第108話 交渉……
「ローミラール本星と交渉します。サレグロ副団長、あなたに通訳を依頼します」
私は早速計画を実行する。
「交渉と言っても、こちらからワープ通信を用いても片道2年かかる。細かい交渉などできるのか?」
「問題ありません。あなたには私たちと一緒に母星へ帰還してもらい、交渉に同席してもらいます」
「なんだと、貴様たちの船もワープ技術を持っていたのか!
それにしては外宇宙に進出した形跡がなかったが……」
「あなた方と我々では根本的な技術が違うのです。しかし問題ありません」
私は言い放つが早いか、カスミちゃんとサレグロ副団長を巻きこんでエリアテレ-ポートでローミラール星へ移動する。
「なっ何だと!ここはローミラール本星ではないか!!
まさか、貴様たちのポータブル転送技術は一瞬で1000光年を飛べるのか!?」
「質問に答えるつもりはありません。
それより、ローミラールの意志決定機関に連絡を取りなさい」
私たちは一番大きい都市部の人気が無い路地へテレポートアウトしたのだが、町並みから瞬時に母星へ帰還したことを悟った副団長は、しばし硬直してしまい固まった。
私はサレグロ副団長に声をかけ、早急にローミラールの意志決定機関に連絡を取るよう促す。
ふらふらとおぼつかない足取りではあったが、サレグロ副団長は路地から明るい表通りへと移動し、一際大きな建物の方へと歩いていく。
「あの建物があなたたちの政府の中心なのかしら」
「ああ、我が星間帝国政府の中央庁だ。軍事国家である我が帝国は、最高の権力中枢として提督会議が存在している。いまから、提督会議の本会議場へと移動する」
サレグロ副団長が中央庁の衛兵に声をかけると、蜂の巣をつついたような騒ぎになる。
1000光年の彼方へ遠征に出たはずのサレグロが、突然単身で中央庁に現れ、明らかに異星人と思われる私たち2名を伴っているのだ。騒ぎにならない方がおかしい。
私たちに銃口を向ける衛兵もいたが、かねてからの打ち合わせ通り、私とカスミちゃんでパイロキネシスを発動し、射程内の銃器は全て溶融した金属塊へと変えていく。
やられる前にやれである。
私たちが気がつかないうちに引き金を引かれれば、防御のない私たちでは致命傷をもらいかねない。
カスミちゃんが目視できる距離の銃を、私がエンパシーで敵意を感じるところをクレヤボヤンスで透視して遠距離の銃を全て無力化する。
ローミラール星人にとっては、何が何か分からないうちに銃が熱くなり、溶融した金属球にまでなっていく、まか不思議な現象に感じていることだろうがそんなことはお構いなしだ。
サレグロが止めているのか、私たちを直接物理的に攻撃しようとする兵は今のところいない。
時刻は正午前なのだろうか。中央庁舎は人の出入りも多く、案内された本会議場は、将に提督会議の真っ最中だったようだ。
サレグロ副団長は躊躇無くドアを開けると大きな声で提督たちの注意を引く。
最初はざわついていた提督会議のメンバーだが、サレグロの説明に聞き入り、やがて私たちを猜疑の目や敵意のこもった目で睨みつけてきた。
言葉は分からないが、感情はよく読み取れる。
「なんて言っているの?」
「貴君らのブラックホール兵器やポータブル転送技術が信じられないと言っている。
このままでは、私は狂っているか、反乱を企んでいるとでも思われてしまうかも知れない。状況はよくない」
私の説明にサレグロが答えるのとほぼ同時に、一番えらそうにふんぞり返っていた男が大きな声を上げると、私たちが押し入ってきたドア以外の7つのドアから兵士が5名ずつ、計35名、レーザー銃を用いて乱入してくる。
「抵抗すれば撃つと言っている」
サレグロ副団長が説明するのと同時に、警戒していた私たちはパイロキネシスで銃を溶融金属塊に変えた。
突然の超高温に、乱入してきた兵士全員が手にやけどを負い、銃だったものを床に落とす。
石造りの床は、燃えることこそ無かったが、明らかに融けたり割れたりしている。
状況が理解できないのか、最初に叫んでいた男が更に叫ぶと、手に大やけどを負いながらも兵士たちは私たちへと殺到しようとする。
「アイネちゃん、やっちゃう?」
「正当防衛よね…、やっちゃいましょう」
私はカスミちゃんと確認すると、サイコキネシスで迫ってくる兵士を端から順番に吹き飛ばし、反対側の壁に激突させた。
カスミちゃんもそれにならっている。
あっという間に無力化された35名の兵士を見て、さすがの提督たちも黙らざるを得なかったようだ。
しばしの沈黙の後、最初に大声を出した男がまた何か叫ぶ。
直後にサレグロ副団長も焦った様子で声を上げる。
「なんて言ったの?」
私が問うと、サレグロ副団長は悔しそうに説明する。
「あの頭の硬い最高提督殿が私の言葉を信じず、君たちの星へと3つの師団を派遣して殲滅せよと叫んだのだ。
いま、ローミラール本星には第五師団50隻、第18師団40隻、第37師団30隻の合計120隻が待機している。この120隻に出撃命令を出した」
「ということは、その120隻は私たちに宣戦布告したと言うこと?」
「そういうことだ」
どうやらこの星のトップも救いがたい人間がいるようだ。
「ということはやっちゃっても文句は言わないわね……」
「致し方ない」
「カスミちゃん、一旦もどるわよ」
私は、サレグロ副団長も伴い、カスミちゃんと三人で張りぼて宇宙船へとテレポートする。
そして次の瞬間、張りぼて宇宙船ごとローミラール本星の静止衛星軌道へとテレポートした。
「なんとシンプルな宇宙船だ。
そしてこの船もまた、一瞬にして1000光年を飛ぶことができるとは……
貴君らの技術は我々の理解を遙かに超越している……」
一人で驚いているサレグロ副司令はほうっておいて、早速ローミラール星周辺の宇宙船団を確認する。
サレグロの説明通り、100隻を超える串団子が惑星の周回軌道にのっていた。
「それじゃあ、遠慮無くやらせてもらうわ。カスミちゃん用意はいい」
「準備OKよ。はじめましょう」
自分たちの星でないことをいいことに、私とカスミちゃんは大きめのブラックホールをたくさん作り、片っ端から宇宙船をブラックホールの藻屑へと変えていく。
サレグロ副団長は自国の船団がやられているのを複雑なまなざしで見つめているが、やらなければやられるのだ。私たちに躊躇は無い。
あっという間に、120隻の敵艦はブラックホールの中へと姿を消した。
私たちは再び議会へとテレポートする。
突然消えた私たちが再び現れたことに、提督会議のメンバーは驚いていたが、それよりも直後に入った艦隊全滅の知らせに、議場は水を打ったような静けさに包まれたのである。
「サレグロ副団長、開戦するなら次はこの星系ごとブラックホールに消えてもらうと伝えなさい」
私の言葉に頷きながら、サレグロ副団長は議場の提督達へ語りかけた。
交渉は滞りなく行われ、私たちとローミラールの間に不可侵条約が結ばれることとなった。
もちろん、強硬論を唱える提督も何人かはいたが、1時間も持たずに3つの師団が消滅したことにより締約内容は私たちに有利なものとなった。
この条約をローミラール側が破った場合は、私たちのブラックホール兵器がローミラール星そのものに対して行使されても一切の責任はローミラール側にあるという内容となり、逆に私たちにはペナルティーが無いのである。
ちなみに、大きめに作ったブラックホールが、いくつか蒸発しきれずに惑星の回りに残っていることに気がついたのは、随分後になってからのことだ。
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【次回予告】
次話からいよいよ最終章突入。
今までの伏線を完全回収。
ついに世界の謎が明らかとなる予定。
次回更新は12月1日土曜日の予定です。
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