第42話 お外で食事しよう… (42話)
リベンジ完了の2日後、私たちは青い月コロニーの私の部屋でだらけきっていた。
といっても、本当にだらけているのは私一人で、カスミちゃんは魔法(超能力)の練習中である。
「ねえ、カスミちゃん…
次の目標は何にしようか?」
「私はとりあえずクレヤボヤンスとかテレポーテーションとか成分抽出とか、できないことの練習かな…
アリアちゃん、練習に付き合ってくれる?」
「もちろん付き合うけど、そうじゃなくて…
ギガノトサウルスに勝つっていう目標を達成したから…
何か次の目標ないかなあ…って思ってるのよ」
「そういう目標か…
結構難しいかも…
だいたいギガノトサウルスより強い生き物ってこの星にいるのかしら?」
「そうよねぇ…
はぁー、ほんとに何しよう…」
大きな目標をやり遂げた後の虚脱感が私を苛(さいな)んでいるのだ。
おそらく、今やこの星最強となっているであろう私たちにはライバルが必要なのだと思う。
もちろん、カスミちゃんと私は友達であると同時に技を競い合うライバルでもある。
しかし、私たちは仲良くなりすぎた。
組み手をしていても剣を交えていても相手を本気で殺す必殺の気を込めた戦いはできない。
しかし、カスミちゃん以外で私が全力を出しても倒せるかわからない相手は今のところ見つかっていないのである。
私は、いつからこんな戦闘民族的思考にはまってしまったのかと自分にあきれつつも、何か刺激を求めているのだ。
しかし、政治も経済も安定しているこの国で、そうそう刺激は転がっていないのである。
人間暇になるとろくなことを考えないというが、刺激の欲しい私はふととんでもないことを思いついた。
「ねえ、カスミちゃん。
ハクウンたちを町の人に紹介できないかな…」
「えぇっ、無理でしょ!
大騒ぎになるよ」
「そうかもしれないけど、ハクウンとセキホウに乗って狩りとかできたら楽しんじゃないかと思って…」
「それはおもしろそうだけど…
地竜をペットにしています…って信じてもらえるかな…?」
「だから、まずは身近な人に紹介して、その人から伝えてもらうとかどう」
「身近なひとって…」
「ヘンリー隊長とジョーイさんよ」
「隊長とおとうさん…
それでも打ち明けにくいと思うよ。
第一、どこで2頭を捕まえて、飼っていたことにするつもり?
もともと二頭をつれて街に来るのは、私たちが成人して、ジャングルを探検してもおかしくない状況をつくってからの予定だったよね。
うかつなことをして、セキホウたちを危険にさらしたくないわ」
「そこは計画があるのよ。
聞いて、カスミちゃん」
訝(いぶか)しむカスミちゃんの目を見て私は続ける。
「南のルフルの森で卵を拾って育てたことにしたらどうかな。
森の中に隠して育ててたことにして……
大きくなりすぎてこれ以上隠せないと思って相談したことにするのよ」
カスミちゃんはしばらく考え込んで沈黙した後に言った。
「うーーん、確かにつじつまはあうわね…」
「でしょ!」
「善は急げよ!
今日の夕食を私たちのおごりにしてジョーイさんたちと外食しよう!」
「わかった。
お父さん、夕方には帰ってくると思うからまずはお店を予約しましょう。」
そうと決まればさっそく準備だ。
私たちは時々依頼を受けてビッグラビットを納入しているサラセリアの有名店“サラセリアステークハウス”に予約を入れることにする。
今日のノルマの薬草30本を冒険者ギルドに納入するとまだお昼前だったが、すぐにステーキハウスに向かう。
ステーキハウスの扉を開けようとしたところで、ちょうど中から出てきた店長のダンカンさんにばったりと出くわす。
「おや、ツインコメットのお二人じゃないかい。
ちょうどよかった。
今からギルドに行って急ぎの使命依頼を君たちに出すところだったんだ。
よかったら直接依頼にしないかい」
どうやらダンカンさんはビッグラビットの肉の依頼を出そうとしていたようだ。
一般に指名依頼は見習い冒険者に出されることは少ない。
しかし、私たちは見習い冒険者にして、異例の二つ名持ち。
ここ3年のビッグラビット討伐数では正規の冒険者を含めても、ぶっちぎりの第一位をキープしている。
おかげでダンカンさんをはじめ、精肉店の店長のクライムさんやサラセリアデラックスinnの料理長コンストールさんなど、私たちを指名してくれる人も多い。
ときには、ギルドを通さず直接依頼してくることもある。
直接依頼は、報酬が高い分、ギルドの討伐ポイントに加算されない。
しかし、私たちは見習い冒険者なので、いくらポイントを稼いでもすぐにランクが上がるわけではない。
現状までに討伐したビッグラビットの数を考えると、二人とも上級冒険者になっていても不思議ではない。
しかしながら、見習い冒険者期間に稼いだ討伐ポイントでは、正式な冒険者になったときに中級冒険者ランクまでのスキップしか認められていないのだ。
つまり、今いくらポイントを稼いでも、正式な冒険者になったときには中級冒険者からスタートと言うわけで、私たちには討伐ポイントを稼ぐ意味がないのである。
直接依頼にした場合は、ギルドに手数料を納めなくてよい分、依頼主は少し安価に、冒険者は少し多めに報酬をやりとりすることができるのだ。
「いいですよ。
急ぎですか?
私たちもお願いがあるんですが…」
「ああ、かなり急いでいるから買取料は少し色をつけるよ。
ビッグラビット100gあたり200マールだ。
最大丸ごと一匹買い取る。」
「それだと、ギルドから買い取るときと同じになって、店長さんに直接取引のメリットがなくなりますよ。」
私が心配になって聞くとダンカンさんは苦笑いしながら教えてくれた。
「無理なお願いをするからいいんだよ。
じつは、昨日の夜に予定外の団体さんが入って、ビッグラビットのステーキを一人5枚も食べていったんだ。
おかげでお店のビッグラビット肉の在庫はゼロだ。
このままでは今夜の営業に差し障る。
そういうわけで、今日の夕方5時までにさばいた状態で最低100kgのステーキ用ビッグラビットの肉が欲しい。」
「分かりました。お受けします。
でも買取金額は100gあたり170マールでかまいません」
わたしが答えるとダンカンさんは心配そうに聞いてきた。
「それじゃあ、いつもの175マールより安いじゃないか!
君たちが損するよ」
「そのかわりお願いがあります。
今日の夜、ダンカンさんのお店の個室が空いていればそこを4人で貸し切らせていただきたいんです。
料理は私たちが捕ってくるビッグラビットで作ってください。」
「ああ、そんなことでいいんなら、今日は4、5人用の個室がほとんど空いているから大丈夫だ。
君たちが食べるステーキの代金は私のおごりとしよう」
「「ありがとうございます。」」
私たちは声を揃えてお礼を述べた。
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