第39話 赤ちゃん恐竜 子育て日記… (39話)

 まず、私が抱えている白い方の卵のヒビが大きくなる。

 中から出てきたのは真っ白い赤ちゃん恐竜だった。

 まだ生まれたばかりで濡れているが、どうやら毛に覆われているようだ。

「キュイッ」

 真っ赤な眼(まなこ)で私を見つめてないている。

「もしかして、インプリンティング?」

 わたしがカスミちゃんの方を向いて聞くとカスミちゃんはちょっと困った顔をしていた。

「???ゴメン。インプリンティングってなに?」

「インプリンティングっていうのは鳥の雛なんかが最初に見た動くものを親と思ってしまうっていう現象よ」

「ということは、その子のママはアリアちゃん?」

「うーーん、この子にとってはそうなるのかな…」


 そんな話をしていると今度は茶色い卵が孵る。

「あっ、こっちは茶色い恐竜だ。

 目は黒いよ」


 カスミちゃんは赤ちゃん恐竜のつぶらな黒い瞳をのぞき込んでいる。

 これでカスミちゃんも恐竜のお母さんだ。


 2匹とも時間が経って毛が乾いてくると、モフモフしてきた。

 そして、そのモフモフの状態ですり寄って甘えてくる2匹。


「きゃーー可愛い!!」

 カスミちゃんが喜びの悲鳴を上げている。


 しかし困った。

 こんな幼子を元いた環境に帰せば、あっという間に肉食恐竜や猛獣の餌になってしまうだろう。

 かといって恐竜を育てる自信はない。

 第一、この子たちの最適環境は私たちには暑すぎるし、この部屋はこの子たちには寒すぎる。


 そんなことを考えているとカスミちゃんが話しかけてきた。

「ねえ、アリアちゃん。

 この子たち飼おうよ!」

「えっ、

 ………………それは私だって飼いたいけど、ここじゃ寒すぎるんじゃない?

 もちろん街に連れて帰ってもこの子たちにとっては寒すぎると思うわ」

「こんなにモフモフしてるんだから少しくらいなら大丈夫じゃないの?」

 そう言いながらカスミちゃんは茶色い子に頬をすり寄せる。


 子供と言っても50センチの卵から生まれただけのことはあり、中型のぬいぐるみほどもある。


「成長して大きくなったらそうかも知れないけど、小さいときは恒温動物でも寒さに弱いって聞くわよ」

「じゃあ、お風呂場にお湯張って暖かくして飼うのはどう?」

 この恐竜大好きっ子は、どうあっても飼いたいらしい。

「それじゃあ大きくなったら狭すぎるわ。

 それに餌はどうするの?」

「うーーーーん、それじゃあ……

 そうだ!

 この子たち専用の月面コロニーを新設すればどう!」


 なるほど。

 それならいけるかも知れない。

 餌となる植物ごとエリアテレポートさせ、恐竜エリアをつくるわけだ。

 温度管理も、そのコロニー内温度を赤道付近と同じくらいになるまで暖めるだけ。

 超能力で空気の熱運動を加速するだけでOKだ。


「たしかに、それならできるかも……」

 わたしが言うと、カスミちゃんはニコニコしながら立ち上がる。

「よし、善は急げよ!早速始めましょ!!」

 といっても、成分抽出やテレポーテーションは私しか使えないので、カスミちゃんは応援するだけなのだが…

 そんなことを思っていると、待ちきれなくなったカスミちゃんにせかされる。

「さあ、立って、アリアちゃん。

 まずは、この子たちの餌探しよ!」


 私たちは、2匹の赤ちゃん恐竜を連れて熱帯へテレポートした。




 2匹を保護したところへテレポートすると、もうギガノトサウルスはいなかった。

 捕食されたこの子たちの親は骨だけになっている。

 骨の形を見て、この子たちの親がトリケラトプスであることを初めて認識する。


 あのときはギガノトサウルスに意識が行っており、トリケラトプスの親の一部分しか見ていなかったので分からなかったのだ。


 そういえば、赤ちゃん恐竜の顔には角になりそうな突起が3つ確認できるし、小さい襟巻きもついている。


「この子たち、トリケラトプスの赤ちゃんだったのね」

 私が言うと、カスミちゃんも同意する。

「そうだね。

 とりあえず下におりない?」


 安全確保のため二人とも私のレビテーションで空中にいたが、大丈夫そうなので地上に降りる。


 赤ちゃんたちをそっと地面に降ろすと、何か感じるところがあったのだろうか、2匹はかつて母親だった巨大な骨に近寄り、そのにおいを確認するように顔を近寄せた。


 しばらくすると、2匹ともその辺りに生えている草や低木の葉を食べ始める。

 バッタに似た15センチほどの虫も捕まえて食べている。


 どうやら草食中心だが、虫なども少し食べる雑食性のようだ。


 本能のままに食事を取る二匹を観察しながら、恐竜エリアのクリスタルドームが完成したとき、エリアテレポートさせる土地を物色する。


 30分もすると2匹とも眠くなったのか、私たちのところにすり寄ってきた。

 どうやら満腹のようだ。


 カスミちゃんと一匹ずつ抱え上げるとすぐに眠ってしまった。

 私たちは再び月面コロニーの私の部屋に帰ると、早速恐竜エリアを作り始める。

 最初は小さくてもいいので、一刻も早くこの子たちの安住の地を作ろうと言うことになった。

 成長に合わせて徐々に拡大していけばいいのだ。


 私は直径30メートル高さ15メートルほどの小型ドームを作り、すぐに酸素を満たしていく。

 これくらいのサイズなら、1時間もあれば準備できるだろう。


 大きなコロニーにしなかった理由はこれである。

 大きいとドームを作るにも酸素で満たすにも時間がかかりすぎるのだ。


 ドーム内の空気が呼吸できる濃度になると、すぐに餌となりそうな草木がたくさん生えている一角をエリアテレポートさせた。

 どうせ、人跡未踏の地なので、少々派手にやっても大丈夫だろう。


 温度管理などの周辺環境を整えると、その間にカスミちゃんが粘土で作った二匹の住処を完成させていた。

 一見、ただの横穴に見える洞窟が、小型コロニーの中央にできていた。


「これで当面はOKね」

 カスミちゃんが満足そうにつぶやく。

「そうだね。これからは最低限の薬草を採取したら、こっちでこの子たちの面倒を見ながら訓練ね。」



 私たちは、トリケラトプスの成長を見守りつつ、肉体言語での打倒ギガノトサウルスを目指すことになったのである。



 ちなみに2匹の名前は白い方が白雲(ハクウン)、茶色い方が赤峰(セキホウ)に決まった。

 かっこいい角竜に育ってほしいものである。

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