第65話 ヒロインだったカスミちゃん… (65話)
私はしばし呆然としてしまった。
いつの間にか自己紹介はあと5人ほどで終わるところまで進んでいた。
間違いない。カスミちゃんが乙女ゲームのヒロインだ。
ヒロインは高い魔力と運動能力を有し、その能力と優しい性格で攻略キャラと仲良くなっていく。
平民として育ち、ゲーム開始時は男爵令嬢として登場する。
全て、今のカスミちゃんの条件と合致している。
しかし、今のカスミちゃんが私を破滅へと誘(いざな)うなどあり得るのだろうか。
それは、「今の私がカスミちゃんをいじめることがない」ということと同じくらい、あり得ないことのように感じる。
とりあえずは事実確認だ。
放課後、カスミちゃんと話をしよう。
私がそこまで考えたとき、ちょうど最後の生徒の自己紹介が終わり、キャスリーン先生が明日以降の連絡を伝える。
「それでは、明日から授業をはじめます。
登下校は必ず学園の制服でするようにしてください。
武術や魔法の実技授業もあるので、動きやすい服装も忘れないこと。
1週間後のテストでは、鑑定の宝玉によるステータス測定と筆記テストがあります。
各自準備しておくように。
以上です」
そうだ、忘れていた。12歳の学園入学時にステータス測定があるのだ。
今回はどうやって乗り来るか。
このこともカスミちゃんと相談することにしよう。
ホームルームの終了が告げられると同時に私はカスミちゃんの方へ、カスミちゃんは私の方へかけだした。
二人が感動の再会を果たそうとしたその瞬間、中間地点の席にいたキャスバル殿下が嬉しそうに微笑みながら私へ近寄ってきた。
しかも、両手を広げて…
「嬉しいよアイネリア嬢。君の方から僕の元へかけてきてくれるとは!」
「いえ、思いっきり違います。
お友達がたまたま同じクラスだったので、感動の再会をしようと後ろへかけだした途中に殿下がいらっしゃっただけです」
私は殿下に説明し、殿下の後ろで事態推移について行けずフリーズしているカスミちゃんを指さした。
殿下は振り向くとカスミちゃんを見つめ、はっと気がついたような表情になる。
「アイネリア嬢のお友達というと、もしかして地竜のセキホウの飼い主の…」
「???セキホウを知っているのですか?
あっ失礼しましたワットマン男爵家のカスミといいます。」
「いや、こちらこそ失礼した。
第2王子のキャスバル・デル・アルタリアだ。
よろしく頼む」
「えっ王子様だったのですか。これは失礼しました。」
「いや、こちらこそお二人の邪魔をしてしまった。
しかし、セキホウの持ち主と言うことは、君もアイネリア嬢と一緒に冒険者をしていたのかい」
「はい、サラス共和国というところで、二人で冒険者をしていました。
1年前に伯父が他界し、父が後を継いだため、男爵家に入ることになりました」
「なるほど。
ということは君も冒険者としてかなり強いと言うことだよね!」
「どうでしょう?
自分では何とも分かりませんが…」
「そうだね。
アイネリア嬢共々、近いうちにゆっくり話をしてみたい。
今日はこの後、父上たちと用があるから無理だが…
よかったら、明日の授業の後に3人でお茶をしないかい」
キャスバル殿下が私とカスミちゃんを交互に見つめながら目をきらきらさせている。
これは、断ることはできないだろう。
私は、カスミちゃんとアイコンタクトをとると、了承する旨を伝えた。
王子は喜んで、教室から帰っていった。
後ろから嫌な視線を感じ確認すると、何故か、ナターシャさんとイリアさんが睨んでいた。
悪役令嬢二人は、私とカスミちゃんに悪意を抱いているようだ。
固唾をのんで見つめていると、二人は連れだって王子の後を追うように教室からいなくなった。
邪魔者はみんな去った。私はカスミちゃんを中庭に誘う。
「久しぶりね、カスミちゃん。
お時間あれば中庭で話さない?」
「久しぶり、アリアちゃんだよね?
名前が変わっているからよく似た人がいて勘違いしているのかとも思ったけど、
間違いなくアリアちゃんだよね!」
確認するようにカスミちゃんから聞かれた。
「ええ、そうよ。その辺も含めて、お互い近況報告しましょう」
「分かったわ」
私たちは二人で連れ立って中庭に行き、目立たないベンチに並んで座るとお互いの近況を報告した。
私が家出しているのは伝えていたが、偽名を使っていたことは伝えていなかったことを謝り、まさかの父との再会と公爵家との10兆マールの賭けや二人の王子とハクウンたちのことも伝えた。
一方カスミちゃんは、王子にも言っていたとおり、アルタリア王国の男爵令嬢だった。本人は物心ついたときには他国をジョーイさんと放浪中だったので、故国がどこかなど帰り着くまで知らなかったようだ。
しかも、まさかの貴族で、1年しかない期間中に貴族としてのマナーや基礎教養をたたき込まれ、かなり参ったと言っていた。
しかし、さすがは精神年齢34歳の前世持ちだけあり、教養科目はあっという間に克服したそうだ。
私と同じく、マナーやダンスには苦戦中らしい。
「空手の型と演舞なら得意なんだけどね…
ダンスはダメなのよ…」
分かる、分かるよ、カスミちゃん。
私も相づちを打ちながら同意する。
「私もダンスは苦手だよ。
特に、最近は、力がつきすぎてダンスの先生を振り回しそうになるのをどうごまかすかが難しいわ…」
「だよね…
ギガノトサウルスとなら普通に踊れるかも知れないけど…」
「いや、カスミちゃん。
それたぶん無理…
力は釣り合ってもサイズが違うし」
「あら、やだ。
もちろん冗談よ、アリアちゃん。
いや、今はアイネリア様って呼ぶべきかな」
「止めてよ、カスミちゃん。
アリアでもいいけど、親しい人はアイネリアからとってアイネと呼ぶわ。
前世の名前と同じ呼び方だから、アイネでお願い」
「分かったわ、アイネちゃん。
改めてよろしくね」
「こちらこそよろしく、カスミちゃん」
こうして、私たちは再び巡り会い、新たな環境で友情を深め合うこととなった。
カスミちゃんにヒロインであることを伝えると、「私は私よ」と不安を一蹴された。
学園生活は私が知らない展開へと既に突入しているのかも知れない。
カスミちゃんと一緒に過ごせるのなら、学園での生活も楽しめるのではないかなと、期待が膨らむのである。
このときの私は、もしバッドエンド展開になったらどうなるかを全く考慮していなかった。
そう、私を断罪するのはヒロインだけとは限らないのである…
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