第23話 古代都市 その1

 「ということで、私が先に古代都市に単身で潜入して、システムを乗っ取るか、無理なら無効化してしまいます。

 ある程度作業を進めた段階で私が合図をしますので、みんなで領都へ突入してください。」

 明日香が立体映像で領都と地下の古代都市の概要を示した画像を見せながら俺たちに説明する。


 「でも、一人で古代都市へ行くのはいくら明日香でも危険じゃないかい?さすがに明日香一人で魔神ニビルと出会ったら勝てるかどうかわからないだろう?」

 エミリーが難しい顔をしている。


 「最初の予定よりは危険かもしれないけど、こう見えても魔法をいろいろ使えば、潜入工作はお手の物だわ。それに戦いになりそうになったらすぐに逃げるから。

 その際に『古代都市の防御機構が一定時間機能不全になるよう工作』すればいいだけだからね。」

 「でも、相手が古代迷宮のキメラ魔神と同等以上の能力を持つ狡猾な魔神なんでしょ?さすがに不安です。」

 「そうだ、明日香!お前ひとりで危険に飛び込むことはないんだ!」

 明日香の言葉にアリーナ王女と俺が反対する。


 「二人ともありがとう。」

 明日香が一瞬とても嬉しそうに笑う。


 「でも、大丈夫。このナビの危機管理機能はものすごく高性能で、日々進化させているから。それと、『防御機能の停止』を最優先事項にして、余裕があったら『防御機能の破壊』をする…くらいにしておくからね?心配しないで。」

 明日香が困ったような顔で笑うので、俺は言葉に詰まる。


 「俺は明日香姉ちゃんの意見に賛成だね。」

 哪吒子がいつもよりずっと真剣な顔で言う。

 「俺が見たところ、明日香姉ちゃんが魔神ニビルと戦おうとするならともかく、潜入と工作に専念するのであれば『油断さえしなければ』確実に古代都市の防御機能だけを停止させたうえで戻って来れると思うな。

 明日香姉ちゃん、くれぐれも『引き際が大切』だから、そこだけ注意してくれ。」

 「わかったわ。哪吒子ちゃん、肝に銘じます。ありがとう。」

 哪吒子の言葉に明日香は真剣にうなずく。


 こうなっては誰も明日香を止めようがない。

 明日香は透明になる魔法を自身に掛けると同時に領都に向けて飛んでいった。



 「ほお!例の魔法使いが一人で先に潜入してきたか?!!くっくっくっく!どうやら我を出し抜くつもりのようだな。ジャッジメントよ!引き続き監視を続けよ。

 我は古代都市内にならいつでも自在に転移できるのだよ。ちょうどいいタイミングを見計らって『防御機構に取り込んで』くれるわ!!」

 玉座に座ったままニビルが嗤う。




 「げええ…。スゴイ魔物の数だな…。さすがは邪神の本拠地というところか…。」

 領都を見下ろす丘の上から都市と巨城を俺たちは見やる。


 地上には死霊騎士やグールなどのアンデッドの群れや、ミノタウロス、ケルベロスなどの怪物の群れ、さらに上空にはキメラやグリフォン、ドラゴンが空を覆い尽くさんばかりに飛んで、こちらを見据えている。

 都市への入り口付近には特大の一つ目巨人サイクロプスや漆黒の巨竜など大怪獣ゴメラ並みの大きさの怪物たちまでいる。

 「へええ、俺たちの到着をしっかりと捉えていたようだね♪」

 哪吒子が腕を八本に増やしてそれぞれの手に剣や槍などの各種武器を構えてにやにやしている。


 「ザップマンちぇーんじ!!」

 じいちゃんは懐からとんがったデザインのサングラスを取り出すと、自分の目に押し当てる。

 光と共に銀と青を基調とする巨大なじいちゃんヒーローが出現する。

 「アーンド、第二変身!!!」

 巨大化したじいちゃんがさらにポーズを取ると再びじいちゃんが光に包まれ、さらに三倍くらいい大きいザップマンになる。


 「ザップマンビッグじいちゃん見参!!!アンド、全方位ザップマンフラッシュ!!」

 ビッグじいちゃんは腕をクロスさせると手から光線をあちこちに向かって無差別に放った。

 三〇秒と経たないうちに空は青空になり、地上には見渡す限り黒焦げの死体だけが横たわっていた。

 そして、じいちゃんは元の大きさに戻ると、灰になって燃え尽きていた。

 「燃えたぞ…、燃え尽きたんじゃ…。」


 「では、スーパー回復魔法!」

 アリーナ王女がじいちゃんに呪文を唱えると、真っ白に燃え尽きていたじいちゃんが、普通にヘロヘロになったじいちゃんに戻っていた。

 「…ふう…。ここまで回復させるだけでかなり魔力を消耗しますね…。

 じゃあ、もう少し回復してもらって…。」

 「アリーナちゃん、待って!!じいちゃん、もう本気で死にそうだから、さすがにかんべんして!!」

 「えい♪スーパー回復魔法!」

 いやがるじいちゃんにアリーナ王女は情け容赦なく回復魔法をかけて、じいちゃんは元に戻った。


 「さあ、おじい様、ガンバ♪」

 「………うん…………ガンバ………。」

 元気になったはずなのに、顔色が真っ青なじいちゃんが呆然とうなずいている。


 「これで少しは楽に……いや、さすがは最後の拠点だ。そうそう楽はさせてもらえないようだね。」

 エミリーが城塞都市を厳しい目で見ながら言う。

 なんと、怪物の死体が全て凄まじい速度で一カ所に集まりながら一つの塊を形成しつつあるのだ。

 そしてその塊は死体が集まるごとに発する邪気をドンドン強めつつある。

 まもなく、塊は巨大なゾンビのようにも見える人型のおぞましい怪物となった。


 「勇者どもよ!ここが貴様らの墓場だ!!」

 城門からは巨大な騎士を先頭に騎士団と思しき連中が飛び出してきた。

 数は一〇〇体くらいだが、どいつもこいつも発する気配がただものではない。

 そして、先頭には馬に乗った段階で高さ五メートルくらいの金色の鎧を着こんだ騎士が凶悪な気配を発している。


 「俺はニビル様親衛隊長シグルトだ!!そこにいる七柱の一体コントンと共に貴様らを叩き潰してくれるわ!!」

 七柱以上とも思える闘気を纏った騎士は低い声で叫んだ。




 「雷神ライジーン起動!!」

 エミリーが叫ぶと、エレキゴーレムが立ち上がる。

 今回は明日香ではなく、シャリーがエレキゴーレムの魔力をサポートする。

 身長五〇メートルの雷神はライピョンさんを内部に取り込むと、ザップマンビッグじいちゃん以上の大きさになった怪物の集合体『コントン』の方に向かって飛んでいく。


 「五倍雷神拳!!」

 全身に雷を纏った雷神はその右拳をコントンの胴体に向けて叩きつけた。



 「乾坤圏けんこんけん乱れ撃ち!!!」

 哪吒子は風雪輪に乗って、向かい来る騎士たちの前へ飛んでいくと、炎を吹きだす丸い円

環をいくつも飛ばして騎士たちを次々にバラバラに切り裂いていった。

 数分経たないうちに残っているのは親衛隊長シグルドだけになった。

 「…き、貴様?!!」

 青い顔をしながらもなおも戦意を喪失しない、シグルドに哪吒子が笑いかける。


 「へえ、さすが親衛隊長さんだ。これだけ仲間がやられてもまだやる気とは大したもんだ。

 だが、敵との戦力差を把握できないようでは指揮官としては失格だね。

 ザコは何人集まってもザコだ。何人集めても物の役には立たんよ。

 俺を止めたければお前さんクラスを何人か揃えるか、ニビルクラスが来ないと話にならないぜ。

 さあ、シグルドさんよ。思い切りりあおうか♪」

 武器を構え直すと哪吒子は嬉しそうに笑った。




 『ここが、古代都市防衛機構の制御システムですか…』

 『そうよ、バハムート。ここのコントロールを奪ってしまえば、防衛機構が逆にニビルを潰すように動いてくれるわけ♪』

 レインボードラゴンとテレパシーで会話しながら、姿を消したまま、明日香はギリシャの神殿のような場所に設置された巨大な水晶柱のようなものに近づいていった。

 そして、懐から石板を取り出すと、水晶柱の傍に設置し、魔法を唱える。

 明日香が魔法の詠唱を終えると、石版が光り出すと同時に触手のようなものが水晶柱に伸びていき、水晶柱を覆っていく。

 同時に石板が放つ紫の光が水晶柱を覆い尽くす。

 『その石板はなんなのですか?』

 『迷宮都市の管理システムを基に作った防衛機構の乗っ取り装置よ。これで、ものの五分で防衛機構は完全に私のコントロール下に入るわ。』

 自分の魔力を防衛機構に浸透させながら明日香がレインボードラゴンに説明する



 「おのれ!勇者め!そうはさせんぞ!!」

 影のような存在が不意に明日香の後ろに現れる。

 その凄まじい闘気はそいつが七柱の一柱だと明日香に気付かせる。


 巨大な鎌を持ち、黒ローブを纏ったそいつは瞬時に明日香に斬りかかる。

 「我はハデス!七柱で最も死に近い…。」

 「邪魔よ!」

 明日香が小さくつぶやくと明日香の右手が光り、青白い光柱がハデスに向かってほとばしる。


 「ばかな?!!七柱である我を一撃で…。」

 胸にぽっかり穴が開き、存在そのものが大きく揺らいでハデスが愕然とつぶやく。


 「相手を甘く見過ぎ。レインボードラゴンの本質は『魔力タンク』兼『魔力増幅装置ブースター』だから。今の私は七柱クラスでは全然相手にならないわ。」

 明日香が冷然とつぶやくと、ハデスは砂のように崩れていった。



 「はっはっはっはっは!!驚いた!予想以上だ!」

 崩れ去るハデスの後方に凄まじい邪気と共に圧倒的な闇の存在が姿を現す。


 「あら、黒幕の出番にしては早すぎない?」

 「いや、君をこれ以上は放置できないのでね♪」

 邪神と明日香はお互いに笑いながら睨みあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る