできた自責の念が抜け切らない者達の、謝罪を兼ねた誠意だった。
「……負けても……知らないからね」
呟かれたその一言は、引き受けると了承したも同然であり、教室内で皆が晴れやかな表情を浮かべて歓声を上げる。
ーーここに、学期末対抗戦のAクラス代表メンバー五名が決定した。
___________
放課後、Aクラスの生徒達は『王』を決める為、実際に対抗戦が行われる学院の裏山に向かった。
代表メンバー対残りの生徒達で模擬戦を行なった結果に、一同は騒然とする。
ーー敵どころか、本気を出した味方迄もが、山中でソウシを発見する事が出来なかったのだ。
何度サーチの魔術を放って位置を特定しても、迫っている最中に既に別の場所におり、索敵だけで魔力が尽きてしまう。
途中からムキになった味方の筈のメルクだけがその姿を捉えたが、捕縛する事は不可能だった。
山育ちである少年にとって、ここは遊び場であり、地形が違えど庭も同然だ。
ソウシはサーニアと共に山で遊んでいただけのつもりだったが、一向に攻めて来ないクラスメイトを疑問に思い、集合場所に戻った時ーー
ーー最早、動ける者は皆無だった……
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