第31話 ランホリンクス戦その後… (31話)

 さて、目を回しているランホリンクスをどうするか。

 放っておけば息を吹き返してまた悪さをするかも知れない。

「カスミちゃん。このランホリンクスどうする?」

「うーーん、何かこのままだとまずいよね」

「逃がせば被害が出るし、討伐すれば説明に困ることになりそう…」

「そうだね、さすがに空飛んで体当たりしたら落ちましたとは説明できないわ」

「この世界ではレビテーション自体使える人がいないんじゃないかな?」

「そうなの?」

「あれ、結構魔力を消費すると思うの。最低でも宮廷魔術師レベルの魔力1000位はないと連続して飛べないと思うわ」

「そんなに燃費が悪いんだ」

「そうよ、まして体当たりで翼竜を落とすほどのスピードは普通出せないはず…。ところでカスミちゃん、今魔力量はどれいくらいなの?」

「アリアちゃんほどじゃないけど、赤い月のコロニー作りでずいぶん伸びて今朝満タンの時は1200兆位だったわ」

「1ヶ月でよくそこまで伸びたわね!日本の借金と同じくらいじゃない!!」

「なんか、嫌なものと比べるわね。ところでアリアちゃんはどれくらいなの」

「最近は桁が大きくなりすぎて見てないのよ。魔力切れも全く起こらないし。魔力切れを起こしたときほどじゃないけど、使えば使うほど最大魔力は伸びるみたいだから、今も伸び続けていると思う…」

「ねえ、アリアちゃん。一度確認してみてよ」

「そうだね…」


 私は久しぶりにステータスを確認した。

 体力1915

 魔力9999+

 力 1860

 素早さ1727 


 なんか、体力とか力が更に伸びてるみたいだ。

 最近欠かさず続けているカスミちゃんとの組み手や訓練が影響したのだろうか。

 更に魔力に意識を集中して詳しく見る。


 9.99×10の9999+乗


 指数部分が振り切れていた。10の1万乗以上と言うことだろう。

 もはや笑うしかない領域である。


 カスミちゃんに私の魔力を伝えると笑顔が引きつっていた。


「ところで、カスミちゃんのステータスはどのくらいなの?」

「私なんて、アリアちゃんに比べればまだまだよ」


 そう言いながら教えてくれたカスミちゃんのステータスがこれだ。

 体力903

 魔力9999+

 力 901

 素早さ1026 


 もともと木登りや走り込みで鍛えていたところに、この一ヶ月の訓練で、カスミちゃんもずいぶん成長しているようだ。

 人外への道をともに歩む仲間ができて、私も心強い。

 特にカスミちゃんは素早さがよく伸びる 質(たち)のようだ。

 この調子でいけば魔力以外の全項目で冒険者になる前の私のステータスを追い抜く日も近い。



 私たちは話を戻して、ランホリンクスの始末についての議論を再開した。

「ねえアリアちゃん。ここは前にアリアちゃんが使った待ちぼうけ作戦がいいんじゃないかしら?」

 カスミちゃんが何か思いついたらしい。

「けど、つい1ヶ月前に私が使ったから、不自然じゃない?ウサギと飛竜の違いはあっても…」

「けど、このランホリンクス、私たちに向かって最初は滑空してきたよね」

「うん」

「だから、私たちがよけたらその勢いで地面に激突したことにするのよ」

「なるほど…………、それならいけそうね」

「そうでしょ。幸い最後は本当に地面に頭から激突して伸びてるし…」

「よし、それにしましょう。まずは、目が覚めても逃げられないように縛っておきましょう」

「何かヒモの代わりになりそうなものを探さないといけないわね…」

「蔓植物の丈夫そうなのを探してきてロープの代わりにしましょう」


 私たちは手分けして丈夫そうなツタをたくさん集めてきて、ランホリンクスを縛り上げた。

 飛べないように羽を固めて縛り付け、歩いて逃げられないように足も揃えて縛る。

 最後に近くにあった大岩に、首にかけたツタの反対側を結びつけて念押しした。

 後でギルドに運搬して処分は任せることにする。


「ところで、このとらわれのお姫様はどうする」

 私は牛を見ながらカスミちゃんに相談した。


「そうね。背中にランホリンクスの爪が食い込んだ痕があるけど、比較的元気そうね」

 カスミちゃんがそう言って牛の方を見ると、いままでおとなしく私たちの作業を見ていた牛がまるで元気だとアピールするように一声鳴いた。

「ウモーーーゥ」


「それじゃあ、飼い主に届けてあげましょう」

「それがいいわ。もしかしたらお駄賃をもらえるかも知れないから」


 私たちが牛を連れて、ランホリンクスが飛んできた方へ歩いて行く。

 30分ほど牛に合わせて歩くと、向こうから30代とおぼしき男の人が息を切らせて走ってきた。

「おおーーーい、君たち。この辺で牛をさらった飛竜を見なかっ……」

 そこまで言うと、男性は私たちの後ろからついてきている牛に気がついた。

「その牛は…、もしかして…」


「そうです。さっき飛竜が私たちも掠おうとして地面にぶつかったんです。そのときこの牛を保護しました」

 私が先ほど考えた言い分けを伝えると、横でカスミちゃんも頷いている。


「そうか、その牛はうちで飼っている乳牛なんだ。昨日も1頭掠われて、このままでは破産すると、追ってきたんだが、もうダメだとあきらめかけていたところだったんだ」

「少し背中に怪我をしているようですけど、命に別状はないみたいです」

「よかった。ホントにありがとう。後で改めてお礼するよ」

「困ったときはお互い様です。気になさらないでください」

「いや、それは悪い。今日は持ち合わせもないから、せめて名前と連絡先だけでも教えてくれないか?俺は西門の外で牧場を経営しているドナルド・カシューって言うんだ」


 悪い人ではなさそうだ。

 私たちは話し合って自己紹介することにした。


「私は、見習い冒険者のアリア・ベルっていいます。南門衛兵隊長のヘンリーさんのところに身を寄せています」

「私も見習い冒険者で、カスミ・ワットマンといいます」

「私たちに連絡を取りたいときはヘンリー隊長に言づててください」

「ああ、分かった。余裕ができたら改めてお礼に行くよ。今日は本当にありがとう」


 私たちは挨拶を交わして別れ、それぞれ元来た道を戻っていく。

 さあ、これから、飛竜の報告だ。

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