第78話 冒険者に二重登録した件について……


 土曜日の朝である。

 昨日の夜更かしでサラセリアから帰ってくるのが少し遅れ、もう少しでメイドが起こしに来る時間になってしまうところだったが、ぎりぎり王都の侯爵邸にもどることができた。


 今日は、カスミちゃんと一緒にカオリーナもつれてお出かけ予定だ。

 お父さまとお母様は子供だけでピクニックに行くことに心配そうだったが、カスミちゃんと一緒にお出かけすると言うことで何とか許可が下りた。


 ちなみに、冒険者として狩りをする予定であることは内緒である。


 午前9時にピクニック用の移動しやすい服でカスミちゃんが迎えに来た。

 私とカオリーナも革のブーツに乗馬用のようなぴっちりしたズボンを着用し、護身用の短剣をベルトに刺している。


 迎えに来たカスミちゃんを二階の窓から見てみると、かなり離れた物陰から様子をうかがっている男の人が見える。

 不審者かも知れない。

 ただちにクレヤボヤンスを発動して様子を見ると、皮の簡易鎧に片手剣を携行したジョーイさんだった。

 どうやら、カスミちゃんが出かけるのが心配で、こっそりついてきたようだ。

 男爵様が護衛も連れずに出歩くのもいかがなものかと思う。

 まあ、護衛も連れずに出歩いている侯爵令嬢の私に言えたことではないが……


 私はカスミちゃんと合流すると、ジョーイさんがついてきていることをカスミちゃんに告げた。

「どうする。ジョーイさん心配してついてきているみたいだよ」

「まきましょう」

 即答だった。


 町中の商店が集まる地区まで来ると、クレヤボヤンスでジョーイさんを確認する。

 なんだか人数が増えている。

 同じような格好をした男の人がもう一人いた。


 見覚えがある。

 というか、お父さまだった。


 公爵様が護衛も連れずに出歩くのはいかがなものかと思う。


「どうしよう、カスミちゃん。

 うちのお父さまもついてきているみたい……」

「まきましょう」

 またしても即答であった。


 私たちは商店街地区で一番大きい刃物を扱うお店に入る。

 手頃な片手剣を私とカスミちゃんの分購入し、カオリーナには刃渡り30センチほどのサバイバルナイフのような剣を買い与えた。

「いい、カオリーナ。

 刃物は危ないから人に向けて使っちゃダメよ」

「あい」

 言い聞かせると可愛く返事をするが、滑舌が悪くまだ片言である。

 そこが可愛いのだが……。


「かわいいー」

 カスミちゃんが思わずカオリーナを抱きしめる。


 ビックリしたカオリーナは例によってサイコキネシスでそこら辺にあるものを動かそうとしたが、いち早く気がついた私は何とか動きそうなものをカオリーナよりも強い力を込めたサイコキネシスで固定することができた。


 店内の他のお客さんは、手に取ろうとした包丁やナイフが急に展示台に張り付いたように動かなくなったことにビックリしている。


『ごめんなさい』

 心の中で謝っておいてカオリーナをなだめる。


「大丈夫よ、カオリーナ。

 それに町中でむやみに力を使わないようにね」


「ごめんなさいねカオリーナちゃん、ビックリさせちゃって」

 カスミちゃんも事態に気づき謝っている。


 カオリーナが落ち着いたところで刃物を固定していたサイコキネシスを解除すると、さっきまでびくともしなかった包丁が突然動くようになったことに、再び買い物客がビックリしていた。

『ごめんなさい』再び心の中で謝っておく。


 店の入り口にはいつの間にか意気投合したらしいお父さまとジョーイさんが店内の様子を伺っているようだ。


 私たちは会計を済ませるとお父さまたちが見張っている入り口とは反対の扉を開け、とりあえず冒険者ギルドに向かった。


 サラセリアの冒険者カードをそのまま使ってもいいのだが、名前がアリアになっているので、ここは本名で新規登録することにした。

 二重登録である。


 普通の冒険者なら、登録し直すとそれまでの実績がチャラになり、ランクも下がるため、活動拠点の街や国を変えても変更登録するのみで、新規登録し直すことはめったにない。

 しかし、私とカスミちゃんは年齢制限で実績がほとんど評価されることのない見習い冒険者にしかなれないので、サラセリアでの討伐数などの引き継ぎはあまり気にしなくていいだろう。


 カスミちゃんも冒険者カードの新規登録に付き合ってくれ、新しいカードをつくった。

 カオリーナだけはまだ4歳なので、見習い冒険者にもなれない。


 私たちがギルドのマークの焼き印がついた木のカードを受け取っているのを見て、自分もほしがって困っていると、受付のお姉さんが気を利かせておもちゃのカードをくれた。

 剣と盾のギルドマークの代わりにお姉さんの手書きの似顔絵が入ったカードである。

 その似顔絵がとてもカオリーナに似ていて、私も書いて欲しいくらいだ。


 とりあえずまだ字が読めないカオリーナには本物とおもちゃの区別はついていないようだ。


 ギルドでは他の冒険者に嫌がらせをされることもなく、無事に登録することができた。

 とりあえず薬草の採取依頼を受けてギルドを出る。


 さて、いよいよピクニックである。







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