第36話 人跡未踏の地のようです… (36話)

 翌日、いつも通りにヘンリー隊長と家を出発し、すぐにカスミちゃんと合流、南門に向かう。

 隊長と門で別れると早速アリバイ作りの薬草集めをはじめる。


 ここまでの1ヶ月ちょっとで、付近の薬草群生地はほとんど把握した。

 30本ずつ、二人で60本の薬草を採取しても1ヶ月ほどでほぼ元通り繁茂する。

 今は夏に向かう時期で植物の育ちも早いのだろう。


 およそ30分の作業でノルマの薬草集めを終わらせると、採取した薬草を目立たないところに隠し、テレポーテーションで昨日確認した熱帯地帯へと飛んだ。



 熱い。

 体感気温35℃くらいだろうか。朝間だというのにじっとしていても汗が出る。

 まして、私たちは春の装いである。

 見習い冒険者と言うことで、長袖長ズボンが基本だ。


「アリアちゃん。

 かなり、熱いね…」

 カスミちゃんが額の汗をぬぐいながらいう。


「そうだね。かなり南の方だからサラス共和国より10℃以上高温かも知れないね…」

「暑さでめげそう…

 けど恐竜に乗るためだ、私頑張る!」

 二人で決意を固めると早速恐竜を探す。


 いた。

 昨日見かけたアパトサウルスだ。

 6頭の群れだが何かサイズがでかいような気がする。

 近くの木もかなり大きい。


 そういえば地球にもジャイアントセコイアという樹高100メートルを超える巨木があったはずだ。


 あの木は、ジャイアントセコイアに負けず劣らずの高さなのかも知れない。


 アパトサウルスを脅かさないように注意しながら徐々に距離を詰める。



 近寄ってみるとどう見ても40メートルは超えている超大型恐竜だった。

 地球のものより一回りでかい。

 足だけでも抱えきれない太さだ。

 首も長く、頭はかなり上空に見える。

 30メートルはありそうだ。


 どうやらジャイアントセコイアの下の方の葉を食べているようだ。


 ジャイアントセコイアは推定だが樹高150メートルほどありそうだ。

 幹はとても太く、このまま木材として切り出せば、1LDKの部屋がすっぽり入っておつりが来るサイズである。


 前世で、最高に贅沢な家は屋久杉の一本彫りの家だと聞いたことがあった。

 直径5メートルを超える屋久杉を切り出し、部屋を彫刻のように削り出すことでつくった家のことである。

 もちろん、巨木を掘っただけだから、継ぎ目も釘も使っていない。

 最高に贅沢な一品だ。


 この、ジャイアントセコイアを使えば1部屋どころか家一軒を削り出すこともできそうだ。



 食事に夢中のアパトサウルスは私たちの様子など全く気にしていないようだ。

 アパトサウルスにとって私たちは蟻のような存在なのかも知れない。

 蟻が服の上を這ってきても私たちは気がつかない。


 これは、乗れるのではないか!


 私とカスミちゃんはゴクリとつばを飲み込むとお互いの視線を合わせうなずいた。

「乗ってみようか、カスミちゃん」

「うん、気がつかれないように一気に飛び上がろうよ」


 私たちは今日もつけていた訓練用の重量装備をはずす。

 私が200kg、カスミちゃんが100kgの重りをつけて行動し、たえず鍛えているのだ。


 身軽になった私たちは一番大きそうなアパトサウルスの側面にまわると思いっきりジャンプした。

 軽く30メートルは跳ねただろう。

 サイコキネシスで着陸地点を微調整しながらアパトサウルスの背中にふわりと下りる。

 アパトサウルスは気がついていないようだ。


 「高い!」

 カスミちゃんが感動に打ち震える声でいう。


 「そうだね。5階立ての屋上くらいかな?」


 しばらく二人で感動していたがやがて飽きてきた。

 そう、アパトサウルスは食事中のため動いてくれないのだ。


 このままでは小高い丘の上に立っているのと変わらない。


 硬い鰐皮のような皮膚のせいもあって滑りそうで怖い。


「動いてくれないね… カスミちゃん」

「そうだね…」

「他に行こうか…」

「そうだね…」


 そんな相談をアパトサウルスの背中でしていると、遠くから咆哮のような声が聞こえた。


「ギャーーース」

「ゴグァ」


 アパトサウルスは一瞬首をあげて声のした方を見るとすぐに移動をはじめた。

 移動と言うより逃走に近い。


 突然足下が大地震となった私たちはなすすべもなく転げ落ちる。


 何とか無事着地した私たちだが、残りの五頭が先頭を行く私たちの乗っていたアパトサウルスを追って迫ってきた。


「大迫力だねアリアちゃん」

「カスミちゃん、そんなところで感動に浸っていないで逃げないと危なそうだよ」

「そうだね… でももう少し…」


 私はカスミちゃんの襟首を捕まえると有無を言わさず跳躍した。

 直後に二番目に大きなアパトサウルスが私たちのいたところを踏みつぶしながら逃走していく。

 間違いない。

 向こうに何かいる。


「アリアちゃん、ヒッドーーい。せっかく恐竜さんから来てくれたのに!」

「いや、違うから…

 あれ、来てくれたんじゃなくて逃走経路に私たちがいただけだから…」


 涙目で抗議するお友達をなだめていると、再び鳴き声がした。


「ギャーーーオォーーース」

「ゴグァガァッ」


「カスミちゃん、向こうに絶対何かいるよ」

「そうだね、アリアちゃん!すぐに行こう!!」

「いや、アパトサウルスが逃げ出すような奴がいるってことだから十分気をつけないと…」

「分かってる分かってる。

 分かってるから早く行こう!

 新しい出会いが私を待っているのよ!!」


 どうやらお友達は極度の恐竜好きらしい……

 私は仕方なく、はしゃぐカスミちゃんを静めながら声のした方へと向かった。

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